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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第10章 ドワーフキャラバン編
356/478

陥穽

14:30、加筆投稿しました。

 キャラバンの後方、2km程の距離を置いて、レッドバックウィドウの集団が移動していた。

 その中心には、上半身を硬革鎧で覆った、1体の女性形ダークライダーが存在した。彼女は次々と現れる負傷した蜘蛛に、治癒の呪文をかけると、戦場へと復帰させていた。


 「チキチキチキ」


 そんな彼女の元へ、伝令役の蜘蛛が何かを伝えてきた。

 「追い詰めたと思ったが、案内人が居たか・・」

 しばし考えたあと、伝令に命令をする。

 「逃がすな、一気に追え・・」


 「チキチキ」

 伝令役の蜘蛛は、足早に前線へと走り去っていく。

 それを見送ったダークライダーは、次の一手を考えていた。


 「湿原を抜けられると面倒だな・・例の湖までに捕捉したいが・・」

 

 考え込みながら移動する彼女の後方には、さらに大量の蜘蛛が集まりつつあった・・・



 その頃、キャラバンは、先頭の1号車が、浮き草の群生地を抜け出そうとしていた。

 『どうやら、難所を突破できたな・・』

 団長のほっとした声が、伝声管から聞えてきた。

 周囲を包囲していた蜘蛛達は、水深が深くなった沼に足止めされたり、浮き草に隠れた縦穴に水没したりして、立ち往生していた。

 大蛙の道案内で、巡航速度のまま通過できたキャラバンとは、かなり距離が開いたはずだ。


 「けど、まだ追って来ているっすよ」

 ワタリの視線の先には、後方で、縦列を組んでキャラバンの行路を追う蜘蛛の姿があった。

 散開していたはずの蜘蛛が、キャラバンが通過した場所には、縦穴がないとわかっているかのように、それが通り過ぎた後をなぞっていたのだ。


 交通標識の代わりをしていた大蛙達は、最後尾の7号車が通過すると、順々に縦穴に沈んで旗ごと姿を隠してはいたが、攪拌された泥水が、通過したルートをくっきりと残している・・・

 

 『しつこい連中だな。そこからなんとかなるか?』

 「縦穴を避けるのに蛇行しているから難しいっすね。バリスタも射界外っす」

 『なら、逃げの一手か・・』

 体力の限界に近い牽引アルマジロに、これ以上の負担をかけるのは忍びなかったが、できればここで、完全に引き離したかった。

 

 「ああ、でも大丈夫みたいっす・・」

 『どういうことだ?』

 「仲間が、ここはまかせろ、って合図してるっすよ」

 遙か後方で、特徴的な三つ又矛を振る、ベニジャの姿が見えた・・・



 そのキャラバン後方では、速度を上げて一気に追いつこうとする蜘蛛の集団が、最初の縦穴の横を通過したとき、先頭を走っていた個体が、突然水中に消えた。

 それは、足元の穴に落ちたのではなく、横に開いていた縦穴に、引きずり込まれるように水没したのである。


 チキチキチキ


 蜘蛛は警戒音を発しながら、キャラバンを追うが、第二、第三の縦穴の側でも、水没する個体が発生した。中には自力で縦穴から這い出してくるものもいたが、すぐに何かに引かれた様に、再び水中へと姿を消すことになった。

 浮き草の下を覗き込めば、縦穴に潜む大蛙の舌に絡め取られた蜘蛛が、引きずり込まれまいと、穴の縁に8本の足を引っ掛けているのが見えたに違いない。


 「水中戦なら負けないぜ、ジャー」

 陸上での1対1なら蜘蛛に軍配が上がるが、水中でなら互角以上の戦いが可能だった。

 レッドバックウィドウは、大蛙が飲み込むには少し大きすぎるが、舌の綱引きをしている間に、呼吸困難に陥った蜘蛛は、やがてぐったりと動かなくなった。

 

 キャラバンの後ろを辿ってきたのは、十数体の蜘蛛の集団だったが、縦穴の側を通り過ぎる度にその数を減らしていき、結局、浮き草の群生地を抜け出す事が出来た個体は1体もいなかった・・


 「「ケロケロ」」



  その頃のダンジョンコアルーム


 「レッドバックウィドウ、2体追加!」

 『らっしゃい!』


 縦穴に引きずり込んで、溺死させた蜘蛛は、コアが片端からDPに変換していった。

 コアは何故か半被を着て、捻り鉢巻をしている。

 千客万来ということなのだろうか・・・


 今まで、ダンジョンの領域外でしか蜘蛛を倒してこなかったので、大分、フラストレーションが溜まっていたみたいだ。遠話で撃破数を報告されるたびに、虚しいカウントだけが増えていった。

 縦穴の殆どは、地下水道に繋がっていて、大蛙達を転送で送り込むことができた。なので、そこで倒した蜘蛛は吸収出来るし、この襲撃が終息すれば、撃退ポイントも入ってくる予定だ。

 かなり先の話になりそうだけれども・・・


 ちなみにレッドバックウィドウのランクは4で、1体を吸収すると80DPになる。

 『まいどありっ!』



 キャラバンを追跡してきた蜘蛛の小集団は、全て大蛙に捕食されたみたいだ。反撃で舌に噛み付かれて、麻痺毒を受けた大蛙もいたけれど、麻痺をしている間に獲物に逃げ出されただけ済んだ。

 逃走に成功した蜘蛛は、水面に浮上すると同時に、待ち構えていたベニジャ達に打ち取られていた。


 「殿しんがりは任せろ、ジャー」

 「「シャー!」」



 

 「ご主人様、領域が繋がっているのですから、現地で眷属化の後に転送で、ドワーフを収容することができると思うのですが?」

 カジャが、安全確実な策を提案してきた。


 「それは最後の手段かな・・まず眷属化の承諾を得るのに時間がかかりそうだし、アルマジロや車両は運べないからね」

 「なるほど、財産は放棄することになりそうですね」

 「しかも全員を眷属化して、転送できるほどDPもないし・・」

 「・・・蜘蛛を呼び込みますか?」


 それは僕も考えた。

 せっかく大発生した害虫なのだから、駆除するのも吝かではないのだけれども・・

 「数にもよるよね・・」

 「確かに・・消化しきれなかったら、腹を食い破って出てきそうですね・・」


 蜘蛛のコロニーで確認されているのは、大きいもので50匹前後の個体で形成されている。それ以下の小集団は、そのコロニーが分割もしくは数を減らされたことにより発生しているらしい。

 そしてこの大型のコロニー毎に、統率者がいる。

 大氾濫の初期のコロニーは、ただ広がっていくだけで、統率者が随伴しないものもあったのかも知れないが、今はほぼ居ると見て間違いなさそうだ。


 すでにメンバーが倒した蜘蛛だけで、100を越えている。しかしそれは氷山の一角に過ぎない。

 なぜなら追ってくる蜘蛛の集団は、減ったように見えないし、北西にも移動中のコロニーが存在することが確認されているからだ。

 「全部、一辺にこられると、さばききれないね」

 「ですが、コア様は乗り気ですが・・」


 ふと横を見ると、コアが、刺身包丁を研いでいた。

 『ふふふ』


 ヤバイ、誰かさんが憑依してる・・


 『かもーん』




 





 




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