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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第10章 ドワーフキャラバン編
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黒き落し仔

早朝に投稿する予定でしたが、この時間まで伸びてしまいました。申し訳ございませんでした。

 それは言葉にすれば、巨大な黒い蜘蛛であったけれど、間近で見れば、それでは言い表せない恐ろしさがあった。

 全高3m、全長にして6m、レッドバックウィドウのほぼ2倍の大きさである。特徴的な背中の赤い模様が無く、全身が真っ黒で、腹の下面に砂時計の文様が浮き上がっているのが、唯一の共通点と言えるかも知れない。

 

 8つの赤い目で、周囲を警戒しながらも、顎から生えた牙から、ダラダラと紫色の唾液を垂れ流していた。歪なほど長い8本の足で、器用にその巨体を支えながら、上下にゆっくりと身体を揺らしている。まるで何かのタイミングを計っているようだ・・

 

 「こいつらが親玉ってわけだ」

 塹壕の防衛は熊に任せて、スタッチはビビアンと黒い蜘蛛の間に割って入った。

 「4体も出張ってくるようじゃあ、良くて中ボスさね」

 その脇でソニアも、もう1体の蜘蛛を抑える位置に移動していた。

 「どちらにしろ、ここで倒す・・」

 ハスキーは、ビビアンを背中に庇いながら、二人への援護の為に弓を構えた。

 そして反対側にいるロザリオに声を掛けた。


 「そっちの2体は任せる・・」


 「ああ、安心してくれ。貴殿の想い人には、蜘蛛の足一本触れさせない・・」

 ロザリオの発言に、ビビアンの精神集中が揺らいだ。


 「・・ちょ、ちょっと、何を言ってるのよ・・」

 術者の動揺は、そのまま呪文に影響する。

 炎の壁の威力が、急激に変化し始めた。


 「ビビアン、集中が乱れてるぞ・・」

 「・・ごめんなさい・・でも・・」

 「本当の事を言われて動揺するな・・」

 「・・えっ・・それって!・・」

 炎の壁の出力が急上昇した。


 「うわっ、なんだ!熱い、熱い、ブヒィ」

 「義姉じゃ、炎の壁から距離をとるんだ、ブヒィ」

 「火炎術士がピンチなんだべか?」

 塹壕の中でアイスオーク3姉妹が、とばっちりを受けていた。


 「おいおい、この場面で惚気るかね、相棒」

 「いつもの調子に戻ったってことさね。さあ、気合いれていくよ!」

 「「おう!」」



 ビビアンを中心にして、3人と反対側では、テオとロザリオが2体の黒い蜘蛛と対峙していた。

 「テオ軍曹、一人で抑えきれるか?」

 この中で、一番ランクの低いであろうテオをロザリオが気遣った。


 「イエス、マム、後方支援もありますので、大丈夫です」

 「「キュキュ!」」

 テオとビビアンの間に陣取った、ハリモグラ隊の2匹が、元気よく答えた。


 「そうか、奴等は見た目以上に身体能力が高そうだ。しかも凶悪な毒牙を持っていると予想される。倒すことより、後衛を守ることを優先しろ」

 「イエス、マム!」



 ロザリオ自身は、たった一人で黒い蜘蛛の前に立ちはだかっていた。

 「カタカタ?」

 骸骨戦士長が支援を申し出てきたが、ロザリオはそれを断った。


 「スケルトン部隊は、塹壕を死守せよ。黒い奴がこれだけとは限らんからな」

 「カタカタ」

 塹壕戦で常に最前線で戦っていた骸骨部隊の損耗は、激しかった。

 彼らには毒は効かないので、どうしてもテオや冒険者達の盾になることが多かったのだ。

 しかし毒が効かなくても、爪や牙で攻撃されれば傷を受ける。8体いた前衛の骸骨戦士は、2体を残すだけになっていた。スキルで再生させるにも、骸骨戦士長達の魔力は、まだ回復していなかった。

 スカルリーダーは、素直に熊と3姉妹の後詰をすることにした。

 


 ギチギチギチギチ


 4体の黒い蜘蛛と、4人の戦士が、お互いに身構える・・・


 ギィギィーー


 先に仕掛けたのは黒い蜘蛛の方だった。


 スタッチは、その突進を大盾で受け止めると、反撃で蜘蛛の前足に切りかかる。

 「こいつはやべえな・・吹っ飛ばされないようにするのが精一杯で、攻撃に力が乗せられねえぞ・・」


 ソニアは、両手で構えた戦斧を、蜘蛛の顎を目掛けてカウンター気味に叩き込んだ。

 たたらを踏む蜘蛛だったが、両前足を振りかざして反撃してきた。

 「足の爪に毒はないようだけど、思ったより痛いさね」

 片方の爪を避けきれずに、肩に傷を負っていた。


 ハスキーは、二人の援護の為に矢を放ったが、黒い蜘蛛の硬い甲殻を射抜くことが出来なかった。

 「硬いと予想はしていたが、刺さりもしないとはな・・ならば・・」

 そう呟くと、背中の矢筒に手をかざして呪文を唱えはじめた。

 「放たれし時を待つ鋼の矢よ、炎を纏いて敵を焦がせ・・アロー・オブ・フレイム!(燃え盛る矢)」

 詠唱を終えて、矢筒から引き抜いた2本の矢の矢尻からは、炎が立ち上っていた。


 「矢のダメージは攻殻で防げても、追加の火炎ダメージは防げまい。いくぞ、ツイン・シュート!」

 

 再び、ソニアに反撃をしようとしていた蜘蛛に、2本の火矢が突き刺さった。思わず、後ろのハスキーに敵意を向けた蜘蛛であったが、その隙を見逃すソニアではなかった。

 「お前の相手はアタシさね!」

 力一杯振りかぶった戦斧を、黒蜘蛛の頭部に叩きつけた。

 「パワーアタック!!」


 硬い攻殻を叩き割って、蜘蛛の紫色の体液が飛び散った。

 片側に並んだ4つの目が全て潰れている。蜘蛛は怯んで、1歩後ろに下がった。


 「いけるぞ、ソニア、もう一度だ」

 「あいよ、援護頼んだよ」


 その横でスタッチが叫ぶ。

 「俺の援護もしてくれよ、相棒!」

 ハスキーは横目でスタッチの様子を確認すると、ソニアの援護に集中した。


 「大丈夫そうだな、こっちが終わるまで耐えてくれ」

 「おいおい、扱いが酷くねえか?」

 「男なら、文句を言わずに良いとこ見せるさね」

 

 「こん畜生め、やってやろうじゃないかよ」

 どちらにしろスタッチには、ソニアほどの攻撃力はなかった。だが防御力なら負けないという自負がある。

 「かかってきやがれ、完封してやるぜ」

 攻撃を捨てて、防御に専念したスタッチは、黒蜘蛛の攻撃を弾き返し続けた・・・



 テオはさらに過酷な戦闘を強いられていた。

 元が遠距離戦が主体な上に、盾の技能も持っていない。

 攻撃はなんとか通用するが、相打ち覚悟では、倒れるのは絶対にこちらが先だ。元来、エルフは接近戦に弱いとされている。できれば離れて戦いたいが、後ろの術者を守る為には、ここで立ち向かうしかなかった。


 右手にロングソード、左手にショートソードを握った二刀流で、蜘蛛の前足の攻撃を捌きながら、噛み付きを避ける。攻撃は考えず、とにかく時間稼ぎをすることを最優先に戦っていた。

 「キュキュ」 「キュキュキュ」

 それを助けるのが、2匹のハリネズミである。

 2匹はテオの後方で、蜘蛛を観察しながら、その攻撃の瞬間を声で知らせていた。


 「キュキュ(右足、避けて)」 「キュキュキュ(噛み付き、来るよ)」

 そして、テオが避けきれないと判断すると、背中からトゲを飛ばして蜘蛛を牽制していた。


 「なんとかなるもんだな・・」

 テオは自分でも驚くぐらい、回避が成功することに驚いていた。剣によるパリィも、普段は使わないのに実戦ではほとんど失敗していない。

 だが、テオはそれを自分の力量が上がったと勘違いすることはなかった。

 

 「モフモフが応援してくれてるからだな、きっと・・」

 確かに、2匹の的確な指示は、テオの回避力を底上げしていた。しかしそれだけではこの状況は説明がつかなかった。

 テオは気付いていない・・右手のロングソードが、パリィをしようとするたびに、薄く光を放っていることを・・・

 そして鑑定さえしてあれば、それが+2ディフェンダーという名の防御系魔法剣であることを・・・

 


 最後にロザリオは・・・無双していた・・


 「どうした、お前たちの力はそんなものか?これならレッドバックウィドウの集団の方が歯ごたえがあったぞ」

 黒蜘蛛の攻撃は盾と剣で受け流し、さらに反撃までしている。

 毒には耐性があるし、通常の攻撃は抜けない、しかも黒蜘蛛は光属性に惰弱性があるようで、エレメンタルソード(光)が良く効いていた。

 

 「アンデッド・・ではないが、お前たちは闇の眷属のようだな・・」

 見た目は醜悪な巨大蜘蛛だが、どうやらそれだけではないらしい。

 「奥の手があると、厄介だな・・まずは1体!」

 ロザリオが止めを刺そうと突進すると、それを待ち構えていたように、黒蜘蛛が毒霧を吐いた。


 「だが、遅い!」

 ラウンドシールドを掲げて距離を詰めると、毒霧が広がる前に盾で押さえ込んでしまう。もちろんロザリオ本人には毒霧は効果がない。


 「もらった!!」

 立ち竦む黒蜘蛛をロザリオの光霊剣が切り裂いた・・・かに見えた・・・


 「なに!?」

 外す間合いではなかった・・受けられたのならまだしも避けられるとは思っていなかった。


 ロザリオの前には、不気味に上下動を繰り返す、黒い蜘蛛が立ちふさがっていた・・・



 


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