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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第10章 ドワーフキャラバン編
383/478

魔女の徴

投稿が遅くなりました。申し訳ございません。

本日の投稿は、お昼頃になる予定です。

 ナーガ族の隠れ里を旅立った、六つ子とその一行は、湿地帯を迂回しながら、南を目指していた。

 その行く手には、今まで見かけなかった、湿原の動物達も姿を現し始めた。 

 蜘蛛の大氾濫が収まったことを、本能で察知した動物達が、徐々に周辺から、元の住処へと戻り始めていたのである・・・


 「少し先を、カピバラの群れが横切っていくよ・・」

 召喚した鷹で、周囲を警戒していた、レンジャー妹が、リーダーに報告した。


 「今は、狩りをしている余裕はないから無視するぞ・・」

 「了解」

 少し残念そうに答えてから、鷹との同調へと注意を引き戻した。

 このカピバラ、肉は美味しいし、毛皮は撥水性が高くて利用価値が高い。ナーガの里に居る間もかなりお世話になったのだった。


 余裕があれば土産に一狩りしたいところではあったが、未だに寝続けている3人の弟達が、邪魔になっていた。

 「ねえ、そこらへんに捨てていかない?」

 うんざりしたドルイド姉が、ぼやきながら提案した。

 「少し怖い思いさせた方が、シャキッとするんじゃないかな・・」


 リーダーも少し考えたようだが、首を振った。

 「小動物以外にも、蜘蛛に追われた連中が舞い戻ってきている。ここで放置はリスクが高すぎるな・・」


 かなり離れていたが、沼鰐ぬまわにの集団が移動しているのにも、遭遇していたし、猛禽類のでかいのが、空を旋回しているのも確認されている。

 目覚まし用に、ハードなお仕置きをしたら、そのまま永眠してしまうかも知れなかった・・


 だが、こちらの苦労も知らずに、満足げな笑みを浮かべながら、馬の背中で揺られている寝顔を見ていると、つい、ロープを切って振り落としたくなる・・・


 「だったら、ロープで繋いだまま引きずっていくのは?」

 レンジャー妹が、妥協案をだしてきた。

 「「いいかも」」


 だが、実行に移そうとしたら、ナーガ族の見習い薬師達に、止められてしまった・・

 「「里の為に尽力頂いたのですから・・そっとしておいてあげて下さい」」

 

 その言葉を聞いたドワーフのセレンが、首を傾げて呟いた。

 「・・その人達も戦ったの?・・」


 「まあ、ある意味、戦ったのかな・・」

 「そ、そうね、精根尽き果てるまで戦ったのは確かね・・」

 「セレンにはまだ早い・・知らなくていいぞ・・」


 慌てて言い繕う3人の大人に、セレンは頷いた。

 「・・休息は大事・・」


 「セレンも疲れたら言うんだぞ・・」

 こまめに休憩を挟んでいるが、体力のない子供なので無理をさせていないか心配である。

 特に、この子は口数がとても少ないので、様子が分かり辛かった・・


 「・・まだ平気・・」

 そう言って、再び黙り込んでしまう・・


 六つ子の3人は、お互いの顔を見合わせると、ため息をついた。

 里にいる頃から、なんとか心を開いてもらおうと、努力を続けていたが、思ったようにはいかなかった。かといって、ナーガ族に懐くわけでもなく、ほとんどの相手から距離を置こうとしていた。


 唯一、2頭のアルマジロにだけは、笑顔を向けていた。

 もう家族と呼べる存在は、彼らだけなのを知っているかのように・・・


 姉妹が、なんとかセレンに声を掛け様と、努力していたとき、突然、彼女が呟いた。

 「・・空が赤い・・」

 

 「ああ、もう夕方だからね、それは夕焼けといって・・」

 そう言いながら西の空を見上げた、ドルイド姉が、絶句した。


 空が、血の色をしていたから・・・


 「なに、これ・・見たことない・・」

 他の二人も驚いて、ナーガ族の二人に尋ねた。

 「こっちではよくあるの?」


 「いえ、私達も初めて見ます・・こんな、毒々しい赤い空は・・」

 召喚した乗用馬も、荷物を背にしたアルマジロ達も、何かに怯えるように立ち止まっていた。


 同行していた、影狼のチョビとガイルだけが、東の空に向かって、威嚇している・・

 「チョビ、そっちに何かいるの?」


 レンジャー妹が尋ねても、2匹は東に向かって吠え続けているだけであった。

 まるで、そこに危険な何かが潜んでいるかのように・・・




 その赤い空は、最北湖からも見ることが出来た。

 「空が・・血に染まった・・」

 ロザリオは、赤く染まった空を見上げながら、呟いた。


 「伝承は本当だったのだな・・」



 ナーガ族の隠れ里でも、大勢の村人が、空を見上げて不安そうにしていた。

 「ベラ様、これは何かの予兆でありましょうか?シュル」

 「落ち着きなさい・・この事は伝承として語り継がれています。決して世界の終わりなどではありません」

 「ですが、空があのように・・シュル」


 「血に染まった空は、魔女が生まれた徴です・・おそらく、黒衣の魔女が代替わりを果たしたのでしょう・・」

 赤背後家蜘蛛の大氾濫と、それに続く空の異変。それらは全て、湿原の主である、黒衣の魔女が生まれ変わった事を示していた・・


 「で、ですが、魔女は天変地異まで引き起こすのでしょうか?シュルル」

 「私も実際に見るのは初めてです・・ですが先代の族長様の言っていた通りの現象ですから間違いないと・・」

 そう言って、族長のベラは、血の様に赤い空を目に焼き付けていた・・・




 空が赤く染まる、その少し前、黒衣の沼の地底洞窟には、魔女の眷属が全て集まっていた。

 しかし、その総数は、半分以下に減っていた・・


 「西に向かった部隊は、ほぼ壊滅・・神官も二人が戻らないとは・・」

 一人だけ目隠しをしている神官長が、想定外の被害にため息をついていた。


 「ですが、生き残った部隊は、それなりの生け贄を捕えてきましたが・・」

 「まったく足りていないのです。このままでは我等が主が再誕なされるだけの生け贄が足りません!」

 弁明する神官を、神官長は叱咤した。

 

 「し、しかし、これ以上の獲物は、時間が掛かります・・」

 「仕方がありませんね、我らの身で代わりを務めることにします・・」

 「は?」

 「聞えませんでしたか?我等が生け贄となって、主様の糧となるのです。名誉な事でしょう?」


 唖然とする他の神官を無視して、神官長は、洞窟の中央に鎮座する、巨大な黒後家蜘蛛に呼びかけた。


 「おお、偉大なる沼の主、時の御使い、蜘蛛の女王よ、再誕の時は来たれり。我らの全てを御身に捧げ、新たなる現身を呼び出し給う!」


 その祈りに反応して、眠っていた巨大蜘蛛が動き出した。


 「・・ギチギチ・・ソノネガイ・・キキトドケタ・・」


 そう言うと、手近なレッドバックウィドウを、前足で突き刺すと、口元に運んで咀嚼し始めた。

 蜘蛛達は、仲間が捕食されようとも、逃げもせずに、ただ、順番を待っているかのようだ・・


 しかし神官の中には、恐怖に駆られて逃げ出す者もいた。

 「嫌だ!俺は食われる為に神官になったわけじゃない!」

 「そうだ!死んでしまったら、何にもならないぞ!」


 口々にそう言って、地下洞窟から逃げようとした。

 しかし、それは叶わなかった・・


 逃げ出そうとした神官は、頭上から振り下ろされた、巨大蜘蛛の前足に串刺しにされて、即死した。

 そしてそのまま口元に運ばれて、咀嚼されてしまう・・


 仲間の最期を見て、咄嗟に呪文で逃げようとした者もいたが、巨大蜘蛛の腹部の文様が光を放つと、その動きを止めてしまった。

 その後に待っているのは、仲間と同じ運命しかなかった・・・


 やがて、延々と続いた殺戮が終わると、地下洞窟に静寂が訪れた・・


 そこには、眷属を生け贄にして再誕を果たした、黒衣の魔女と、その前に傅く、3人の神官がいるだけであった。


 「・・そなた達は、贄にするよりも役立ちましょう・・・我に仕えなさい・・」


 「「「ははっ、この身、朽ち果てるまで、主様に忠誠を!」」」


 「・・よろしい、まずは居なくなった眷族から増やすとしましょうかのう・・」


 そう呟いた、黒衣の魔女の顔には、黒い布の目隠しが巻かれていた・・・





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