表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第10章 ドワーフキャラバン編
365/478

ここは放棄して戦線を下げるぞ

ちょっと短いです。加筆するか、次話を早めに投稿するかします。

午後7時50分頃に加筆修正しました。

 「ビビアン、終わったぞ・・」

 ハスキーが後ろから支えるように、立ち尽くすビビアンの両肩を叩いた。

 振り向きざまに何か言いかけたビビアンだったが、魔力切れによる急速な睡魔に襲われて、口を開きかけたまま、眠ってしまった。


 「よく頑張ったな・・」

 ハスキーは、ビビアンをそのまま横抱きに抱え上げると、仲間の元へと連れて行った。

 「おいおい、お姫様扱いかよ、相棒」

 「それだけの働きをしたってことさね。今は寝させてあげな」

 黒蜘蛛の死体を検分していたスタッチとソニアが、いつもの調子で出迎えた。


 「こいつらについて何か分かったか?・・」

 「いや、さっぱりだ。奇形の蜘蛛としかわからん」

 「アタシも見たことないね。レッドバックウィドウの上位種にしては、ヘイストなんて使ってきたからね」

 ハスキーが見ても、奇妙に足が長いだけの黒後家蜘蛛にしか見えなかった。毒霧までは想定内だが、まさか加速まで使いこなす存在だとは思わなかった。


 「とにかくギルドに報告だな。できれば死体の一つでも持ち帰りたいところではあるが・・」

 それとなく側のエルフに話を振ってみたが、きっぱり断られた。


 「今回の報酬は、先に提示してあったはずですよね」

 ハリモグラを3匹従えながら、テオと名乗ったエルフが強気に言い返してきた。


 「しかし、こんなに湧いてでるとは聞いていなかったぜ。追加の報酬があっても良いんじゃないか?」

 スタッチが粘って交渉を始める。


 「キュキュキュ!」

 「だとしても、これはダメだそうです」

 「おい、交渉役はそっちかよ!」

 スタッチは、通訳のエルフから、この場で一番偉そうなハリモグラの親方に視線を移した。


 「レッドバックウィドウの総数は最初から曖昧だったから、多少増えても文句はないが、この黒いのは完全に勘定に入ってなかったろ?だったら1体ぐらいこっちに譲ってくれても良いだろう?」

 「キュキュ、キュキュキュ」

 「この死体の価値を分からない相手に譲る気はないそうです」


 「いや、俺らも冒険者ギルドに新種の発見報告をしたいんだよ」

 「キュキュキュ」

 「それなら1体まるごとはいらないだろうと・・」


 「なら半分でいいや」

 「キュ」

 「じゃあ四分の一」

 「キュキュ」

 「おいおい、十分の一は酷くねえか・・」


 やがて駆け引きが終わって、スタッチが意気揚々と引き上げてきた。

 「足1本と、牙2本、目玉4個、もぎとってきたぜ、へへへ」

 「いや、どう見ても交渉で負けてたろう・・」

 「ハリモグラに言い負かされるとか、情けなくて涙がでるさね」


 黒蜘蛛の死体は4体あるので、吸収ポイントに必要な9割を残したとしても、その4倍ぐらいは剥ぎ取っても問題はないはずであった。

 「厳しい交渉しましたね、親方」

 「キュキュ」

 「なるほど、職人は妥協してはいけないと」

 「キュ」

 

 テオと親方は、職人の心得の話をしながら、塹壕内に変換された木製の橇を引き上げる作業をしていた。

 4台あるので、それぞれに黒蜘蛛の死体を乗せて、最北湖まで運ぶようだ。

 3台は熊が牽くが、残り1台をどうするかで、、もめた。


 「キュキュ」

 「いや、ここは譲れないね、ブヒィ」

 「キュキュキュ」

 「確かにそっちは眷属としては先輩だが、これはアタイ達の戦果だ。凱旋するなら牽いて行くのはこっちの権利だろ、ブヒィ」

 「キュー」


 希望者が多すぎて、もめたのだった。

 「皆、橇を牽いてみたかったんですね・・」

 結局はアイスオーク三姉妹が、その栄誉を勝ち取ったようだ。

 


 塹壕は領域から外して、埋め立てる事になった。

 隘路はそのままにするしか方法がないが、この先、通過する隊商や冒険者がいるとするなら、塹壕は邪魔以外の何者でもない。

 なので、黒蜘蛛の死体は、最北湖に沈めて保管することにしたようだ。


 「準備が出来次第、最北湖に向けて撤収!」

 「「「ガウガウ」」」

 「あいよ!、ブヒィ」

 「カタカタ」

 

 殿を骸骨戦士長が務めながら、部隊は南へと下っていった。

 ちなみに戦闘が終結してからすぐに、ロザリオは熊に纏わり付いて離れなかった。


 「私の名はロザリオという。できれば貴殿の名前を教えてくれないか?」

 「ガウ」

 「そうか、『アキ』というのか・・この季節にちなんだ良い名前だな・・」


 それを眺める、テオ以外のエルフ親衛隊の隊員達は・・

 「さすが大尉だ、抜け目ない」

 「我々もアピールするべきではないだろうか?」

 と隘路の崖の上から羨ましそうに見ていたのであった・・・




  ナーガ族の隠れ里にて


 昨晩に、空中に張られた蜘蛛の糸を伝って強襲された後は、隠れ里は穏やかであった。まるで、大蜘蛛達は、この場所を攻めるのを諦めたかのようであった・・・


 「そんなわけ、ないだろうがな・・」

 「嵐の前の静けさってこと?」

 「こっちが油断するのを待っているのかも」

 

 六つ子のリーダーと二人の姉妹は、何度目かの巡回を終えて、里の広場で集合していた。

 ちなみに残りの3人は、昨晩、頑張りすぎてダウンしていた・・

 何を頑張ったのかは、ここでは追及しないが・・


 応援に来てくれたシャドウウルフのチョビ達は、今は里の周囲の斥侯に出かけている。彼等の影を伝った移動には、妹レンジャーも同行できない為に、お留守番である。

 「ちぇー、背中にしがみ付いていれば、私も影に潜れると思ったんだけどなー」

 「いや、それ無理だろ・・」

 「出来たとしても、途中で手を離したら、影空間から出て来れなくなるわよ」

 「それは勘弁だなー」



 そんな会話をしていた3人に、ナーガ族の戦士長が駆け寄ってきた。

 「伝令蛇から報告だ。東北東に、黒い煙が立ち昇っているらしい、シュル」

 「距離は?」

 「里から見えないから、5kmぐらいは離れていそうだ、シュル」


 「5kmなら索敵できるな・・」

 「魔力も回復したし、鷹を送ってみるよー」

 レンジャー妹が、召喚の呪文を唱えると、呼び出した2羽の鷹を空に解き放った。


 「さあ、見ておいで!」

 一直線に東へ向う鷹を見送ったあと、それらと視覚を同調し始めたレンジャー妹を残して、他の二人は荷物の準備を始めた。煙の正体が判明したら、すぐに現地に移動できるようにである。

 「すまないが、うちの連中を叩き起こしてくれないか」

 「ああ、そうだな。声を掛けさせるとしよう、シュルシュル」


 たぶん、すぐには動けないだろうが、自分たちが出かけている間の、里の守りを任せることは出来るだろう。

 というか、それぐらいさせないと駄目だな・・



 「いた、何かが蜘蛛に襲われてるよ」

 「冒険者か?」

 「馬車にも見えるけど、見たことない形だね。四角い金属の箱みたい・・2台ある・・」

 「蜘蛛の数は?」

 「うーんと、10以上だけど20はいない感じ・・」

 「煙はその馬車もどきから出てるの?」

 「・・だね・・片方から、もくもく出てる・・」


 まだ蜘蛛が群がっているということは、中に生存者がいる可能性があった。

 「よし、救出に行くぞ!」

 「蜘蛛の誘いって線はないの?」

 「可能性はあるが、そうだとしても、囮にされている誰かが居るという事実は変わらない・・」

 「はあぁ、いつもの事か・・」

 ドルイド姉は、リーダーを説得することを諦めて、騎乗用の馬を5頭召喚した。


 「こいつらなら、蜘蛛が罠を張っていても、振り切って逃げれるからね」

 蹄の音で、接近に気付かれてしまうが、今は、隠密性より速度を優先するしかない。

 多めに召喚したのは、現地で生存者がいた場合の予備だ。騎手がいなくても、召喚者である姉ドルイドが先導すれば、素直についてくるはずである。


 「私も行こう、シュル」

 ナーガ族の戦士長が、リーダーを心配して同行を申し出てきたが、それは断った。

 「貴女はこの里の守りのかなめだ。罠かもしれない場所に連れて行くことはできない・・」

 「しかし・・シュル・・」

 「大丈夫だ、危険だったら戻ってくる・・」

 「約束だぞ・・シュルシュル・・」



 「・・ちょっと、いつの間にかリーダーも良い感じになってるんですけど・・」

 「アタシは、チョビ達がいるから寂しくないよ」

 「・・一人ぼっちは、あたしだけかい・・」


 姉ドルイドは、乱暴に乗用馬に跨ると、声を張り上げた。

 「さっさと行くよ!」


 「「お、おう・・」」

 

 二人は慌てて馬に跨ると、遭難現場へと向けて出発した・・・


 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ