貴女は何も見なかった、いいですね?
ダンジョンコアルーム(司令部)にて
『ぞーんくりあー』
「お、ボス撃破したみたいだね。コア、最北湖を領域化して、皆の状況を確認して。重傷者がいたら治療班を転送しないといけないから」
『らじゃー』
簡易要塞や最北湖に、癒しの泉とかをを設置しても、後々無駄になりそうだからね。移動できる治療術師がもう少し必要なかんじかも。
「キャラバンには癒しの泉が必要になるのではないでしょうか?」
カジャが 助言をしてくれた。
「確かに人数が多いから、泉の方が効率は良いだろうけど、重傷を治せないし、毒消しも別に必要になるから。しかも不要になって再配置するにも半分のDPが必要だしね」
「なるほど、理解いたしました」
そうこうする内に最北湖の領域化が終了した。
こちらの損害は、骸骨戦士が16体撃破されたけど、今は戦士長に再召喚されて復帰している。それとドクロリーダーが重傷、大穴熊チームが闇呪文の余波で軽傷ぐらいで済んだようだ。
なお、ノーミンが、イルカに変身した状態で曲芸水泳をしたので、腰を痛めたのは、また別の話だ。
「グキッっていっただ・・」
被害は少なかったけれど、他に問題が持ち上がっていた。
『主殿、済まない、止めをもっていかれた・・』
どうやらボーン・サーペントが戦闘途中で逃げ出した結果、偶然に湖岸の補給拠点にいた冒険者に止めを刺されたらしい。
「止めは別に誰が刺しても構わないんだけれど、いろいろ目撃された?」
場合によっては情報統制をしないといけなくなるからね・・
「口止め料もしくは口封じですね?」
いやいや、そこまで露骨なことはしないよ・・たぶん。
「ですが、最北湖まで眷属が遠征できることが広まると、各方面から脅威と思われるかと・・」
そうなんだよね、だから目撃者がいたら、どこの勢力かだけは見極めておかないと心配なんだよ。
『主殿、遭遇したのは旧知の冒険者だったぞ』
え?誰?もしかしてハーヴィー?
『けろっぴ!』
『あれが、白骨水竜に立ち向かうわけないだろう・・』
冷静に考えてみればそうだった・・
『ほら、あれだ、男女4人組でリーダーが小娘の・・』
まさか虚無の魔法兵団?
『らんぼるぎーに』
あれ?それはいなかったような・・
『いや、構成は似ているが、そちらではない方だ』
『かもねぎ?』
ああ、ビビアン達か。なるほどね・・
「彼女達なら交渉でなんとかなりそうだね。でもなんで最北湖の、しかもうちの第二補給拠点に居たのかな?」
「確か、留守番のエルフが冒険者と交易をしているとか・・」
ああ、言ってたね、物資と生肉をトレードしてるって。なるほどそれか・・
『接点はそれで間違っていないらしいのだが、今は少し理由が違うようだ』
というと?
『女バーバリアン以外の3人が、食中毒で倒れたので、助けを求めに来たらしい・・』
何、食べたの?・・
『どくきのこ?』
ああ、秋だしね・・・
詳しい事情を聞くと、どうやらうちから買って行った食材を食べて当たったらしい。
「でも、うちの食材って新鮮だよね、変換で出したわけだし・・」
『ぷんぷん』
コアは風評被害にお怒りのご様子だ。
『なんでも珍味だからと蟋蟀を大量に交換したのだとか』
ああ、穴熊チームのおやつ用に積み込んでおいた、アレね。
『麦粥と一緒に煮込んだらしい・・』
・・・火の通りが甘くて、生煮えだったんじゃないのかな?・・
『なので、治療術師の要請が来ているのだが、どう答えれば良いのだろうか?』
「了解、適任者を転送するから第二補給拠点で待機するように伝えて」
『こちらも了解した』
「よろしかったのですか?」
カジャが何かを気にしながら、尋ねてきた。
「え?冒険者に治療を施すこと?」
うちの食材が原因の一端らしいから、罪滅ぼしも兼ねてと思ったんだけど・・
「そうではなく、当初の目的である、『底なし縦穴』の攻略が進んでおりませんが・・」
あっ!すっかり忘れてた。
その為に、最北湖まで領域化したんだった。
「コア、キャラバンの進行予定地点は?」
『ほいな』
即座に投影された周辺地図には、湿原を横断中のキャラバンの予想位置が点滅していた。
「よし、まだ間に合う。交通整理部隊、スタンバイ!」
『ケロケロ』x12
「コア、『底なし縦穴』まで地下水道を領域化できる?」
『・・できそう』
黒衣の沼の主の反応が怖いけど、今は時間が惜しいからね・・
「コア、現地まで領域化、繋がったら交通整理部隊を転送!」
『らじゃー』
『ケロケロ!』
投影された周辺地図上では、南下するキャラバンの光点と、北上する領域化した地下水道の緑色のラインが、交わろうとしていた・・・




