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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第10章 ドワーフキャラバン編
359/478

煉獄の赤壁

投稿が遅くなりました。申し訳ございませんでした。

今日は夜にもう一話、アップする予定です。

 アエンの魔道具工房チームの開発したマジックアイテムによって、キャラバンの巡航速度は安定し、蜘蛛の追撃を受けないまま、最北湖付近まで逃げ切ることに成功していた。

 移動車両の通行が困難そうな岩場も、いつの間にか掘りぬかれて、切り通しの様な道が出来上がっていた。


 『おいおい、地形が変わっていないか?あれ』

 驚きの声を上げる団長に、ワタリが答えた。

 「うちは、掘るのは得意っすからね」


 正面から見ると、壁が立ち塞がっているように見えるが、近づけばそれが、斜めに削り取られた岩盤だとわかる。左右の壁が合わさる三角形の頂点部分に、切り通しの通路が南に向けて100mほど続いていた。

 道の幅は20mほどで、やはり両側は岩盤の壁になっている。壁の高さは場所にもよるが、およそ5・6mほどであった。


 その道を、キャラバンは一列になったまま走り抜ける。

 道のあちこちでは、スケルトンが、残土や岩の破片を担いで運び出していた。

 最初はその不気味さに怯えるドワーフもいたが、側を移動車両が通過する度に、手を振って合図してくるスケルトン達に、すぐに慣れていった。

 

 「スケルトンなんて、アンデッドの一種と思って嫌っていたけれど、こうやって間近に見ると、真っ白でピカピカしていて清潔そうじゃないか」

 いつもより真っ白なのは、ボーン・サーペントの強酸ブレスで漂白されたせいなのだが、それはこの際置いておこう。

 さらに穴熊チームの縦回転を見た7号車から、歓声があがっていた。


 「見てみて、すごいよ!」

 男の子が興奮して覗き窓に張り付くように外を見ていった。

 穴熊に対抗意識を持った雪原ウサギのピョン太が、縦回転を真似するが、ただの前転にしか見えなかった。

 それはそれで、7号車の車内では大うけしたのだが・・・



 キャラバンが切り通しを抜けて、休憩予定地の南岸へ向ったのを見届けると、眷属達の雰囲気が変わった。

 「よし、歓迎ムードはここまでだ。蜘蛛の迎撃に頭を切り替えろ!」

 ロザリオの号令で、スケルトン部隊は一斉に武器を構えた。

 「「カタカタ」」


 「「ギュギュ」」

 穴熊チームは、キャラバンが通過するまで出来なかった作業にとりかかる。


 両側の崖の上から、弓を装備したエルフ・レンジャー達が配置についた事を知らせてきた。

 「敵、接近中、距離550、5分で到達するものと思われます!」

 「思いの外、距離を詰められているな。作業、急げ!」

 「「ギュギュ!」」


 そこへビビアン達が、案内されてやって来た。

 「貴方がここの指揮官なのか?・・」

 ハスキーが戸惑いながらロザリオに話しかける。


 「そうだ、我が主より戦闘指揮を仰せつかったロザリオという。今日はよろしく頼むぞ。ちなみに私の階級は大尉だ」

 「いや、その大尉とかいう階級も聞いたことないけどよ、俺らは冒険者なんで、軍隊式の序列は勘弁してくれよな」

 スタッチが頭を掻きながらボヤいた。


 「なに、そちらに佐官でもいると、命令系統に矛盾が起きるのでな。階級に関心がなければそれで構わんよ。今回は私の指示に従ってくれ」

 「頼まれたのは塹壕の守備だったはずさね。けど、見当たらないのはどういうわけだい?」

 ソニアが訝しげに周囲を見渡した。

 確かに見える場所に、それらしい防御陣地はなかった。


 「ああ、それなら今、出来上がる」

 「「はあ?」」

 4人が聞き返すのと同時に、前方の地面がボコっと音を立てて沈下した。


 「・・地下を掘りぬいていたのか・・」

 「キャラバンが通り抜けるまで、待つ必要があったのでな。仕上げを行なっていたところだ」

 みるみるうちに、地盤沈下が広がり、幅5m、深さ10mの塹壕が姿を現した。左右は20mあり、道を完全に塞いでいる。


 「でもこれ、狭くない?」

 ビビアンが、塹壕を覗き込みながら指摘した。

 深さは十分あるが、幅が5mでは蜘蛛が跳び越えて来そうである。


 「そこで貴殿の呪文をお願いしたい。あの戦いで見た炎の壁は、素晴しい出来であった・・」

 「でしょでしょ、わかる人には解るのよね」

 気を好くしたビビアンが、胸を叩いて請け負った。


 「任せておいて、蜘蛛の子一匹通さないから」



 ビビアン達が配置に着くと同時に、エルフ・レンジャーから報告が入る。

 「敵、接近!距離100、すぐに隘路に侵入してきます!」

 「敵の数は?!」

 「計測不能、ものすごい数です!!」


 言われて前方に目を凝らせば、黒い津波が押し寄せてくるのが確かに見えた・・

 広範囲に広がっていた蜘蛛の集団が、漏斗状の地形によって一点に集中した結果、ぎっしりと隙間無く並んで突き進んでくる。


 ギチギチギチ  ジャカジャカジャカ  ギチギチギチ


 レッドバックウィドウの立てる警戒音と、足音が、重なり合って隘路に響き渡っていった。


 「距離50!先頭集団が隘路に侵入します!」

 「スケルトン弓兵、撃て!」

 「「カタカタ」」


 後方から4体の骸骨弓兵が、弓を曲射で撃ち始めた。狙うのではなく、威嚇射撃に近い。ただし密集しているので、蜘蛛のどれかには命中する。


 「やはり弓では効果がないか・・」

 遠目にも、矢が突き立たずに弾かれるのを見たハスキーが呟いた。

 「構わん、あれは蜘蛛の注意をこちらに牽き付ける為の囮だ。本命は別にあるからな」

 ロザリオはビビアンを振り向いて言った。


 そのビビアンは、正面を見据えて精神集中をしながら、魔力を練り続けていた。

 「・・効果範囲は通常の半分もいらない・・必要なのは威力と高さ・・」


 その間にも、射手に挑発された蜘蛛が、速度を上げて突進してきた。

 「スケルトン盾兵、前へ!こちらへ蜘蛛を寄せ付けるな!」

 「「カタカタ」」


 盾を構えた8体の骸骨盾兵が、塹壕の手前にずらりと並んで戦線を構築する。

 「2列目、前へ!」

 「「カタカタ」」 「了解です大尉」  「お、おう」

 少し下がった第二防衛線は、骸骨戦士長2体とテオ、それにハスキー達3人が並んだ。


 その後ろにビビアンを守るように、ロザリオとハリモグラチームが円陣を組んでいる。

 前衛を突破されて、接近戦になってしまえば、親方達では蜘蛛を止める事は出来ないであろうが、アースソナーによって奇襲を防ぐことはできる。

 ここが最終防衛線である・・



 「接敵します!!」

 足の早い個体が、3体、塹壕の縁まで辿り着き、予想通りに跳び越えてきた。

 それに体当たりするように、盾を叩きつけて骸骨戦士が弾き返す。

 3体の蜘蛛は、塹壕を飛び越えられずに、底に落ちていったが、そのうちの1体は骸骨戦士を道連れにした。

 それを見た、後方の蜘蛛の集団が勢いを増して進軍して来た。

 

 「今だ!」

 「ウォール・オブ・ファイアーーー!(炎の壁)」 


 一斉に塹壕を跳び越えようとしたレッドバックウィドウの眼前に、燃え盛る炎の壁が出現した。

 それは出現位置に居た、横一列に並んだ蜘蛛達を、一瞬にして焼き尽くすと、隘路を完全に遮断する、炎の障壁となって立ち塞がった。

 その熱量は、塹壕のこちら側にいる骸骨戦士が、思わず1歩下がるほどであった。

 

 運よく炎の壁の下敷きにはならなかった蜘蛛達も、結局は同じ運命を辿ることになった。

 目の前には灼熱の炎が燃え盛っているが、後ろから押される為に立ち止まることも出来なかったのだ。圧力に押し出されるように、炎に突っ込んで、焼かれていった。


 ギチギチギチギチギチ


 蜘蛛の断末魔の叫びが、隘路に木霊していく・・


 「よし、蜘蛛どもは急には止まれないはずだ。塹壕に落ちても生き延びている奴には止めを刺してやれ」

 「「カタカタ」」


 炎の壁を潜り抜けた蜘蛛は、その殆どが半死半生になってしまう。立ち止まれば次の瞬間には燃え尽きてしまうので、生き延びる為には前方に突き抜けるしかないのだ。

 しかし、そこには深さ10mの塹壕が口を開けて待っている。

 底まで落ちた蜘蛛は、落下ダメージで止めを刺されることになる。


 咄嗟に糸を噴出して、壁にとまろうとした個体も存在した。

 しかし、その糸に炎が引火して、追加のダメージを受けて焼死してしまう。


 炎の壁を潜り抜けて、生き延びられる個体は、一握りしかいなかった・・・


 それらは、仲間の死体の上に落下して、墜落死を免れた蜘蛛である。運よく生き延びれば、10mの深さの塹壕も蜘蛛にとっては大した障害にはならない。簡単に登ることは出来るが、這い上がる直前の隙を狙われると、成す術がなかった。

 前衛の戦士達が、一斉に群がってきて、タコ殴りにされてしまうのであった。



 「これ、そのうち塹壕が死体で埋まっちまわないか?」

 3体目の蜘蛛を叩き落しながら、スタッチが叫んだ。

 「確かに、もう底は見えなくなってるさね」

 手近に獲物がいないので、塹壕を覗き込んでいたソニアが答える。


 「このままだと、ほとんどの蜘蛛が生き延びて、こちら側に這い上がってきそうなんだが・・」

 ハスキーがロザリオに心配げに尋ねた。


 「大丈夫だ、そこは抜かりはない」

 ロザリオの声とともに、塹壕の底にあった大量の蜘蛛の死体が消失した。


 「なんだあ?消えちまった」

 「いったいどんな手妻をつかったさね」

 驚く二人を余所目に、ハスキーが尋ねた。


 「これは、貴方の仕業か?・・」

 「私ではなく我が主の力だ」

 「なるほど・・」


 ハスキーは、畏怖の念を持ちながら、塹壕を見下ろしていた・・・



 それを遠くから聞いていたビビアンは、

 「・・単に一辺に吸収しただけでしょうに・・」

 と心の中で突っ込みを入れていたのであった・・・



  


 


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