機密保持も大切だとは思いますが
最北湖の南岸に設置された簡易要塞は、二重の空堀に囲まれた円形の陣地である。
領域化の目安にする為の簡単な造りではあるが、内側には地下室も幾つか掘りぬかれており、前線基地として最低限の機能は備わっている。
今、そこから3体の骸骨戦士長に率いられた、8体の骸骨戦士達が、続々と最北湖に向って行った。
湖岸からザブザブと腰まで水に浸かりながら進んで行くと、すぐに水深が深くなったが、彼らは恐れることなく潜っていった。
左右に網を広げるように散開しながら湖底を目指すと、そこに、巨大な水竜の影があった。
長い年月、湖底に沈んでいた所為か、完全に白骨化しており、その骨の色も、周囲の泥とほとんど同じ白灰色に変色していた。
全長15mはありそうな巨体をくねらしながら、骨だけになった水竜は、その頭蓋の眼窩に、不気味な黒い灯りを燈しながら、周囲を睥睨している。
静かな眠りを邪魔されたのが気に食わないのか、それとも久々の獲物に興奮しているのか、ボーン・サーペントは、湖底をうねる様に泳ぎ回っていた。
「カタカタ(ススメ!)」
スカルリーダーの号令により、4体の骸骨戦士がボーン・サーペントに向かって行った。
「ギィギィギィギィー」
叫び声なのか、骨の軋む音なのか判別の付かない、耳障りな音を響かせながら、白骨水竜は襲い掛かって来る。
正面にいた骸骨戦士を巨大な顎で一噛みにして砕くと、側面にいた1体を、尾で打ち払って粉々にしてしまう。
残りの2体が剣で打ちかかるが、頑健な骨格には、ひび一つ入らなかった。
「カタカタカタ(メヲネラエ!)」
ドクロリーダーが、自分の指揮下の4体に、弱点らしき眼窩への攻撃を指示した。
しかし、水中を自在に泳ぎまわる、白骨水竜の頭部のさらに一部を狙うのは、至難の技であった。そして纏わり付く骸骨戦士達にイラついたのか、白骨水竜は口を大きく開いて、酸のブレスを噴き出した。
直線状に延びる灰色のブレスは、湖底の泥を巻き上げながら、3体の骸骨戦士を直撃した。
カスタム・スケルトンファイターには、酸耐性の技能が付加してあるにもかかわらず、強酸に耐えられなくなった骸骨戦士が、次々と崩れ落ちてしまった。
「カタカタ(ツヨイゾ)」
「カタカタ(ウム、ツヨイナ)」
スカルとドクロは、白骨水竜の強さを見極めると、後方で待機していたズガイを振り返った。
「カタカタカタ(マスターニホウコクヲ)」
「カタカタ(ココハオサエル)」
ズガイは頷くと、右手の剣を振り上げた。すると先発隊として偵察しにきて壊滅した、スカウト仕様の骸骨戦士が4体、立ち上がった。
「カタカタ(ナカマヲエンゴシロ)」
そう指示して、彼は簡易要塞へと帰還していった。
「カタカタ(コチラモヨブカ)」
スカルもまた、右手の剣を降り上げると、破壊された5体のうち、4体の骸骨戦士を復活させた。
「カタカタカタ(サア、マホウハドウシタ)」
「カタカタ(ゼンブ、ミセテモラウゾ)」
不死の湖の主と、不死者の軍団の戦いは、さらに激しさを増していった・・・
その頃、湖岸の簡易要塞では、討伐隊の本隊が、出撃準備を終えていた。
「穴熊チームには、身体強化の呪文を掛け終わっただ」
「ソナーチームも準備できました」
「主殿、いつでも出れるぞ」
ノーミン、テオ、ロザリオから報告が上がってきた。
『了解、今、ズガイが戻ってきたからちょっと待って』
湖底から帰還したズガイから、湖の主の報告を受けた。
「カタカタカタ」
『ほむほむ』
「カタカタ」
『ひょえー』
全長15mだと淡水に生息していた水竜なら大型に近いね。だとすると、それがアンデット化したら、かなりの高ランクモンスターになっているはず。
顎でも尾でも、盾で受けた骸骨戦士が一撃で粉砕されるとなると、防御は回避主体にするしかないか。
剣の攻撃が通らないのは、やはり魔法武器しか通じないと見るべきだね。
『ノーミン、穴熊チームに身体武器魔法化の呪文を付与して。相手は魔法武器以外は通じなさそう』
「わかっただよ、けど少し時間がかかるだ」
『テオ、敵のブレスは酸耐性を突破してくるほど強力だから、ぜったいに直撃されないように。前兆が聞き取れたら、散開の合図を頼むね』
「了解です」
『ロザリオ、盾受けでなく回避主体で。攻撃の主力はロザリオのエレメンタルソードだから、防御はできるだけ他のメンバーに任せて』
「承知した、ノーミンの準備が終わり次第、出撃の許可を」
周囲からの無言のプレッシャーを感じながら、ノーミンは1頭ずつに呪文を付与していく。
「この呪文は単体にしか掛けられないから、手間がかかるだよ」
「ギュギュ?」
「いや、穴熊ファミリーが悪いわけじゃないだ。呪文の性質の問題だでな」
「ギュ」
やがて準備が整った。
『最北湖の主、討伐隊、出撃!』
「「「 ウラーー 」」」
次々と水面に身を躍らせる、百鬼夜行の軍勢は、対岸の補給拠点からも、ギリギリで見ることが出来た。
「なんだい、あの軍勢は?!」
「・・あーー、なんでしょうねー・・」
「どこかで見たことがあるような気がするさね・・」
「・・そ、そうですか?気のせいでは?・・」
「あの銀色の骸骨は、間違いないね」
「・・大尉、目立ちすぎです・・」
ソニアは背後を振り返ると、エルフの行商人に詰め寄った。
「どういうことか、アタシに説明してくれるんだろうねえ・・」
エルフはただ首を縦に振って頷くのであった・・・




