久しぶりの我家
二手に分かれたドワーフキャラバンは、無事にオークの丘へと辿り着いた。
護衛として、ずっと離れていたメンバーは、懐かしそうにその風景を眺めていた。
「少し外観が変わっているっすね」
「執事小屋を造ったって聞いたぜ、ジャジャ」
「それ羊小屋の間違いだと思いますが・・」
ダンジョンのあるオークの丘を、初めて見る眷属達も、物珍しそうに辺りを見回していた。
「あれが、我家か、ブヒィ」
「義姉き、あれは違う丘だよ、こっちだって、ブヒィ」
「義姉さん、そっちも違います・・」
「ガウガウ」
ブラウンベアに跨った、アイスオーク三姉妹は、さながら伝説にでてくる英雄の様であった。
「昔話の金太〇っす」
ドワーフ達は、未だ眷属化されていないので、少し不安そうに、丘を眺めていた。
「小高い丘を切り崩して、畑と牧場を造ってあるのか・・」
「なんかダンジョンというよりは、ハーフリングの集落みたいだな」
「麦もよく実っているし、鳥も囀っている。牧歌的で良い所じゃないか」
しかし内情を知っていて、しかも過去に痛い目にあっている冒険者の目には、違う景色に映っていた・・
「おいおい、いつの間にか天井を取っ払って、農業を始めてるぜ・・」
「上手い擬装さね・・あれなら誰も、元地下墓地のダンジョンだなんて思いもしないだろうからね・・」
「麦畑のトラップも健在のようだな・・周囲のカラスも目つきが鋭いから見張りかも知れない・・」
ちなみにビビアンは、未だに眠っていた。時々寝返りを打ったり、寝言を言ったりするので、その内に目を覚ますだろうというのが、ヘラの診たてである。
「移動車両とアルマジロは、牧場の柵の中に入れておくっす。ここで皆の眷属化をしてから、ダンジョンに案内するっすよ」
ワタリの宣言にドワーフ達がざわめいた。
「牧場に移動車両ごと乗り込んで、家畜は平気なのか?」
「オグリ達は眷属にしてもらえないの?」
「荷物は担いで中に運ぶのかい?」
「眷属化って、痛くないだろうな・・」
「まずは一杯やるべ」
「はいはい、順番に答えるっすよ。家畜は今は居ないので平気っす。牽引アルマジロは、希望するなら眷属化してもらえるっす。重い荷物は、穴熊チームが運んでくれるっすよ。眷属化は足元に魔法陣が出て、光の輪がせり上がってくるだけで、痛くも痒くもないっす。それと、そこ、宴会を始めないで欲しいっす。やるなら眷属化が終わってから、中でやるっす!」
ワタリ一人で誘導するのは不可能なほど、現場は混沌としていた。
ハクジャを筆頭にする居残り組が、わらわらと駆けつけて、ドワーフ達の整理にあたる。
「ここは任せたぜ、祖父さん。アタイはクロコ達を休ませに、下へ行ってるからな、ジャー」
「ギャギャ(こちらも、そうさせてもらおう)」
ベニジャとアップルは、それぞれの乗騎を労わるために、早々に癒しの泉へと降りていった。
「アタシ達の寝床はどこだい?ブヒィ」
「お、あそこが空いてるぜ、義姉き、ブヒィブヒィ」
「・・あれは羊小屋なのでは?」
三姉妹は、空の羊小屋に入り込むと、勝手に腰を落ち着けてしまった。
「丁度、柵で6つに仕切られてるし、分かり易くて良いな、ブヒィ」
「寝藁も新品だし、こりゃ快適だぜ、ブヒィ」
「ガウガウ」
ブラウンベア達も、気に入ったようである。
「・・いいのかなー」
三女だけは、常識があった・・
ダンジョンコアルームでは、ドワーフの眷属化の作業が最盛期を迎えていた。
「まるで、野菜の収穫の様ですね・・」
カジャが見えない何かに向かって、ツッコミを入れていたけれど、それに答える余裕も無かった。
「コア、9番から14番まで、意思確認が取れ次第、眷属化して」
『ふぁいなるあんさー』
「ハクジャ、5号車の乗員を、車両の横に集めておいて」
『了解しました。彼らもアルマジロ?ですか、それの眷属化も要請されております、ジャー』
「ああ、そっちもか。コア、4頭全部に眷属化要請があったとして、DPは足りそう?」
『なんくるないさー』
「なんとかなるってことは、そう余裕があるわけでもないのか・・必要なら黒蜘蛛は吸収しても良いからね」
『ほいさー』
「眷属化の終了した方々は、どうしますか?」
「カジャの判断で、第4階層のドワーフ居住区まで案内して。荷物はあとで運ばせるよ」
「承知いたしました。放っておくと、あの場所で宴会が始まりそうですし、第4階層の食堂に案内してしまいますね」
「うん、よろしく」
カジャは一礼すると、コアルームを足早に退出していった。
歓迎会の準備も、カジャに任せておけば大丈夫だろう。
『マスター様、ドワーフの子供がペットも眷属化して欲しいと言っておりますが、ジャー』
「え?アルマジロでなくて、別にペットがいるの?」
『はい、雪原ウサギが1匹だそうです、ジャジャ』
ウサギが1匹なら問題ないかな・・
「いいよ、一緒に眷属化するって伝えておいて」
『仰せのままに・・』
「コア、ということでペットのウサギも眷属化してあげて」
『ぴょん・・・んん?・・・ん?』
え?コアが最終確認してくるほどの、なにか問題があった?
そこへ、ウサギのスキャンデータが転送されてきた。
スノーラビット「ピョン太」:雪原ウサギ
種族:獣? ランク4 眷属化コスト:80
HP24 MP8 攻撃15 防御4
技能:跳躍、聞き耳、逃走、掘削、蹴り
特技:ラビットキック(兎蹴撃)
備考:兎蹴撃 使用MP1 両足の同時蹴りで攻撃力が2倍
・・・これは、兎なの?
『めいびぃ・・』




