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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第10章 ドワーフキャラバン編
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まずは施工主の要望を聞いてから

 死神長屋の朝は早い。

 ぼて振りの浅間は、日が昇る前には、仕入れに出かけているし、大工の信濃は、天気が良ければ遠くの普請場まで足を運ぶ為に、暗いうちに長屋を出ていた。

 髪結いの梓は、早朝に湯屋に来る客の為に、身支度を終えて家から出てきた所である。


 「ギャギャ(おや、傘張りの旦那はまだ寝ているのかい?)」

 一軒だけ、住人が起きていなさそうな家があった。

 傘張りを内職にしている浪人、渡里雪乃丞だけは、放っておくと、昼過ぎまで寝ているのが常であった。


 「ギャギャ(旦那、もう朝ですよ、起きてくださいよ)」

 梓が外から声を掛けるが、一行に返事が無い。彼女はあきらめて仕事場へと向かうのであった。



 やがて昼過ぎになると、寝ぼけ眼の浪人が、伸び放題の髪をボリボリ掻きながら、長屋から出てきた。

 井戸端に行くと、釣瓶で水を汲み上げて、盥に移す・・

 「ういーー、冷たいっす」

 二日酔いの顔を、冷たい井戸水で洗って、さっぱりした浪人は、日課の掃除に取り掛かった。

 

 長屋の突き当りには、小さな御社が祀られていて、長屋の住人が交代で、掃除やお榊の取替えをしているのだった。そして他の者が、外に働きに出ている以上、その役目は渡里に回ってくることが多いのである。


 「これも、拙者のお役にござるっすよ」

 そう呟きながら、御社の小さな扉を開いた。

 中には、小動物を象った小さな石像と、お神酒、お榊を供える器が並んでいる。


 お神酒の杯には、井戸水を、お榊立てには、野草を供えて拍手を打つ・・

「大江戸大明神様、今日も長屋の住人が息災で過ごせるようにお守りくだされっす・・」

 渡里は、ハリモグラを象った神像に、無病息災を祈った。


 掃除を終えて、扉を閉めようとした渡里の目に、石像の背後に隠された、和紙に包まれた何かが映った。 そっと手にとって、袖口に落しこむと、何食わぬ顔で扉を閉めた。


 だが、自分の家に戻って、その包みを開いた渡里の顔には、別人の様な険しさが浮かんでいた・・



 その夜、他の住人が寝静まった頃に、渡里の家に集まる4人の姿があった。


 「ギャギャ(今度の依頼人は誰なんですか?)」

 「依頼人は魚骨長屋の住人で、まだ5歳だそうっす」

 「ギャギャ(そんな子供が、仕置き人に頼みごととは、よっぽど思いつめたんだな・・)」

 「なんでも、母親が借金の形に無理矢理連れていかれて、賭場で酌婦として働かされているらしいっす」

 「ギャギャ(で、その悪の元締めの名前は?)」


 「冥途の加持屋の異名を持つ、女親分っすね・・」

 「ギャギャ(おいおい、大看板じゃねえか、迂闊に手を出したら、返り討ちに合いかねないぜ)」

 「ギャギャ(それで報酬は?・・)」

 「今回は、依頼人が子供なので、包まれていたのは、蟋蟀が5匹っす・・」


 4人の間に沈黙が流れた・・

 子供としては精一杯の報酬なのだろうが、何十人もの手下を抱える、大親分を相手にするには安すぎた・・


 「キュキュ」

 そこに、いつの間にか姿を現した、頭巾を被ったハリモグラが立っていた。

 「ギャギャ(御前、いつの間に?!)」


 「キュキュキュ」

 「ギャギャ(この仕置き、受けろとおっしゃるのですね・・)」

 「キュ」

 そう言って、正体を隠したハリモグラは、懐に蟋蟀を仕舞うと帰っていった。

 

 後には、4つのリンゴが残されていた。


 「ギャギャ(へへっ、御前も粋なことをなさる)」

 浅間がリンゴを一つ掴み取った。

 「ギャギャ(オイラは蟋蟀でも受けてたけどな)」

 信濃もリンゴを一つ掴んだ。

 「ギャギャ(なら、それは置いていっても良いんですよ)」

 梓は、自分用に一つ掴むと、最後の一つを手ぬぐいで磨いて、渡里に手渡した。


 渡里はリンゴを受け取ると、一口齧ってから宣言した。

 「闇の仕置き人が、この仕事、請け負ったっす・・・ゲハッ!」


 そして血を吐いて倒れた・・・


 その後、毒殺の犯人を巡って疑心暗鬼に陥った仕置き人は、人知れず、解散したという・・・



  -- 完 ーー



 「というコンセプトで、長屋を造りたいっす・・」

 延々と喋っていたワタリの妄想を聞き終えて、僕らは、ぐったりしていた。


 「突っ込みたい所が山盛りなんだけど、まずは、これ、ゴブリン長屋の設計の話だよね?」

 「そうっすね」

 「なんで時代劇風なの?」

 「長屋のイメージを表すには、これっす」

 それにしては、要らない要素が多すぎだよね・・


 「私からも一つ宜しいでしょうか?なぜ私の配役が悪の元締めなのですか?」

 「やっぱり賭場と言えばカジャの姐御っすよ」

 「リザードマンの女性から、扱いについてクレームが来そうなのですが・・」

 貸しを作って、メイドに引き込むとか、微妙に有り得そうなのが、怖いよね・・


 「ご主人様、何か仰りたいことでも?」

 「いえ、何も」

 『がくぶる』


 「ギャギャ(ワタリさんを殺したのは誰なんでしょうか・・)」

 ああ、浪人の毒殺犯ね・・なぜ必殺仕置き人が毒殺されるのかも良くわからないけどね・・

 「ギャギャ(実は御前が、証拠隠滅の為に・・)」

 「ギャギャ(そもそも依頼の子供が仕組んだのかも・・)」


 「リンゴを噛んだら、口から血を流すのがお約束っすよね」

 それは歯茎だね・・

 

 「ギャギャ(やはり殺人現場には、歯形のついたリンゴが残されているんですね・・)」

 それだと、名探偵が登場しちゃうね・・


 「そもそも長屋の配置には、リンゴや蟋蟀は関係ないと思われますが?」

 カジャがバッサリ切り捨てた。


 「えっと、井戸のある細い通路の両脇に、向かい合って数軒の部屋があれば良いのかな?あと、突き当たりに御社も必要なのかな?」

 「あると良いっすね。普通は狐を祀っているらしいっすけど、うちはハリモグラで」


 大江戸大明神って、実在しそうで怖いんですけど、大丈夫なんだろうか・・


 「キュキュ」

 『かしこみ~』




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