首狩り族と探検隊
「粗茶ですが・・」
「あ、ああ、これはどうも、ご丁寧に・・」
「むぎ茶といいます、お口にあえば良いですが、ジャー」
あれからすぐに、ハクジャが出迎えに向った。
こちらからもカジャを転送して、ドワーフの接待を一任する。いきなり僕が合うと、彼が混乱するかも知れないからね。
ハクジャは、マンガンと名乗ったドワーフを、地底湖の上の居住地に案内した。僕らがフィッシュボーン(魚の骨)と呼び習わしているフロストリザードマンの住処だ。
その一室で、ハクジャとメイド姿のカジャが、ドワーフに事情を説明している。
「というわけで、現状ではアエン殿が我々に、タングステン殿が『不凍湖の龍』に身を寄せています、ジャー」
「なるほど、私も貴方方に助けて頂いたわけですな」
「アエン殿の要望もあり、お節介を焼いたわけですが、ご迷惑でしたかな?ジャジャ」
「いえいえ、あのまま水の底で放置されていたら、碌なことになっていないでしょう。感謝しております」
そのタイミングで、カジャがエールを出した。
「地酒でございます・・」
「おおお、これは有難い!なにせあの樽の中では、酒は飲めませんでしたからな」
「ささ、喉を潤してくだされ、ジャ」
「ではでは、遠慮なく」
ゴキュゴキュと喉を鳴らしながら、大振りのゴブレットに注がれたエールを飲み干した。
「ぷはーー、生き返った気持ちですなー」
口の周りに泡をつけながら、マンガンが笑みを浮かべた。
そこへすかさず、カジャがお替りを注ぐ。
「おお、すいませんですな。先ほど地酒とおっしゃいましたが、これは中々、美味いエールですぞ、ングング」
「ドワーフの方にそう言っていただけると、杜氏達も喜びます、ジャー」
何度かお替りして、マンガンの緊張が解けた頃に、本題に入った。
「さて、マンガン殿は1級採掘技師とお聞きしましたが、この先はどなされますか?ジャジャ」
「と、言いますと、移住先の事ですかな?」
「さよう、タングステン殿が主導する移住先は、この場所から三日月を挟んで、丁度対岸にあります、ジャ。あと半日もすれば、北の鉱山から移民キャラバンが到着して、うちも、あちらも賑やかになるでしょうな、ジャー」
「なるほど、どちらに腰を落ち着かせるのか決めたほうが良いと・・」
「樽から出られて、右も左もわからぬうちに、将来に関わる事を決めるというのも大変ではありましょうが・・ジャジャ」
マンガンはしばらく考え込んでいたが、ふと顔を上げた拍子に、扉の隙間からこちらを覗う、3対の瞳に気がついた。
「おや、あれは確か、私を起こしてくれた・・」
「「「わっ、見つかった!」」」
焦った子供達が体勢を崩して、部屋の中に雪崩れ込んできた。
「こら、お前達、大人しくしていなさい!ジャー」
族長のハクジャに怒られて、縮こまった子供達だったが、何か言いたそうにモジモジしていた。
それに気がついたマンガンが、優しく尋ねた。
「何か私に聞きたいことがあるのかな?」
すると、一人が意を決してマンガンに聞いた。
「叔父さんが竜王様ですか?・・シャー」
目を丸くして驚いたマンガンは、次の瞬間、噴き出していた。
「ブハッ、いやいや、私はそんな、大層な者ではないよ。ただの鉱物マニアさ、ハハハ」
その答えを聞いて、あきらかに落胆した子供達に、マンガンが話し掛ける。
「でもね、世界の半分はあげられないけれど、地底に埋まったお宝なら、掘り出してみせるよ」
その言葉を聞いた3人が、キラキラした瞳でマンガンを見つめた。
「「「トレジャー・ハンターだね!」」」
その後、口々に弟子入り志願をする子供達を宥めすかしながら、部屋の外に追い出した。
「お騒がせして申し訳ない、ジャジャ」
「いえ、あの年頃の子供は、元気があって良いですな。私も昔の夢を思い出しましたよ・・」
どこか遠くを見つめていたマンガンは、一つ頷いてから話始めた。
「うん、私はこちらにお世話になろうと思います」
「宜しいのですか?こちらに移住するとなると、マスター様の眷属になっていただく必要がありますが、ジャジャ」
「ええ、助けて頂いたお礼もありますし、何より子供達のあの笑顔を見ていれば、ここの良さが伝わってきますからね」
それを聞いたハクジャは、大きく頷くと、握手の手を差し伸べた。
「では、これからは同じ仲間として歓迎します、ジャー」
二人はしっかりと握手を交わした。
マンガンは、その場で眷属化を終えて、ドワーフの居住区の案内の為にコアルームに転送されていった。
それを見送ったハクジャが、後ろに控えるカジャに話し掛ける。
「子供達が覗いていた事を知っていたな?ジャー」
「はい、ハクジャ様」
「彼の勧誘に利用したか・・ジャジャ」
「はい、マンガン様は脱出艇を回してもらえるほどの重要人物です。ご主人様には必要な人材であると判断いたしました」
「確かにな・・これからドワーフが大量に移住して、鍛冶や彫金が盛んに行なわれるようになるだろう。その為には鉱石や燃料となる泥炭が大量に必要になる。1級採掘技師の技は大きな助けになるはずだ・・ジャジャ」
「地酒で釣れると良かったのですが、それほど執着されませんでしたので・・」
「まさか子供達に言い含めたのでは、あるまいな?ジャー」
「そこまでは仕込んでおりません。覗きにきたのは、あくまで彼等の好奇心によるものです」
「ならば良い・・ジャジャ」
「ですが、一つ想定外な事が・・」
「なんだ?ジャ」
「子供三人組が、全員、採掘士見習いを希望しております。私としましては、一人は杜氏の後継者に、一人はメイド見習いに推薦しようと思っていたのですが・・」
扉の向こうから、甲高い子供の声が聞えて来た。
「母さん、ランタンの油ってどこに仕舞ってあるっけ?シャー」
「このツルハシ借りていくね。ちゃんと洗って返すからー、シャシャ」
「大丈夫だよ、蠍と毒蜘蛛には気をつけるから・・シャー」
それを聞いたハクジャがため息をついた。
「召喚術士の次は財宝探検家か・・ジャジャ」
「「「母さん、お弁当お願いね!」」」
「はいはい、段差には気をつけるのよ」
「「「は~い!」」」




