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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第10章 ドワーフキャラバン編
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約束

  湿原地帯を南下中のキャラバンにて


 『左舷、30m横に蜘蛛!』

 「見えたっす!」

 1号車の屋根に陣取ったワタリが、接近中のレッドバックウィドウを狙撃した。止めは後続の車両に任せて、次の目標を捜す。


 「とはいえ、そろそろコイツの修理をしないとヤバイっすね・・」

 愛用の黒鋼のクロスボウを握り締めながら、呟いた・・・

 

 


 沼杉の林を抜けてから2時間は、キャラバンの移動は順調に進んだ。

 一度、3号車の車輪が、水草を大量に噛んで停止したぐらいで、時間のロスになるような事故は起きずに済んでいた。

 問題は、牽引アルマジロの疲労にあった。


 早朝に第一補給拠点を出発してから、5時間以上、重い荷車を牽きながら走り続けているのである。

 さらに途中では、蜘蛛の集団に襲われて、全速に近いスピードも出していた。いかに持久力のある牽引アルマジロでも、徐々に疲れが溜まってくるのは致し方なかった。


 

 あと1時間ほどで次の難所に差し掛かる辺りで、微妙にキャラバンの移動速度が遅くなった。 

 『まずいな、思ったより牽引アルマジロが疲れている・・』

 1号車のモリブデン団長が呟いた。


 「走りっぱなしっすからね」

 その屋根で周囲の監視をしていたワタリが答える。

 「休憩したほうが良いっすかね?」


 『いや、一度停止すると、隊列を組んで動き出すのには、かなり時間がかかる。そこを襲われたらえらい事になるからな。このまま進もう』

 「了解っす。巡航速度を少し遅くして、警戒を密にするっすよ」

 「バウバウ」

 1号車の屋根で、ちゃっかり休憩していた雪原狼のケンが、再び偵察の為に駆け出していった。



 そしてキャラバンの巡航速度が遅くなって30分もすると、蜘蛛の集団が追いついてきた。


 「バウバウバウ」

 後方からのケンの吠え声に、キャラバン全体に緊張が走った。

 「しつこい連中っすね」

 ワタリは、キャラバンの後方車両へと飛び移っていった。


 キャラバンの最後尾では、アイスドレイク3騎に分乗した、ベニジャ達が警護をしていた。

 「聞えたっすか?」

 少し離れた場所を追従している氷竜騎兵隊にワタリは大声で叫んだ。


 「ああ、聞えたぜ、蜘蛛が近いってことだろ?ジャー」

 「そうっす。キャラバンの速度はこれ以上は上げられないので、いつか追いつかれると思うっすよ」

 「アイスドレイクでさえ、へばってるからな。しょうがねえよ、ジャジャ」


 元々、長距離を走ることに慣れていないアイスドレイクも、かなり疲れているようだった。湿地帯で、しかもこの速度だからなんとか着いていける状態である。

 ちなみにストームタスカーは元気一杯だった。

 さすがに騎乗用特化で進化しただけのことはあるのだ。


 「兎に角、後方の守りは任せたっすよ」

 「あいよ、任された、ジャー」

 


 現在のキャラバンの車両最後尾は7号車に戻っている。そこに同乗しているはずのエルフの小隊長に、ワタリは声を掛けた。

 「後方から蜘蛛がくるみたいっす」

 『ケンの吠え声は聞えたよ。だが、まだこちらからは視認できないな』

 「巡航速度はこれが限界だと思うっす。徐々に追いつかれるだろうから、迎撃を任せるっすよ」

 『了解した。ただ、この車両に積んであったクロスボウボルトが底をつきそうだ。どこからか融通してもらえないかな』


 他の車両に比べても、7号車は弾幕を厚くしていた。その結果、生き延びているわけだが、消耗が激しいのも事実であった。

 「了解っす。2号車に聞いてくるっすよ」



 『おう、持ってけ、持ってけ。材料がある内はいくらでも作れるからな』

 そういって、天井のハッチを開けて、アイアン爺さん自らがボルトの束を手渡ししてくれた。

 「ありがたいっす」

 「なに、こちとら職人だからな。こんなことでしか手伝えねえんだ。礼を言うのはこっちの方さ」


 「それでも、補給が無ければオイラ達も戦えないっす。お互い様っすね」

 「がはは、そうだな。無事に次の野営場所まで辿り着けたら、酒を飲もうぜ!」

 「ういっす!」

 ワタリは両手にボルトの束を抱えながら、7号車へと戻っていった。



 7号車のハッチを開けて、物資の搬入をしていると、最後尾で見張りをしていた男の子が叫んだ。

 「蜘蛛が見えたよ!」

 すぐさま小隊長はハッチを閉めると、車両の後部へと移動する。


 覗き窓から外を覗えば、泥を跳ね飛ばしながら追いかけてくる、蜘蛛の集団が見えた。

 「数は多くないが、範囲が広いな・・」

 どうやらあちこちに点在していた、監視用のレッドバックウィドウをかき集めて来たようだ。後方だけでなく、斜め後ろから接近しようとしてくる個体もいた。


 「蜘蛛は広範囲に広がって追いかけてきているようだ。警戒は後方だけでなく全周で行なうこと」

 「「アイ、アイ、サー」」

 すっかり親衛隊に馴染んだモフラードワーフ達は、それぞれの持ち場で外を警戒する。

 男の子も、後部を小隊長に譲ると、左側面の定位置に移って外を覗く。もちろんその後ろには、チャイルドシート代わりの雪原ウサギが控えていた・・



 7号車の屋上から状況を把握したワタリは、途中の車両に現状を伝えながら、1号車へと戻っていった。

 「蜘蛛の数は疎らっすけど、逃走ルートを潰すように半包囲しているっす!」

 

 各車両の覗き窓が一斉に開き、銃眼からクロスボウの先端が、突き出した。

 4号車の顛末を聞いて、自主防衛の意識が高くなったのは確かである。


 「まずは生き延びる」


 どこか他人任せだったドワーフ達が、将来の不安よりも、今、そこにある危機に目を向け始めた・・・



 1号車の屋根に戻ったワタリは、あちこち傷んだ黒鋼のクロスボウを構えると、追いかけ来る蜘蛛を慎重に狙った。

 「もうこれ以上は、殺らせないっすよ・・・」


 祈りを込めるように、引き金を引いた・・・



 


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