隊商が襲われています、どうしますか?
浮き草の群生地では、ベニジャ率いる氷竜騎兵隊が、殿を務めていた。
キャラバンを追いきれなくなった蜘蛛を、自らを囮にして、縦穴に誘い込み、大蛙がそれを捕食する。粗方、目の届く範囲の蜘蛛を呼び集めてしまうと、撤退の準備をすることになる。
「新手が来ました、お嬢、そろそろ戻りませんと、ジャジャ」
リザードマン・エリートが、接近してくる新たな蜘蛛の集団を見つけて報告してきた。それは大型コロニーに匹敵する規模の集団であった。
「潮時だね、オマエら戻るぜ、ジャー」
これ以上の足止めは危険とみて、ベニジャは撤退を指示した。
アイスドレイク部隊は地上を、大蛙チームは地下水道を伝って、最北湖を目指した。
ダンジョンコアルーム(司令部)にて
「ベニジャの部隊は撤退を開始したみたいだ。コア、予定通り、痕跡を消しながら領域を縮小して」
『らじゃー』
カジャと相談した結果、浮き草群生地の縦穴は放棄することにした。
最初は陣地化して、罠と大蛙で撃退しようという方針だったのだけれど、リスクが高すぎるということで、取りやめにしたのだ。
「縦穴に潜れば反撃されないのは良いんだけど、迂回されると意味なくなるよね」
「はい、今の段階で、こちらがダンジョンマスターであることを明かすのは得策ではないと思われます」
仕掛けるなら、敵が逃げられない場所か・・
「湿原地帯を通過してしまえば、敵の勢力範囲から抜け出せます。その先まで追ってくるかどうかは不明ですが、まず間違いなく、境界線で全力戦闘を仕掛けてくると思います」
だとすると、ここか・・
コアの投影した周辺地図に、三角形のマーカーが点滅していた。
その意味は「重要戦略拠点」、場所は最北湖であった・・・
最北湖北岸、第二補給拠点にて
「これで良くなるはずでしゅ」
「手間かけさせたね、恩にきるよ」
ビビアン達の治療の為に、ヘラが転送されて現地入りした。その治療が、今、終わったところであった。
あれだけ苦しんでいた3人だったが、今は元気を取り戻して、水をがぶ飲みしていた。
お腹も減っているようだが、それは暫く禁止である。
「あーー、酷い目にあったわね」
ビビアンが、憑き物が落ちたようにサッパリした顔で伸びをしている。
「酷い目にあったのは、こっちの方だぜ・・」
スタッチが恨めしそうにビビアンを見た。
「なによ、アタシの所為だって言うの?あれは食材が傷んでいたか・・もぐ・・」
ソニアが慌ててビビアンの口を塞いだ。
なぜなら、ここがその食材を売ってくれた場所なのだから・・
「食材に問題は無かったさね。きっと食べ合わせが悪かったんだろうさ」
「・・もがもが!」
ビビアンが反論しようとするが、ソニアはそれを許さない。がっちりホールドして黙らせた。
「とにかく、ビビアンは、しばらくの間は料理禁止さね」
「・・もが・・」
自分でも責任の一端は感じていたのか、ビビアンは大人しく受け入れた。
「さて、俺達の安全が確保された所で、これからどうする?」
「まずは状況の確認だな・・彼らは大氾濫を認識しているのか?」
ハスキーがソニアに尋ねた。
「そこらへんは、直接話して欲しいさね」
ソニアが後ろに声を掛けると、一人のツンドラエルフが姿を現した。
「どうも、この補給拠点の担当者のテオと言います、よろしく」
4人がそれぞれ紹介を終えると、テオが本筋を話し始めた。
「実は、うちのダンジョンに北の山脈からドワーフの皆さんが移住することになりまして、そのキャラバンが、蜘蛛に襲われて困っているところなんです」
その話を聞いてビビアンが首を傾げた。
「ドワーフって、ダンジョンマスター嫌いで有名だけど、移住なんて良く承知したわね?」
「まあ、そこはあちらにも色々事情があるようなんで、うちのマスターは基本が来る者拒まずですからね」
「なるほどな・・それであの雑多な集団が出来上がったわけだ・・」
ハスキーが目を向けた先では、エルフと穴熊とスケルトンが、何やら共同で土木作業をしていた。
「キャラバンは、蜘蛛の大群を引き連れたまま、1時間後にはこの場所にやってきます。その撃退に、皆さんのご協力をお願いしたいと・・」
「なるほど、仕事の依頼ね!」
勢い込むビビアンを、ハスキーが押し止める。
「今はギルドの依頼の最中だ。他の仕事は請けられない・・」
「ですが、その途中でモンスターの大群に襲われている隊商が居たとしたらどうでしょうか?」
ビビアンが、テオの言いたいことを察知して話を続けた。
「そんな場面に遭遇したら、腕に自信のある冒険者パーティーなら、手を貸すでしょうね」
「そして救われた隊商は、感謝とともに冒険者達にお礼を差し上げることになるでしょう」
そこへスタッチが割り込んできた。
「で、そのお礼ってのは幾らぐらい?」
「おい、まだ請けるとは・・」
「金貨では無粋なので、隊商ではボーン・サーペントの骨を用意していると聞いています」
「「「よし、乗った」」」
ハスキー以外の3人の声がハモった。
レア・モンスターであるボーン・サーペントの骨は、魔道具の素材としては1級品である。アンデッド属性と水棲属性を兼ね備えている為に、防具にすれば、闇耐性、水氷耐性が付加される。さらに武器にすれば、対アンデッド、対水棲、対亜竜と、戦士にとっての夢素材であった。
またアクセサリーに加工すれば、水中呼吸、水中行動の付与がつけられるし、ワンドやロッドにすれば、闇と水の呪文系統を強化できる。
「お前らな・・」
現金な仲間の反応にあきれるハスキーの肩を、スタッチが叩く。
「いいじゃねえか、困っているときはお互い様だろ? 腹痛を治療してもらった恩もあるし、ここは一肌脱ぐとしようぜ、な、相棒」
「スタッチもたまには良いこと言うじゃない。そうよね、原因不明の病気を治してもらったんだから、蜘蛛狩りぐらい手伝わないと」
ビビアンは、あくまであの原因は謎と言い張るらしい・・
「同意して頂けたなら、こちらへ・・」
テオはそういって冒険者パーティーを土木作業現場へと案内した。
3人は嬉々として、一人は諦め顔で、その後をついていくのであった・・・




