魔法少女の願望
投稿が遅くなりました。申し訳ございませんでした。
私の枕元に、死神が立っていた。
黒い刃の大鎌を持った、黒いフード姿の死神だ・・
昔、夜更かしをすると、「悪い子には死神がやって来て、冥府に連れていかれるよ」と叱られた、その死神だ。
私が悪い子だったから、冥府に連れて行かれるのだろうか・・
父は、私が生まれなければ、無理な冒険をして死ぬことはなかった・・
母は、私がいなければ、エルフの里で苛められることはなかった・・
私は、人族の村では、チェンジリング(妖精の取替えっ子)と囁かれ、エルフの里では、フォーリング(堕落の申し子)と疎まれた・・
そんな私が、一時でも、幸せにしていたから、罰が降ったのだ。
あれは、私がまだ小さかった頃・・
「女の子の幸せって何かな?」
「素晴しいご主人様に、誠心誠意お仕えすることです」
「それって、メイドの幸せよね・・」
「それ以外は・・難しいですね」
「貴女に聞いた私が馬鹿だったわ・・」
「ですが、他のメイド達が噂している事なら、少々・・」
「それよそれ、それが聞きたいの」
「なんでも、『空から落ちてきてお姫様抱っこ』、『白馬の王子様と二人乗り』、『抱き抱えられて湖に落ちる』だとか・・」
「なるほどね、参考になるかも・・」
「そうですか?空から落ちたら傘を開けば良いですし、馬も一人で乗れます。湖に落ちるのに抱きつかれていたら生死に関わると思いますが」
「・・貴女ならそうするんでしょうね・・」
昔、ダンジョンに居た頃に、メイドと話した会話が想い出された・・
これが走馬灯というものかもしれない・・
あの頃は、ダンジョンの外の世界に少しだけ憧れがあった。
同じだけの恐れもあったのだけれど・・
私でも、人並みの女の子としての幸せが掴めるかもしれない。
その人並みが、どういうものなのか、よく分からなかっただけで・・
冒険者になってからも、色々調べて回った。
「冬の寒い日に、手造りの防寒具を、贈ることかな・・」
「やはり、手料理を美味いと言って、残さず食べてもらうことだね」
「自分より強い奴に抱かれることさね」
「仕事の出来る後輩に、休憩時間に肩を揉んでもらうことでしょうか」
「モフモフだね、モフモフ」
・・理解できない幾つかを除いて、私も好きな人が出来たら、試してみようと思っていた・・
幸せというものを、探してみようと思っていた・・・
そうしたら、いつの間にか、誰かさんに殆ど再現してもらっていたのだ。
最初は、水牢に落とされたとき・・
次は、ゴブリン穴で落ちかけたとき・・
邪神教団を追って、馬に乗ったとき・・
初めて料理に挑戦したとき・・
あとは冬が来たら、野兎を自力で狩って、解体して襟巻きにして贈る・・
どうやら、それは出来ないようだけれど、思い返せば、人並みの幸せは、一通り体験できたのかも知れない・・
「そっか、私って幸せな女の子だったんだね・・」
届かないと信じていた、普通の幸せに、いつの間にか手が届いていた。
それは、諦めて、それでも伸ばしていた手を、彼が握ってくれたから・・
だとしたら、もう、これで終わりで良いのかも知れない。
私が、彼を不幸にする前に・・
私の宿命が、私の好きな人を苦しめる前に・・このまま消えた方が・・・
『理解できません・・』
懐かしい声が聞えた・・
『仕えるべき主人が見つかったというのに、職場を放棄するのですか?・・』
死神と私の間に、彼女が立っていた。いつものメイド服を着て、少し怒ったような顔で・・
『ご主人様から解雇されるまで、全力を尽くすのがメイドたる者の心得です』
いや、私はメイドじゃないんだけれど・・そりゃあ昔は憧れて目指した事はあったけど・・
『この不審者は、私が撃退いたします。貴女は、すぐに通報を!』
ちょっと待って、なんで私の夢で、勝手に行動してるのよ?相手は死神よ、メイドが敵うわけないじゃない!!
『侵入者を排除するのもメイドの務めですから』
「それはメイドの務めじゃないってば!!」
思わず出た叫び声で、朦朧としていた意識が覚醒した。
私は、地面が剥き出しの地下室で、やはり土を固めたような簡易ベッドの上に寝かされていた。
狭い部屋には、木の扉が一つだけあり、隅には水差しと、ゴブレットの乗ったテーブルが置かれている。
記憶を辿れば、最北湖の殲滅戦で、魔力枯渇を引き起こして、気絶してからの事が思い出せない・・
今の様子を見れば、仲間がどこかに運び込んでくれたのだと分かる。
そして・・
部屋の隅に死神が浮いていた。
その前に立ち塞がる、半透明のメイドもいた。
「夢じゃないんだ!」
私は2度目の叫び声をあげた。
『にゅーちゃれんじゃー』
闇の精霊を追いかけて、モニターしていると、コアが新たな警報を告げた。
投影マップには、闇の精霊のオレンジ色のマーカーと、ゲスト扱いのビビアンの緑のマーカーの間に、さらなる侵入者を表す、オレンジのマーカーが割って入ってきた。
「誰?これ?」
敵対的侵入者なら赤のマーカーで表示されるはずで、オレンジということは中立に近い存在のはずだ。
『あんのうん』
コアにも分からないらしい。ただし、その位置取りから、ビビアンを闇の精霊から守っているようにも見える・・
「ビビアンの守護精霊とか?」
『のんぐりーん』
そうか、ビビアンを助けるものなら緑表示ででるよね。
兎に角、貴重な時間を稼いでくれているらしい。
今のうちに、増援を送り込もう・・
「コア、最北湖からロザリオを引き抜いて、あの部屋に転送して」
『よっこいしょ』
『主殿、急にどうした?』
「説明はあと、その部屋の闇の精霊を取り押さえて」
『ふむ・・冒険者の娘以外に2体いるがどちらだ?』
新しい方も、ロザリオから見て闇の精霊に見えるのか・・泉でブッキングしたのかな?・・
「コア、オレンジマーカーを両方、スキャンして」
『ぴきゅーん』
レッサー・デス「レス」:低級死神
種族:不死者 ランク9 眷属化:不可
HP99 MP13 攻撃9(+13死神の鎌) 防御9(+13死神のローブ)
技能:浮遊、両手鎌、回避、受け、隠密、クリティカル、魔法耐性、頑健、不死者特性(中)、物理耐性
特技:エセリアル(物質透過)、デス・ストライク(死神の一撃)、リボーン(復活)、精霊魔法(闇)
備考:物質透過 使用MP0 身体(と所持品)を非物質化させて、ほとんどの物体を透過する。
死神の一撃 使用MP1 自動的にクリティカル攻撃。対象は抵抗に失敗すると瀕死になる。
復活 使用MP0 HPが0以下になっても、24時間後に復活する。
ゴースト「エルマ」:幽霊
種族:アンデッド ランク9 眷属化コスト:特殊
HP45 MP45 攻撃9 防御9(+7メイド服)
技能:家事、料理、儀礼、奉仕、隠密、格闘、暗器、警戒、物理耐性、不死者特性(上)
特技:エセリアル、アルカナ魔法(空間)、エイジング(老化)、アンチエイジング(老化防止)
備考:老化 使用MP1 接触した対象が抵抗に失敗すると強制的に老化現象が起こる。
老化防止 使用MP4 接触した対象の、異常な老化を回復できる。
「『やばいのきたー』」




