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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第10章 ドワーフキャラバン編
355/478

詩が聞こえる

 難所まであと少しというところで、キャラバンはレッドバックウィドウの包囲網に捕捉されてしまった。

 周囲を、速度をあわせて追跡してくる蜘蛛の集団が、隙を見て急接近して車両に取り付こうとしてくる。それを護衛部隊が、排除するのだが、蜘蛛が途切れる様子はなかった。


 「いったい、どれだけ集まってるんだ、ジャー」

 アイスドレイクを操りながら、キャラバンの最後尾を守るベニジャが叫んだ。

 「お嬢、右後方からも来やす!」

 「先生、頼んだぜ!ジャジャ」

 後ろに二人乗りしているエルフのソーサラーに声を掛ける。


 「ウィンド・カッター!」

 単体攻撃魔法が、接近する蜘蛛に命中し、重傷を負わせた。

 しかし動きを止めた蜘蛛は、あっという間に置き去りになってしまう為に、止めを刺すことができない。しかも単体攻撃呪文では魔力効率が非常に悪かった。


 「範囲攻撃魔法が使えないと、直に魔力切れになりそうです」

 「奴ら、学習したのか、密集しませんからね、ジャジャ」

 以前のように団子になって追ってくれれば、纏めて攻撃できたのだが、今は、散らばって追って来る為に、個別に対応するしかなかった。


 威力の低い攻撃で、一度は撃退したはずの蜘蛛が、なぜか戦列に復帰しているような気もする。時々、片側の足の1本を、引きずっている個体も見かけたりするからだ。

 「後方で、治療してる奴がいるのかもなー、ジャジャ」

 

 キャラバンの巡航速度が遅くなっているのに気付いて、疲れて弱るまで追い立てる様に、指示を出している奴が居るのかも知れない・・ベニジャは、そう思い始めた。

 「難所で手間取るとヤバイぜ、ジャー・・」

 前方に視線を向けるが、キャラバンの前には、今だ湿原が広がっているだけであった・・・



 蜘蛛の戦術が変わったのは、1号車でも話題になっていた。

 『奴ら、なぜ一斉に襲ってこない?』

 モリブデン団長が、屋根のワタリに尋ねた。

 「どうやら、こっちが疲れるのを待つ戦法みたいっすね・・そこっす!」

 蜘蛛にボルトを打ち込みながら、ワタリは答えた。


 すでに何体の蜘蛛を撃ったか忘れてしまうほどであったが、流石に急所を一撃というわけにはいかなくなり、止めを刺しきれない個体が増えてきた。

 そいつらが、いつの間にか復帰しているのに気がついたのだ。


 『俺には見分けがつかないが、傷が塞がっているのか?』

 団長の目には、どれも同じに映る蜘蛛だったが、狙撃者の目で見れば、違いははっきりしている。


 「あれと、あれは胴体に矢傷があるっす。こっちは呪文で切られた足が、治りきっていないっすね」

 キャラバンが全速をだせば振り切れそうではあるが、今の状態だと5分も経たずに、息切れしそうである。


 『蜘蛛の治療をしている奴がいるってことかよ』

 「そうなるっす」

 じりじりと追い詰めるように包囲を続ける蜘蛛に、ダークライダーの影を感じる二人であった・・・



 「ギャギャ(アップル隊長、浮き草が目立つようになりました)」

 「ギャギャ(そろそろか・・)」

 足元のほとんどが水面下になり、パッと見ると、沼の上を走っているような錯覚に陥る。

 まだ、水深は数センチなのでタスカーが走るにはなんの問題もないが、浮き草が増えてくると、踏み出す先が見え辛くなるのが問題だった。

 もしそこに大きな穴が開いていたら、良くて転倒、悪ければ騎手ごと穴に落ちることになる。それを避けるには、慎重に足元を探りながら進むしかないのだが・・


 そう思いつつ左右を見渡せば、既に遠まわしに蜘蛛に囲まれている。

 いまここで速度を緩めれば、何も無い沼地の真ん中で、周囲から襲われることは間違いなかった・・


 「ギャギャ(隊長、どうしましょう?)」

 タスカー部隊が身を挺して、落とし穴を発見したとしても、3騎では限界があった。そして先導者のいなくなったドワーフの車両が、穴に落ちれば、脱出は不可能に思える。

 

 「ギャギャ!(右前方に縦穴です!)」

 迷っている間にも、天然の罠が姿を現し始めた。さらに、遠くで突然、水没する蜘蛛も出始めた。


 キャラバンに停止命令を出すかどうか逡巡していた、その時、アップルリーダーの頭の中に懐かしい声が聞えた。

 『とぅっとぅるー』

 「ギャギャ(マスター!)」


 『ごめん、遅くなった。準備が出来たから、旗を避けながら突っ切って』

 「ギャギャ(旗、ですか?)」

 意味が分からずに前方を見直すと、そこにはいつの間にか立てられた指物旗が林立していた。


 【毘】 【風】 【雷】 【弁】


 沼地の中に、スラローム競技のフラッグのように、避ける目標として道筋を作り出していたのだ。


 「ギャギャギャ(隊長、旗です、あれは大蛙部隊の旗です)」

 「ギャギャ(よし、あの旗を掠めるように進むぞ)」

 「「ギャ!(了解です!)」」

 タスカー部隊は、進路を旗の方へと向けた。



 その光景は1号車からも見えた。

 『なんだありゃ・・』

 「どうやら、間に合ったようっすね」

 『あれは、お仲間が立てたのか?』

 「立てたというより、浮いてるっすね、きっと」

 『はあ?』


 その意味は、最初の旗を通り過ぎるときにわかった。

 浮き草のコロニーに隠れている危険な縦穴の上に、巨大な蛙がプカリと浮いていたのだ。旗は、その蛙が頭に固定していた。

 旗を避けていけば、穴に踏み込むことはない。

 大蛙部隊の交通整理であった。


 『なるほどな、どこからこれだけの大蛙を集めたか知らないが、悪くない作戦だ』

 かなり先まで続いている、旗を見ながら団長が呟いた。

 『だが、一つわからないことがある』

 「なんすか?」

 

 『あの旗に書いてある文字の意味がわからん・・』

 「・・それはオイラにも分からないっす・・」



 そして大蛙部隊に出会って、元気になったメンバーがいた。

 もちろん、総元締めのベニジャである。


 「お前ら、会いたかったぜ、ジャジャ」

 「「ケロケロ」」

 三つ又矛を振り上げて再会を喜ぶベニジャに、大蛙達も一斉に鳴いて答えた。


 「よっしゃ、ここから反撃するぜ!、ジャー」

 「「ケロケロー」」 『けろっぴ!』 


 浮き草の沼に、蛙の合唱が響き渡った・・・






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