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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第10章 ドワーフキャラバン編
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託された希望

前話は加筆してあります。未読の方はご注意ください。

 六つ子の3人は、召喚した乗用馬に乗って、ナーガの隠れ里から、煙の立ち昇る事故現場へと急行した。

 そこには、左右に16輪もの車輪をつけた金属製の車両が、横倒しになって並んでおり、そこに多数のレッドバックウィドウが群がっていた。

 接近する蹄の音に気が付いた、半数の蜘蛛が、新たな獲物に向けて襲い掛かって来た。


 「ウィンド・バースト!!」

 馬を飛び降りて、待ち構えていた姉ドルイドが、風の範囲攻撃呪文を、蜘蛛の集団にぶつける。

 「シャープ・シュート!」

 妹レンジャーは、呪文で重傷を負った蜘蛛に、止めの矢を放つ。

 「左から来るぞ!」

 リーダーは、盾を構えて、接近する蜘蛛から二人を守っていた。


 しかし、獲物が手強いとみた蜘蛛が、後方の仲間を呼び集め始める。


 キチキチキチ


 車両に取り付いていた蜘蛛達が、呼び声につられて3人を包囲するように動きだした。

 「ちょっと不味くない・・ウィンド・バースト!」

 「後ろの馬さん達がピンチかも・・シャープ・シュート!」

 「召喚馬はあきらめろ、今、送還すると後方ががら空きになるぞ・・」

 リーダーは冷徹な判断を下した。


 「「えーー、動物虐待だよ、それーー」」

 自然に優しい二人の姉妹には、受け入れられなかった・・・


 「なら、どうするんだ?・・」

 「たぶん、もう来てると思うんだよ」

 「ああ、そうだね、さっきから馬達が、蜘蛛と違う脅威を感じてるみたいだし・・」

 「ん?なにがだ?・・」

 リーダーの疑問は、馬の鳴き声にかき消された。


 ヒィヒィヒンーー


 蜘蛛に襲われそうになった召喚馬が、助けを求めて嘶いた。

 それに呼応するかのように、馬の影から狼のシルエットが湧き上がった。


 「「バウバウ!」」

 いつの間にか影に潜んでいた、シャドウウルフのチョビとガイルが、蜘蛛の死角から飛びかかり、装甲の薄い胴関節を切り裂いていった。


 キチキチキチ


 新たな脅威の出現に、蜘蛛が警戒音を響かせる。

 しかし、その時すでに2頭の姿は、影の中に消えていた。

 恐怖に怯えて、ただ足踏みを繰り返す召喚馬達、そして倒された蜘蛛の死骸。それらが生み出す影の全てが、シャドウウルフの潜む罠になりうるのだ。


 警戒して接近を躊躇していると、六つ子達から、呪文が飛んでくる。

 怒りにまかせて掴みかかろうとすると、影から狼の牙が襲いかかってくる。

 統率者がいれば、また違う戦い方が出来たのだろうが、この群れには存在しなかった。


 結局、決め手を欠いたまま、蜘蛛は各個撃破されてしまった・・・



 「はぁはぁ、なんとかなるもんだね・・」

 「チョビ達が居ると居ないとでは大違いなんだよ」

 「うちもペットを導入するか・・」

 「「いいね!」」


 「まあ、魔獣は無理だけどな・・」

 「バウ」

 「「ええーー」」


 「それより、救助をするぞ・・」

 「あ、そうだった」

 「でも、生存者いなさそうだよ」


 横倒しになった車両は、扉こそ開いていないものの、側面にはいくつかの覗き窓と銃眼が開いていた。

 そのどれからも、助けを求める声や、蜘蛛に抵抗して放たれる矢などが見かけられなかったのである。

 しかも片方の車両は、中で火災が起きたらしく、未だにもうもうと黒い煙を吐き出していた。


 外から声を掛けても反応もなく、幾つかある扉は中から鍵がかけてあるのか、開けることすらできなかった。

 「まいったな、中を調べることも出来ないぞ」

 「この覗き穴だと、鼠ぐらいしか入れないよね・・中のロックを外すのは無理だと思う・・」

 「あいつらの首根っこ、ひっつかんでも連れてくるべきだったよ」

 隠れ里に置いて来た弟達なら、呪文でも技能でも鍵開けが出来た。


 

 3人が困り果てていると、チョビが興味深げに寄って来た。

 「チョビには中の扉の鍵は、はずせないもんね・・」

 妹レンジャーが何気なく呟くと、チョビが吠えた。


 「バウバウ」

 「え?できるの?」

 「バウ」

 そう言って、チョビは覗き窓から車内を覗うと、すっと姿を消した。


 「ああ、なるほど!室内の影に潜ったんだ」

 しばらくすると、カチャと音がして、後部にある荷物搬入用の扉が開いた。


 「えらいね、チョビ!」

 「ああ、どっかの愚弟よりずっと使えるよね」

 「交換してもらうか・・」

 「「いいね!」」



 後部扉は、レバーによるロック式だったので、狼のチョビでも開けられたようだ。

 車内には、蜘蛛の糸に絡め取られたドワーフの死体が散乱していた・・


 「うわあ・・」

 「夢に見そう・・」

 「全員、死んでいるのか・・」


 見たところ生存者はおらず、殆どのドワーフが顔面に付着してから硬化した蜘蛛の糸で窒息死しているようだった。

 何人かは、巻きついて硬化した糸を無理矢理引きずられたらしく、首の骨が折れていた。


 蜘蛛達は、仕留めた獲物を取り出そうと、車両に群がっていたようである・・



 「こっちは、車内の糸を焼き切ろうとしたんだろうな・・」

 燃えるものが無くなったからか、もう片方の車両からも煙は出なくなっていた。

 車内を覗くと、油でも撒いて火を放ったのか、焦げ臭い煙が充満していた。


 「これじゃあ、自殺するようなものだよ・・」

 「それだけ追い詰められていたんだね・・」

 「ここも生存者なしか・・」


 そうリーダーが呟いたとき、チョビが吠えた。

 「バウバウバウ!」

 「え?声がした?」

 「チョビ、お願い、もう一度、中から扉を開けて!」

 「バウ!」


 煙の充満する車内に、チョビはスキルを使って潜り込んでいった。

 「チョビ、頑張れ・・」

 「火炎耐性の呪文をかけてあげれば良かったね・・」

 「扉が開いたら、俺が突っ込む。だから頼んだぞ・・」

 「リーダーにはもったいないかも・・」

 「おい・・」


 ガリガリと内側から引っ掻く音が聞えたあと、後部ハッチが開いて、煤だらけのチョビが跳び出してきた。

 「クウーンクウーン」

 車内に篭る熱気と、油の焼けた悪臭に、さすがのチョビもダウン寸前である。


 「よしよし、良く頑張ったね」

 「ほら、リーダー、火炎耐性かけたよ。チョビはこっちで治療しようねー」

 「・・扱いが違い過ぎる・・」


 どうやら召喚馬を見捨てるように言った事を、根に持たれているようだ・・

 姉ドルイドは、単にモテ期を僻んでいるだけかも知れないが・・・



 意を決して、熱気の篭る車内に足を踏み入れた。

 煙は後部ハッチが開いた事により、徐々に車外に流れ出しているが、熱気とそれから顔を顰めたくなる様な臭いが、リーダーの行く手を阻んでいた。

 足元には、炭化しかけた座席に蹲る様に、ドワーフの死体が折り重なって転がっている・・


 「・・ほとんどが窒息死だな・・」

 狭い車内で油を燃やせばどうなるか・・分からない彼らではなかったであろうが、死への恐怖が判断を鈍らせたのだろうか・・・

 アルコール濃度の高い酒が積んであったことも災いして、車内の空気はあっという間になくなってしまったに違いない。


 こんな状況で、生存者がいるとは思えないのだが・・

 そう思いながら、車両の先頭へ進んでいくと、そこに、大きな水樽が置かれているのに気が付いた。

 「・・中身が水だから燃え残ったのか・・」

 そう思って、何気なく樽を叩くと、中から声が聞えた。


 「・・だれ?・・お父さん?・・怖いよ・・蜘蛛がくるよ・・」

 

 「大丈夫だ、蜘蛛は追い払った。いま、助けるからな!」

 その場で水樽を開けようとして、リーダーは思いとどまった。

 車内には、未だに火傷しそうな熱気が篭っているし、臭いも酷い。それに何より、床に散乱しているドワーフ達の死体を見せるべきではない・・

 

 「荷馬車の外に樽ごと運び出すから、しっかり掴まってるんだぞ!」

 「・・うん・・」


 中にドワーフの子供が入っているであろう水樽を、無理矢理に抱え上げて、車両の外に運び出した。

 リーダーの張り上げた声を聞いていた姉妹も、慌てて手伝いにやってくる。


 「そっとだ、そっとだぞ」

 「わかってるから、これ鉄枠のとこ、めちゃ熱いんだよ」

 「ガイルは周囲の警戒をお願いね」

 「バウ」


 横倒しになった車両から、少し離れた場所で水樽の蓋をこじ開けた。

 中には、人族で言えば8歳ぐらいのドワーフの女の子が、泣きながら隠れていた。


 「どうしよう、この子・・」

 「どうって、連れて帰るしかないよね・・」

 移民か隊商かはわからないが、どうみても係累は全員死亡していた。


 「ひとまず隠れ里に戻ろう。これ以上ここにいると蜘蛛が集まってくる可能性がある・・」

 リーダーのその言葉を聞いて、ドワーフの女の子が泣き出した。

 「ほら、リーダーが怖がらせるから」

 「大丈夫、大丈夫だよ、ここには強い狼さんがいるからねー」

 狼と聞いて、さらに泣き続ける女の子であった・・


 「うーん、まだモフラーには早かったか・・」

 その時、遠くからガイルの吠え声が聞えた。

 「何かくるよ!」

 三人は素早く召喚馬を集めると、リーダーの前に女の子を乗せた。


 「一端、南下してから西に向うぞ」

 「了解、跡をつけられないようにだね」

 「里に蜘蛛を引き連れるわけにいかないもんね」

 「そうだ、馬なら楽に引き離せるはずだ・・その見極めは任せたぞ」

 「了解!」


 回復したチョビも3人を守るように、横に並んだ。

 「バウ」

 「見えた、何かに追われている?」

 「いや、追われているというよりは、先導しているように見えるが・・」


 北の方角から事故現場に戻ってきたガイルの後ろには、大きなアルマジロが2頭、つき従っていた。

 「何あれ?」

 「でっかいアルマジロ?」

 それを見たドワーフの女の子が声をあげた。


 「ルドルフ!ブライアン!」

 その声に、アルマジロが嬉しそうに駆け寄ってきた。


 「この2頭が、荷馬車を牽いていたのか・・」

 「でもどうやって助かったのかな?」

 「荷馬車が転倒したときに、解き放ったんだね、きっと・・」


 荷馬車が横転したときに、蜘蛛に追いつかれることは覚悟したのであろう。そして放っておけば、真っ先に喰われるはずのアルマジロを、逃がした。

 でも逃げたはずのアルマジロが、飼い主を心配して戻ってきたときに、ガイルに発見されたようだ。


 「うん、君達もえらいね」

 妹レンジャーが、頭をなでると、アルマジロは人見知りもせずに、気持ちよさげに目を閉じている。

 「よしよし、皆まとめて面倒みようじゃないか」

 「いいよね、リーダー」


 リーダーは肩を竦めて答えた。

 「もう決まったことなんだろ?だけどちゃんと面倒は見るんだぞ・・」

 「「やったね!」」


 そして牽引アルマジロ2頭とドワーフ一人を増やした一行は、ナーガの隠れ里へと帰還していった・・・







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