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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第10章 ドワーフキャラバン編
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魔法少女の慟哭

 「ちょっと、なんでエルマがここに居るのよ!」

 『メイドの嗜みです』

 半透明の、儚げな姿は、どうみても幽霊もしくは亡霊の類である。


 その向こうで、ゆらゆらと漂っているのは、紛れも無く死神である。

 「あんたは、何しに出てきたのよ!」

 「どうも、闇の精霊改め、レッサーデスのレス、デス」


 それを聞いて、警戒の対象を死神に固定したのが、突然現れた銀色の骸骨守護者であった。

 「貴女は味方なのよね?・・」

 「無論だ、我が主の領域に紛れ込んだ不埒者を、取り押さえに来たに過ぎない」

 だが、見た目から言えば、ビビアンにとっては他の二人と大差なかった。


 「呪われてない?このダンジョン・・・」



 コアルームでは、各所に警報を出しながら、部屋の中の様子を伺っていた。

 「あの幽霊メイドは、どこから現れたんだろう?」

 僕の呟きに、あちこちから反応が返ってきた。


 『ギャギャ(そう言えば、最近麦畑に女性が立っているという噂がありました)』

 『オラは、悲しい歌声を聞いたことがあるだ・・』

 『洗い残しの食器が、いつの間にか綺麗になってました』

 『やっぱりアタイが見たのも、幽霊だったんだ、ジャジャー』


 混乱する情報の中で、冬狼のケンだけが、彼女を覚えていた。

 『バウバウ』

 『りょうしとめいど?』

 猟師?・・ああ、漁師か!あの暗黒邪神教団の良識派に居たね、漁師とメイド・・

 え?あのメイドの幽霊なの?


 『バウ』

 でも邪神の信徒になると、魂を捧げるか、囚われるかして、幽霊として現世に留まるのは無理なはずなんだけれど・・

 でも実際に戦ったケンが、断言するのだから、同一人物なんだろうね。

 『バウバウ』



 幽霊メイドの素性は分かったけれど、なぜビビアンを助けに現れたのかが、まだ謎だ。

 『主殿、それなのだが、どうやらゲストとメイドは知り合いらしいぞ』

 「マジですか?」

 『まあゲストにとっても予想外の出会いの様だから、昔の顔見知り程度みたいだが・・』


 なるほど、それなら幽霊メイドは一旦は無視でいいかな。

 「ロザリオ、低級とはいえ死神だけど、取り押さえられる?」

 『かなり難しい注文だな・・本気で戦わないと、逆に返り討ちにあう可能性が高い・・』


 死神は、アンデッドではなくインモータルだ。

 アンデッドの脆弱性を待たず、ターン・アンデッドも効果がない。物理・魔法両方に耐性があり、HPも凄く高い・・

 亜人や魔獣だと、魂を刈り取られて一瞬で瀕死にされてしまう。

 かと言って、スケルトン部隊などの低ランクアンデッドだと、支配を奪われて、最悪敵に回る可能性もあった・・


 『やっかいだな・・』

 「どちらにしろ、徘徊癖のある死神じゃあ、泉に居着いてくれないだろうから、倒すしかないね」

 『主殿、承知した』


 今ここに、不死者の王を決める戦いが始まろうとしていた・・・

 『のーきんぐ、のーらいふ』



 「その戦いに、アタシが巻き込まれる必要はないのよね・・」

 そう呟くと、ビビアンは、そっと部屋の壁沿いを回りこんで、扉に近づこうとした。

 しかし、その目論見は、ビビアンの動きを察知した死神に邪魔されてしまう。


 「何よ、アタシはあんたなんか呼んでないわ!」

 「いえいえ、口に出していないだけで、心の奥底では願っているのが聞えるのデス」

 死神は、あくまでビビアンに拘りがあるらしい・・


 「そうなのか?ゲストの魔法少女」

 ロザリオが、ビビアンに真面目に問いかけた。

 「そいつが勝手に言ってるだけよ!あと魔法少女って呼ぶな!」


 『彼女の黒歴史なのです、触れないであげてください』

 「エルマも人の過去を穿り返さないで!!」

 「なるほど・・若気の至りというやつだな・・」



 「悩むぐらいなら、いっそこちらに来ませんか?冥府も良い所デスよ」

 「なるほど、死神は、迷える魂を冥府に案内するというのは本当だったのか・・」

 「アタシの魂のどこが迷っているって言うのよ・・」

 ビビアンが叫ぶが、その声には力が無かった。


 『過去の心情を書き記した物ならここに』

 そういって、メイドはスカートの下から、数冊の日記帳を取り出した。それは、どういう原理なのか、メイドの手を離れると、その場に実体化した。

 『ビビアンネの日記です』


 「ちょっと、なんでそんな物を後生大事に持ち歩いているわけ!それも人目に曝すとか、ありえない!!エルマ、あなた、アタシの敵?敵になったの?!」

 『オババ様から、旅先で出会ったら渡すように言い付かっておりました』

 「あの意地悪ババア、なに手の込んだ嫌がらせを仕込んでいるのよ!!」


 喚きたてるビビアンを無視して、死神とロザリオは日記を読んでいた。


 「ふむふむ、やはり病んでいますね。ますます冥府が相応しいデス」

 「幼少期に罹る麻疹みたいなものだな、エルフの里にも何人かいたぞ」


 「あんたらも、人の日記を勝手に読むなーー!」


 ビビアンが、怒りに任せて魔法を発動しようとすると、室内に警戒音が響き渡った。

 『ぶっぶぅー』

 眷属であるロザリオが攻撃対象に含まれているので、ゲスト認定に齟齬がでるという告知である。


 「ちっ、命拾いしたわね・・」

 詠唱を取りやめた、ビビアンの殺意の篭った視線に、二人は慌てて日記をメイドに投げ返した。

 彼女は、それらを華麗に受け取ると、再びスカートの中へと仕舞いこんだ。


 「なんで幽霊なのに、物品の出し入れができるのよ?!」

 『メイドの嗜みです』

 「メイドなら、なんでも許されると思うな!」


 ビビアンの絶叫が、狭い室内に木霊するのであった・・・




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