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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第10章 ドワーフキャラバン編
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秋の夜長の物語

 長い夜が明けた。

 

 最北湖の湖面を渡る朝靄のなかで、仮設休憩所では、未だに身を寄せ合って眠るドワーフキャラバンのメンバー達の姿があった。

 長い道のりを、懸命に走り続けた牽引アルマジロ達も、今はただ、寄り集まって一時の眠りに身を委ねている・・

 

 仮設休憩所を守るように、スケルトン部隊が、ゆっくりと巡回をしているが、眠りを妨げぬように、物音をたてないよう注意しながら歩いていた。

 キャラバンの警護をしていた眷族達も、今は身体を休めている。

 この拠点の警備は、応援に来た仲間に頼めるので、久々に安心して眠ることが出来た・・


 冒険者達も、仮設休憩所の一角を借り受けて、キャンプをしていた。

 2つ張られたテントの片方では、スタッチが鼾をかきながら爆睡していた。

 もう片方では、ビビアンが眠り続けている・・

 そのテントの前で、小さな焚き火を囲みながら、ハスキーとソニアが見張りをしていた。


 「ここはアタシが見ているから、ハスキーは寝たらいいさね・・」

 ドワーフ達の会議に付き合わされていたハスキーは、仮眠をとったソニアと違い、一睡もしていなかった。ソニアが起きているのも、冒険者の習性のようなもので、この場所で彼らに危害を加えようとするものは居ないはずである。


 「ああ、相棒の鼾が煩くてな・・」

 それらしい言い訳を呟いてはいるが、スタッチの鼾はいつものことである。ビビアンの容態が気になって眠れないのが本音であろうと、ソニアは思った。


 「・・以前にも同じ様に魔力の使いすぎで、倒れたのを介護したことがあるから、大丈夫さね・・」

 ソニアの呟きには、ハスキーは何も言い返さなかった・・


 「あれは、アタシと始めてパーティーを組んだ時だったね・・あの頃ビビアンは、覚えたてのファイアーボールを、そこら中に撒き散らすのが得意で・・」

 「・・えらい迷惑だな・・」

 「それでも平均が4か5レベルぐらいのパーティーには、ファイアーボールの使えるソーサラーは重宝されたさね・・」

 「だろうな・・」


 「ところが調子に乗りすぎて、森に深入りしてね・・いつの間にか、オーク20体に囲まれていたのさね・・」

 「乱戦になって、他のメンバーは死傷して脱落、アタシはビビアンを背に庇いながら、オークの攻撃を受けるので手一杯だった・・」

 「・・それを全てビビアンが倒したのか・・」


 「アタシはそれまで、魔術士を馬鹿にしていた所があったさね・・幾ら呪文の威力が強くても、詠唱が終わる前に切りかかれば、どうとでもなるってね」

 「・・それもある意味正しいがな・・」

 「けど、ビビアンはそんな範疇になかった・・いきなり何もいない場所にファイアーボールを放ったのさ」

 「・・どいうことだ?・・」

 「アタシも怒鳴ったさね・・せめてオークに当てろってね・・ところがビビアンは意に返さずに、詠唱を続けているのさ」

 「・・ふむ・・」

 「そして、さらにもう一発、何もいない場所に放った・・そしてアタシはビビアンが何をしようとしていたのか気がついた・・周り中を火の海で囲まれたときにね・・」

 「・・森に火を放って、壁にしたのか!・・」


 「アタシと切り結んでいた3体のオークと、後方のオークを分断して、近づけなくなった奴らに、嬉々として火炎弾を連射するビビアンの姿は、今でも覚えているさね・・」

 「きっと、良い笑顔してたろうな・・」


 「結局、背後から迫る森林火災に気を取られた、前衛の3体をアタシが倒したときには、残りのオークは全てビビアンの呪文で倒れていたってわけさ・・」

 「その時に魔力を使い果たしたビビアンが、失神したのか・・」


 「まあ、あのときに偶然、雷雨が降らなかったら、アタシもビビアンも火に巻かれて焼け死んでいたろうけどね・・」

 「火の始末は考えていなかったのか・・」


 「その後、奇跡的に生き残ったパーティーメンバー1人とビビアンを担いで、村まで運び込んだけど、それからまる二日、目を覚まさなかったさね・・」

 「目覚めたときに後遺症とかは無かったのか?・・」


 「ぜんぜん、いやにスッキリした顔で、オークの討伐部位を切り取ってこなかったことを怒られたぐらいさね・・」

 「・・そこは助けてもらった礼を言う所だろう・・」

 「で、ついた二つ名が『狂乱真紅のビビアン』さね・・」

 「・・生き残ったメンバーも、その時は、味方に焼き殺されると思ったんだろうな・・」



 沈黙の天使が、二人の間を通り過ぎていった・・・

 

 小さな焚き火が、燃え尽きる寸前に、音を立てて弾けた・・



 「本当に眠らなくていいのかい?」

 「ああ、オークの丘までは、ドワーフの車両に乗せてもらえることで話がついた。その時に少しは寝れるだろう。馬車よりは揺れないという話だしな・・」

 「ダンジョンまで同行するのかい?」

 「向う先が一緒だからな。少しは楽をさせてもらおう・・」

 「まあ、誰の為に同乗を頼み込んだのかは、わかりきっているさね・・」

 それにはハスキーは答えなかった。


 「・・キャラバンもここで二つに分かれるらしい・・」

 「へえ、それは初耳さね・・」

 「このままオークの丘に向うのが4台、三日月湖へ向うのが2台だそうだ。三日月湖行きに18人を詰め込むので、こちら側に余裕ができたらしい・・」

 「ま、アタシも歩かなくて済むなら文句はいわないさ。眠ったままのビビアンを背負って、森を彷徨うのは、あの時だけで十分さね」


 

 やがて、仮設休憩所のあちこちから、目を覚まして出立の準備を始める気配が伝わってきた。

 「いつの間にか、夜が明けてたようだな・・」

 「そういえば、ダンジョンマスターからの依頼の報酬は受け取ったのかい?」

 ソニアも戦った、ボーン・サーペントの素材をもらえるという話だったはずだ。


 「いや、まだだ。現物でもらうより、ドワーフの鍛冶師か細工師に加工をしてもらう方向で交渉している・・」

 「ああ、それは有難いさね。アタシらじゃドワーフの1級鍛冶師になんか伝がないからね」

 「製作にあたって、何か希望があれば言ってくれ・・」

 そう言われてソニアは考え込んだ。


 「欲しい物をあげたら限がないが、まあアタシは斧かな・・」

 「スタッチは盾か胸当てにするとか言ってたな・・」

 「ハスキーは弓かい?」

 「・・それでも良いんだが、最近、水に落ちることが多いんでな・・」

 「なるほどね、水中呼吸のアクセサリーはアタシも考えたさね・・ビビアンは間違いなくそっちだろうしね」

 「術者ならワンドか杖が相場なんだろうが、ビビアンは『真紅』だからな、水・闇属性のボーン・サーペント素材は相性が悪そうだ・・」


 「逆に防御系に回すってのは無しなのかね?」

 「ドワーフに聞いてみたが、ボーン素材で、術者用のマントやブーツを作るのは難しいらしい。ボーン・アーマー扱いになって、制限に引っ掛かるそうだ・・」

 「だったら、ビビアンはアクセサリーで決まりさね。お揃いの耳飾でも作ったらどうだい?」


 ソニアはいつもの軽口で、ハスキーを煽った。しかしそれに対する反応は彼女の予想を越えていた。


 「いや、対の指輪にしてもらおうと思っている・・」


 ハスキーの呟きに、一瞬呆けたあとで、ソニアは大声で笑いながらハスキーの肩を叩いた。

 「そうかい、そうかい、アンタも腹を括ったんだね、そうかい!」

 何が嬉しいのか、バシバシとハスキーの肩を叩き続けた。


 その痛さに顔をしかめながら、ハスキーが呟く。

 「この話は、ビビアンには内緒にしておいてくれないか・・」

 「ああ、わかったよ、サプライズってやつだね、任せておくさね」

 そう言いながらも、叩くのを止めないソニアであった。


 すると突然、ビビアンの寝ているテントから、彼女の声が聞えた。

 「・・煩いわね・・燃やすわよ・・」


 ビクッとして動きを止めた二人が、そうっとテントを覗きに行くと、ビビアンはまだ眠り続けていた・・


 「・・寝言みたいさね・・」

 「・・そうだな・・」


 こっそりと焚き火の跡に戻った二人は、顔を見合わせてから、笑い出した。


 ビビアンを起こさないように、笑い声を潜めながら、いつまでも笑っていた・・・



 





 



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