冥府からの使者
少し短いので加筆する予定です。
11時45分頃に加筆修正しました。
「ご主人様、ドワーフの皆様の眷属化が終了して、第4層の居住区に移られました」
「あ、ご苦労様、それで問題は無かった?」
「28名の方が移住されましたが、お一方だけマリア様の眷属化希望の方がいらっしゃるのですが、いかがいたしましょうか?」
「ああ、リンという名の女性だよね。コア、ゲスト化してあげて」
『らじゃー』
「ですが、他所様の眷属候補者を第4階層へ招待するのは、どうかと・・」
「え?不味いかな・・」
マリア自身もゲストで来ているし、問題ない様な気もするけど・・
「マリア様は、第一階層で接待したと聞き及んでいます。さらに、あちらの待遇が不明な以上、こちらとの差を見せるのは、お互いに良くないかも知れません」
ああ、うちの施設が良ければ行った者に不満がでるし、マリア側が良ければ、その話を聞いたこちらのメンバーから要望があがるかもね。
まあ、マリア側の問題は、施設や待遇よりも、大量のゴブリンだろうけれど・・・
「じゃあ、アエンを話し相手につけて、第一階層で待機していてもらおうかな」
「お茶の用意をして参ります」
カジャは一礼すると、コアルームから退出した。
考え過ぎの様な気もするけど、眷属とゲストを同じ扱いにしない方が良いという事なんだろうね。
それで思い出したけれど、冒険者4人組の方はどうなっているんだろう・・
「コア、ビビアン達は、どうしてる?」
『かもねぎー』
コアが投影したダンジョンマップには、4つの緑色の光点が光っていた。
どれも第一階層にあるが、一つだけ離れているのが分かる。その側に青の光点が二つあることから、治療班のヘラとニコが、ビビアンの容態を診ているのだろうと見当がついた。
「ヘラ、今、ビビアンの隣にいる?」
『はいマシュター、ニコのユニキュアを掛け終わったところでしゅ』
「どんな感じ?」
『もう大丈夫でしゅね。しゅぐに目がしゃめると思いましゅ』
「そうか、ならドワーフ達の怪我も見てくれるかな。あとアルマジロが、かなり足に負担がかかっているみたい」
『了解でしゅ、しゅぐに向かいましゅ』
治療班がヘラとニコしか居ないのも大変だよね。しかもユニコーンのニコは、ヘラに懐いているだけで、実際にはゲストの霊獣だし・・
あれ?何か忘れている様な気がするけど、なんだろう・・ニコに関係することかな・・
そこへ、アズサから連絡が入った。
『ギャギャ(マスター、アイスオークの3姉妹が、羊小屋を占領しているんですが、なんとかしてください)』
「なんでまた、そんな事に?」
『ギャギャギャ(空いてるから良いだろうって、勝手に寝床にしてるんです。熊も一緒です)』
そうか、熊もいるなら広い部屋が必要か・・
「悪いけど、しばらくそのままで。家畜が手に入ったら、移ってもらうから」
『ギャギャ(放っておくと、そのまま居つかれますよ)』
「うん、わかった、出来るだけ早く処置するよ」
牧畜はアイスオークの三女の担当だから、ある意味、羊小屋はホームグラウンドなんだけどね。ただし、山羊・羊の代わりに、自分達で小屋を占領されても困るから、別に部屋を用意しとこう。
それとアズサが怒ったのは、スノーゴブリンの皆が狭い部屋で寝起きしているのに、アイスオークの三姉妹が、いきなり広い小屋を独占したのが許せなかったのかも・・
『ギャギャ(そんなんじゃ、ありません!)』
とは言え、ストームタスカーまで、一緒に地下墓地に住んでいるから狭いのは確かだよね。
『ギャギャ・・(それはまあ、そうなんですけど・・)』
あと、専用の台所があった方が良くない?
『ギャギャ(あれば嬉しいです)』
今の部屋だと4人は難しいかな?二人部屋ぐらいのサイズだからね・・
『ギャギャ(そんな・・新婚家庭だなんて・・)』
いや、そんな話はしてないよ・・
『ひゅーひゅー』
そして僕は、大切な事を思い出す機会を失っていた。
あの時、気がついてさえいれば、こんな事にはならなかったかも知れない・・
それは、地下墓地の一番奥まった部屋であった・・
天井から滴り落ちる地下水が、床に水溜りをつくっていた。
その水面に、水滴が落ちるたびに波紋が広がっていく・・・
やがてその波紋から、何かが姿を現した。
禍々しい黒い刃をもつ大きな鎌だ・・
それは、音もなく水面から突き出てくると、その端には、柄を握った手が現れたのである。
手の先には腕が、その先には胴体が続き、 やがて黒いローブをすっぽりと被った、人の姿が出現した。
顔はフードを目深に被っているので見えない。
足は、宙に浮いていて、存在しない様にも見える。
いわゆる、死神の姿に良く似ていた・・
「どうも、闇の精霊デス・・」
また、厄介な同居人がやって来たらしい・・・
『ですさーてぃーん』
ん?誰か夢の中で攻撃された?
コアの投影マップには、不審人物を示すオレンジのマーカーが点灯していた。
「侵入者、ってわけじゃないのか・・」
いきなり第2層の最深部に、どうやって出現したのだろう・・
『やみやみ』
そう言われて思い出したのは、蜘蛛フィーバーの時に設置した、精霊の泉(闇バージョン)だった。
どうやらまた知らないうちに、精霊が立ち寄っていたらしい・・
「あ、まずいね、今、第二階層のあの付近に誰もいないや」
ロザリオがスケルトン軍団を率いて、最北湖の警備に出張しているので、第二階層の地下墓地は閑散としている。スノーゴブリン達も、帰還したてで、まだあちこちに散らばっているので、空白地帯ができていた。
「ワタリ、手が空いてたら新しい精霊にコンタクトをとって。いまから現場に転送するから」
『・・ういっす、ところで新しい精霊ってどんなタイプっすか?』
「たぶん、ヤバイ感じかな・・闇だし・・」
『あっ、オイラ急に用事ができたっす、誰か他に・・』
「コア、飛ばして・・」
『あでゅー』
「・・せめて恐怖耐性のある誰かを、って、あーーーー」
確かに闇精霊に向き合うのに恐怖耐性は有効かもね。増援は耐性持ちの影狼のリュウにしてあげよう・・
ワタリの青の光点が、オレンジの交点の居る部屋に転送された。
その瞬間、オレンジの方が消えた。
『たーげっとろすと』
『ここって、地下墓地の右側の通路の奥部屋っすよね。床が水浸しなだけで、何も居ないっすよ』
ワタリからも精霊が消失しているという報告があがった。
「さっきまで居たんだよ。どこかに潜んでいるのかも・・」
『脅かさないで欲しいっす・・精霊って、もしかして亡霊みたいな奴っすか?・・』
闇の精霊だからね・・バンシーみたいなのが来る可能性もあるのか・・
『でた』
『ギャーっす!』
「そっちじゃない!」
ワタリはコアの警告に驚いただけで、オレンジのマーカーは、第一階層に出現していた。
「まさか転移したのか?!」
『しゃだんちゅう』
コアの「遮断」は機能しているらしい。だとすると・・
「物質透過か・・」
階層の間を、非物質化してすり抜けていったようだ。幽霊や亡霊が、壁や天井を突き抜けて出現するのは、ほとんどこの能力によるものらしい。
それにしても上に上がっていくって、どういう事だよ。普通、移動するにしても、中心部に向かってこないか?
『逃げるつもりっすかね』
「それならそれで、仕方ないけどね・・」
精霊の泉で召喚できるモノ全てが、契約してくれる訳じゃないらしいし。
オレンジ色の光点は、第一階層をふらふらしていたと思ったら、ある部屋に入り込んできた。
「まずい!ビビアンが一人で寝てる部屋だ!」
オレンジの光点が、緑の光点に重なるように近づいていった・・・




