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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第10章 ドワーフキャラバン編
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蛇の目のお宿

  ナーガ族の隠れ里にて


 「どうやら蜘蛛の氾濫は治まったらしいな・・」

 「チョビ達も、周囲に蜘蛛は居ないと言ってるよ」

 「蜘蛛以外にも問題は山積みだけどね・・」


 隠れ里に戻って、警戒を続けていた六つ子の3人だったが、その後の蜘蛛の追撃は無かった。

 どうやら黒衣の沼へと帰って行った様だ。

 夜になるまで様子を見てから、大氾濫は終結したと判断した。


 それでも少数の見張り番を残しながら、里では祝宴が開かれることになった。

 生き延びた事を祝う宴である・・・


 

 「この度は、我等が里をお救い下さり、誠にありがとうございました。里を代表してお礼申し上げまする」

 族長のベラさんが、六つ子達3人に頭を下げて感謝してきた。

 周囲のナーガ族も一斉にお礼を述べる。


 「いえ、偶然こちらに伺った時に、大氾濫が起きただけで、我々も自分の身を守る為に協力したに過ぎません・・」

 「ですけども、貴方方がいなければ、この里も大蜘蛛に蹂躙されていたのは間違いないのです。どうぞ我らの感謝をお受け取り下さいませ」

 そう言って、族長は後ろの見習い巫女に持たせていた、二つの葛篭つづらを差し出してきた。


 大きな葛篭と小さな葛篭である・・・


 「うわ、これあれだよね・・」

 「間違えるとヤバイやつだ・・」

 姉妹は伝説を思い出そうとして、頭を捻った。


 「小さい方が当りなんだっけ?」

 「ハズレはミミックなんだよね」

 「お前ら、贈り物に対して失礼だろう・・しかもまだ頂くと決めていない」

 リーダーが後ろでこそこそ話しをしている姉妹を窘めたが、即座に反撃された。


 「「リーダーこそ、ここで断るとか、失礼以外の何者でもないよ!」」

 「お、おう・・そうかな・・」


 兄妹の会話を、楽しげに聞いていた族長が、艶やかな笑い声を上げながら告げた。

 「そうですよ、遠慮なさらずに両方の葛篭をお持ち下さい。どちらにも我らの感謝の想いが詰まっておりますゆえ、ホホホホ」


 「そ、そうですか・・それでは有難く頂きます・・」

 「「ありがとうございます!!」」


 のちに中を確認してみると、小さい葛篭には傷薬や毒消しの軟膏が、大きい葛篭には6着のカピバラの毛皮のマントが入っていた。そのマントの手触りの良さに、姉妹は大層喜んだという・・・


 めでたしめでたし


 

 「なんか、良い話風に終わってるよ?!」

 「お土産もらっただけで、まだ問題は解決してないからね!」

 六つ子の姉妹の言う通り、幾つか処理しなければいけない案件が残っていた。


 「まず、あのドワーフの娘子の先行きですね・・」

 族長が話し始めた。その視線の先には、お腹が一杯になって、アルマジロにもたれ掛かって、うとうとしているドワーフの娘がいた。

 「男の子でしたら是非とも里で引き取りたかったのですが・・」


 それを聞いた姉妹が、影で内緒話をする。

 「・・それって育てて、食べちゃうって事だよね・・」

 「・・違う意味だけどね・・」

 「・・きゃあー♪・・」


 そんな二人をあえて無視しながら、リーダーは尋ねた。

 「女の子では駄目ですか?」

 「いえ、ここで暮らしたいのであれば歓迎しますよ?ですけど、この里の環境が、彼女にとって良いかどうか・・・」

 族長は、そう言ってナーガ族の女性だけしか居ない里を見渡した。


 「なるほど・・普通の村で育てた方が良いと言うわけですね・・」

 「ここでは、同族の方とめぐり合える可能性は低いですから・・」

 「確かに・・」

 リーダーは、テントの中でミイラの様に干からびている3人を思い出していた。

 命に別状はないらしいが、しばらくは激しい運動は控えるしかなかった。

 もし旅のドワーフが、偶然この里に立ち寄ったとしても、ああなる可能性が高い・・


 「では、彼女は私達の村に連れて行くことにします。そこでドワーフを捜してみます・・」

 「そうして頂いた方が、あの娘には宜しいかと存じます」

 

 ということで、居眠りをしているドワーフの娘を、姉妹が起こしに行った。

 「さあ、向こうのテントで寝ましょうね」

 「そういえば、貴女のお名前は?」

 ドワーフ娘が、眠そうな目を擦りながら答えた。


 「・・セレン・・」

 「セレンちゃんかー、歳は幾つ?」

 「・・5つ・・」

 「そうなんだー、エライねー」

 「・・むにゅう・・」

 セレンは眠気に負けて、再び目を閉じてしまった。


 そんな彼女をそっと抱きかかえて、姉妹は、自分達専用のテントへと運んでいった。

 その後を2頭のアルマジロが、心配そうに付いていく・・・



 それを見ていた族長が、思い出したように話し始めた。

 「あの2頭は、こちらで引き取りましょうか?」

 「いえ、彼女に懐いているようですし、一緒に連れて行きます・・」

 「ですが、食べさせるのにも苦労するでしょう・・里に置いて行った方が良いのではないですか?」

 「・・実は欲しいんですね・・」

 族長は俯きながらも答えた。


 「女所帯で、力仕事が得意なものも少なくて・・」

 「なるほど・・しかしセレンが何と言うか・・」

 「あの3方が残って下さるなら、その方が良いのですけれども・・」

 リーダーは、今もテントで寝込んでいる弟達を思いだした。


 「残して行くのが、弟達の幸せかと思う事もありますが・・」

 族長が期待の篭った目で見つめてくる・・

 「放っておくと、精気を失って、衰弱死しそうなので連れて帰ります」


 「そうですよね・・今でもあの状況ですからね・・」

 族長も諦めた表情で、頷いた。

 「でしたら、あの狼だけでも残していってくれませんか?」

 族長は、宴会で里の娘達から焼肉をもらっているチョビ達を見た。


 「いえ、彼らこそ置いて行くわけには行かないんですよ・・彼等の主人は別にいて、帰りを首を長くして待っているでしょうからね・・」

 「では、皆さん、全員で里を離れてしまうと・・」


 「申し訳ありません・・良くして頂いたのに・・」

 「・・仕方ありませんね、それがこの隠れ里の宿命ですから・・」


 族長は、悲しげに呟くと、後ろにいた二人の見習い薬師を呼び出した。

 「この者達には、外の世界を見せたく存じます。出来れば孫のヘラの主の下へ送り届けては、くれませぬか?」

 「帰り道ですし、それぐらいなら喜んで・・」

 「では、よろしく願います」



 翌日の朝、六つ子とセレンとアルマジロ2頭、それにナーガ族二人に増えたパーティーが、隠れ里を出立した。

 大勢の村人が見送ってくれたが、その中に戦士長は見あたらなかった。


 召喚した乗用馬に、贈り物の葛篭と、干からびた3人を縛り付けて、ゆっくりとした足取りで里を離れていった。


 「彼女、見送りにこなかったねー」

 「誰のことだ・・」

 「またまたー、あちこち捜していたくせに」

 「・・さあな・・」

 言葉を濁すリーダーに姉ドルイドが追い討ちをかける。


 「そんなんだから、彼女が出来ないんだよ。もっとはっきり気持ちを伝えないと」

 「伝えたところで、どうなるものでもないだろう・・」

 「兄さんは、これだから・・」


 そんな二人の会話を、妹ドルイドが遮った。

 「そうでもないみたいだよ、ほら、あれ!」


 指差した先には、一際高い岩が聳え立っており、その上からナーガ族の戦士長が、一生懸命手を振っていた。

 何かを叫んでいるようだが、遠くて聞き取れない。


 しかし想いは伝わってきた・・


 「また来ないとね・・」

 「そうだな・・」

 「そうだよ」


 3人は手を振り返しながら、そう呟いていた・・・






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