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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第10章 ドワーフキャラバン編
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簡単な審査で貴方も新天地へ

 最北湖の南岸に造営された、仮設の地下休憩所では、夜を徹して会議が続いていた。

 議題は主に、ドワーフキャラバンの移住先についてである。


 「既に行き先を決めた班は、名乗り出てくれ」

 モリブデン団長が、未だに迷っている一部のドワーフ達に痺れを切らして、強引に振り分けを始めた。

 「この場に辿り着いた者は、総勢47名だ。多くの犠牲を出したが、なんとか半数は移住が出来そうな所まで来れた。有難いことに、全員が同じ目的地を選んだとしても、人数的には受け入れてもらえるだろう。遠慮せずに、良いと思った方を言ってくれ」


 最初に宣言したのは2号車のアイアン爺さんだった。

 「ワシらは、このままワタリのマスターの所に厄介になりに行くぞ。面白い鍛冶が出来そうじゃからな」

 南下の最中にも、武器談義で盛り上がっていた2号車は、オークの丘への帰属を決めたようだ。


 「アイアン爺さん、これからもよろしくお願いするっす」


 次に立場を表明したのは7号車のモフラーであった。

 「私達も、モフモフが沢山いるエルフ親衛隊のダンジョンに入隊する予定です」

 雪原ウサギのピョン太を、家族と公言して憚らないモフラーの一家は、移動車両の覗き窓から垣間見た、穴熊チームやハリモグラチームに、目が釘付けだったようだ。


 「うむ、動物好きならば歓迎しよう。ようこそモフモフ天国へ」


 少し遅れてから選択したのは、3号車の杜氏だった。

 「うちは、半分に分かれるぞ。どっちが酒造りに適しているかわからんからな・・」

 3号車に乗り込んでいた8人の酒造職人のうち、4人がオークの丘へ、そして4人が三日月湖へ向かうことになった。


 「うちの杜氏には話は通ってるぜ。蔵同士で競い合って、美味い酒を造ってくれ、ジャー」


 それを聞いて縫製職人の5号車も名乗りをあげた。

 「それならうちも、分けさせておくれよ。眷属化はちょっと、という派と、リザードマンの所だと縫えるのは皮だけで嫌だ、という派が居て、意見が纏まらなかったのさ」

 やはり眷属化に忌避感を持っているドワーフも居るらしく、ここは、5名がオークの丘を、残りの3名が三日月湖を希望した。


 「今度、オラ達のダンジョンに羊小屋が建ったで、羊毛も扱って欲しいだよ」


 6号車のネオンは、最後まで全員一緒に移住しようと迷っていたが、結局、個人の希望を尊重することにしたようだ。

 「すいません・・うちは3つに分かれました・・私を含めた3人がアエンのマスターの所に、3人がタングステンさんの所に、そしてリンがマリアさんの所に行きたいと・・」

 「おいおい、正気か?しかも女一人でゴブリンの巣に行くとか、ありえんだろう」

 「そうじゃ、リンは何を考えておる」

 予想外の選択に、班長達が反対する。


 「静かに!それがリンが望んだことなら、俺達がとやかく言う権利はないはずだ。最初に言ったが、自分の未来だ、好きなように選べば良い」

 団長の一声で、場が納まった。


 「最後になったが、1号車はタングステンの所に行く。正直、ワタリのマスターには世話になったし、恩返しをしたい気持ちもある。ただ、思いの外、オークの丘行きを選んだ者が多かったので、バランス的に俺達はリザードマンに厄介になろうと思う」

 「団長、それはお主の言った言葉に反しておらんかのう・・」

 「そうじゃ、選ぶのは自分だと言うたのはお前さんじゃろ」

 班長達からは、文句のような声があがった。


 「なに、1号車は、全員で人数の少ないほうに行くという選択を、最初からしていただけだ。オークの丘でも三日月湖でも、それなりに楽しそうなので、どっちに転んでも問題ないからな。ただし、偏ると受け入れ側に負担がかかるし、色々な割り当ても減る可能性がある。だから美味しい方を狙ったと思ってくれ」

 「ぬう、策士じゃな」

 「それはそれでズルくないかのう・・」


 しかし班長達は、それが建前で、団長が受け入れ先に遠慮して自らの行き先を決めたことを理解していた。このキャラバンの責任者になったときから、すでに決めていたのだろう・・

 なので、それ以上は反論することはしなかった。


 だが、最後に一つだけ嫌味を言うことにした。

 「じゃが、一番人数が少ないのは、女帝の所のような気がするがのう・・」


 「あそこは、流石に勘弁してくれ。それぐらいは選ぶ権利はあるだろう」

 「「ガハハハハハ」」

 


 ドワーフ達の笑い声を聞きながら、ハスキーは隣のテオに小声で尋ねた。

 「俺がここに居る必要が有ったのか?・・」

 テオも小声で返事をした。

 「どちらかというと、顔繋ぎですね・・塹壕戦で人族の冒険者も活躍しました、というアピールです・・」

 「それ必要か?・・」

 ビビアンの容態が気になるハスキーは、不満げに聞いた。


 「必要になると思いますよ。この先、南下を続けるのに、ビビアンさんの体調を考えれば、移動車両に乗せて貰うのが一番ですし、なにより今回の報酬のレア素材、誰に加工してもらうつもりなんです?」

 「・・なるほど、確かにそうだな・・」


 「2号車のアイアンさんは鍛冶師ですし、6号車のネオンさんと、うちのアエンさんは魔道具が作れます」

 「ああ、あとで紹介してもらおう・・」

 「了解です・・」




  ダンジョンコアルーム(戦後処理室改め移民管理センター)にて


 深夜を回った頃、最北湖から、移民の最終人数が報告された。

 「これがそのリストですか」

 リストに載っているのは、移住に際して、眷属化の前段階としてスキャンを受け入れた、移住希望者の一覧表である。

 

 「総勢28名、上はランク8から下はランク2まで、各職業取り揃っているね・・」

 「想定していた50名より大分少ないですが、よろしかったのですか?」

 「いや、あれはかなり余裕をもった数字だから、実際にはもっと少ないと思ってたぐらいだよ」

 「そうでしょうか?条件的にはかなり優遇されていたと思いますが?」

 カジャは、ダンジョンマスターの保護下に入れることを選択しないドワーフが居ることに不思議がっている様子だ。


 「そこは種族の違いとしか言いようがないかも。カジャやハクジャ達にとっては、それが当たり前だけど、ドワーフにとってはダンジョンマスターの眷属になるのは忌避される行為らしいよ?」

 「理解できませんね・・強き者に従うのは自然の摂理です。それに逆らって自らを滅ぼすことに何の意味があるのやら・・」

 「でも、賭博師ってそういう人、多くない?」


 カジャは少し考えてから納得したようだ。

 「なるほど、確かにいましたね、破滅型の賭博師が・・だとするとドワーフは種族をあげて博打を打つ傾向があるというわけですね」

 『ぎゃんぶらー』


 んー、ちょっと違う気もするけど、まあ良いか・・


 「それで、眷属化のDPは足りそう?」

 『だいじょうぶー』

 「概算では2650DPになりますね」

 うわ、思ったよりランク高いね。これ全員来たら足りなかったかも・・


 「最北湖にボーン・サーペントと黒蜘蛛4体の死骸を保存してありますので、不足することはなかったと思いますが、その後の活動に支障がでていたかも知れません」

 だよね、黒蜘蛛はまだしも、ボーン・サーペントは吸収するかどうか、まだ迷ってる状態だし・・


 「ご主人様、ボーン・サーペントは吸収なさらないのですか?」

 「全部、素材にしたほうが良いかなって・・」

 「なるほど、ですが召喚リストに載せさえすれば、何度でも呼べるのでは?」

 まあ、コストは高いけど、素材の価値を考えればそれが一番だよね。


 「ただし、ボーン・サーペントが召喚できればという前提がつくから・・」

 レア・モンスターは、召喚に失敗する可能性がある。召喚に呼応できる存在がいないと呼んでも出てこないのだ。

 「それだと大損になりますね」


 「だからしばらくは湖底に沈めておこうかと・・」

 「しかし、盗まれる危険があるのでは?」

 「誰に?」

 「噂を聞きつけた冒険者とか・・・ああ、なるほど、餌ですか・・」


 僕はニヤリと笑った。

 「しばらくは混雑すると思うんだ」

 「そうですね、4人組には良い宣伝塔になってもらいましょうか」


 僕らは最北湖に配置するメンバーの検討に移っていった。


 『うぇるかむかむ』


  


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