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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第10章 ドワーフキャラバン編
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蟋蟀と麦

 その水柱は第二補給拠点からも見えた。

 「なんです、あれは!?」

 エルフの行商人に扮したレンジャーが、突然、最北湖の水面から吹き上がった灰色の水柱を見て驚いた。


 その疑問に答えたのは、何故かこの場にいる女バーバリアンの冒険者であった。

 「そうさねえ、アタシが見たところ、ドラゴンブレスの様な気がするさね」

 「あの湖にドラゴンなんか住んでるんですか?」

 「そうでないなら、湖底からすごい術者が、水魔法を打ち上げた様にも見えるけど、どちらにしろ厄介事だろうさね」

 ソニアはそう言って、肩を竦めた。


 「た、大変じゃないですか。逃げなくて良いんですか?」

 動揺するエルフに、ソニアはポツリと呟いた。


 「仲間があの調子だとね・・」


 視線の先には、お腹を抱えてうんうん唸る、3人の冒険者の姿があった・・・



 話は昨晩まで遡る。

 ビビアンの手料理を食べるのか、その不味さを教えて危険を回避するのか、究極の選択を迫られたスタッチは、玉砕覚悟で相打ちを狙った。

 「ビビアンも一緒にどうだ?」


 睨む相棒を片目に、ビビアンのよそる椀の中身を凝視して、出来るだけ具の少ないものを選んで受け取った。ちなみに具が一番入っているのは、ハスキーが取っていった。


 「いただきます」x3

 一人は嬉しそうに、後の二人は覚悟を決めて、ビビアン風麦粥を啜った・・・ソニアは一人だけ離れて干し肉を齧っていた・・


 「うーん、ちょっと味が薄いかな・・」

 ビビアンは首を傾げながら、それでも普通に麦粥を食べていた。

 ハスキーもいつもより穏やかな顔つきで粥を掻き込んでいる。


 少しだけタイミングをずらして二人の様子を覗っていたスタッチが、驚いたように自分も口をつけた。

 「こいつは・・食えるぜ、ビビアン!」

 その言い草に、むっとしたビビアンだったが、ガツガツと食べ始めたスタッチを見て、許すことにした。


 無言で差し出された二つの椀に、お替りを注ぐと、ソニアにも尋ねる。

 「ソニアもどう?食べず嫌いは良くないわよ」

 3人の様子を疑いの目で見ていたソニアは、首を振って答えた。

 「いや、アタシは遠慮しておくよ。どうも昆虫食は苦手でね・・」


 「あれ?以前は食べてなかったっけ?」

 「あの時は食料が切れて、飢え死にしそうだったからさ。他に食べる物があるうちは、ちょっとね」

 「そう、遠慮しないで欲しくなったら言ってね」


 そう言っている間に、男二人で鍋を空にしてしまっていた。

 蜘蛛の大移動を追跡しなくてはならなかったし、なにより、このところ食事が苦行だっただけに、楽に食べられたのが早食いの原因であった。


 「よし、これなら明日からも希望が見えてきたぜ」

 元気になったスタッチにハスキーも頷いた。

 「なによ、さっきまで落ち込んでたのに、急に元気になって」


 「ビビアンの食事が活力をくれたのさ・・」

 ハスキーの呟きにビビアンが慌てた。

 「そ、そう、なら良かったわ・・アタシの料理の腕も中々のもの・・」


 そこまで言って、急にビビアンが黙り込んだ。

 そしてお腹を押さえてうずくまる・・

 「どうしたビビアン!?どこか痛いの・・・うっ!」

 駆け寄ろうとしたハスキーも、突然の激しい腹痛に、その場に倒れこんだ。


 「や、やばい、味がまともだったから油断したぜ・・恐るべしビビアンの手料理・・・」

 冷汗を流しながら、そう言い残して、スタッチもその場に横倒しになってしまった。


 「おい、嘘だろ、アタシ一人でどうしろってんだい!」

 ソニアの叫びが野営地に木霊した・・・



 その後、うんうん唸る3人を持て余したソニアは、仕方なくビビアンを背負って、片手にスタッチ、片手にハスキーを引きずって、エルフの行商人を頼ったのだった。


 突然の来訪に驚いたエルフだったが、自分のところで売った食材が、食中毒でも起こしたのかと、親身になって介抱してくれた。

 まず3人に食べたものを吐かせて、楽な姿勢で寝かして様子を見る。

 さらに喉が渇いた様子を見せたら、真水で薄めた最北湖の水を少しずつ口に含ませる。

 そして、夜が明けたら、リンゴを絞った果汁を飲ませて回った。


 一緒に不寝番をしていたソニアが、不思議そうに尋ねた。

 「湖の水を薄めて飲ませたのは何故なんだい?」

 「ああ、あれはお腹の中の毒素を薄める効果があるそうなんです。この最北湖の水は、毒消しの代わりになるともっぱらの評判なんですよ」

 「へーー、知らなかったさね」

 「私も通りがかった冒険者さんに聞いた話ですけどね」


 しかし一晩たっても3人の腹痛は納まらなかった。

 「毒性のものに当たったわけではなさそうですね・・」

 エルフが首を捻りながら、3人の様子を診ていた。

 既に昨晩のうちに食材のチェックは済ませていたが、その中に原因となりそうな物は無かったのである。


 「何か心当たり、ありますか?」

 エルフに聞かれてソニアは答えに困った。

 「食べ合わせ・・かな・・」

 まさか正直に、ビビアンの料理の腕だとは言えない・・


 「食べ合わせですか・・何が悪かったのかな?」

 エルフが再び首を捻って考え込んだ時、それは起きた・・・



 ズバシャアアアン


 轟音と共に、最北湖の湖面から、大きな水柱が噴き上がったのだ。

 

 「なんです、あれは!?」

 

 そして冒頭に話は戻る・・・



 ソニアは素早く装備を整えると、エルフの行商人に声を掛けた。

 「アンタは隠れてな! 一晩の宿の礼に、ここはアタシが守ってやるさね」

 しかし行商人もどこからか、長弓を取り出して戦闘準備を整えていた。

 「店を守るのも私の務めですから・・」


 お互いに、この場から逃げ出すことができない二人は、補給拠点を死守する構えを見せた。


 

 

  その頃のダンジョンコアルーム(司令部)


 「転送準備1番から3番まで、スカル、ドクロ、ズガイ」

 『カタカタ』x3

 「転送!」

 『らじゃー』


 3体のスケルトン・ウォーリアーが魔法陣に包まれて、次々に転送されていった。目的地は最北湖の南岸にある簡易要塞だ。

 「盾役を召喚、簡易要塞に酸耐性のカスタム・スケルトンファイターを8体、装備は剣と盾で」

 『さもん』


 「転送準備4番から6番まで、ロザリオ、ノーミン、テオ」

 『やっと出番か、今度の敵は骨がありそうだな』

 『それダジャレだか?』

 『あ、待って下さい、まだ水中呼吸をもらってないです!』

 「6番以外転送!」

 『らじゃー』


 敵は水中にいるスケルトンタイプのアンデッド・サーペントだ。

 攻撃方法は、噛み付きと体当たり、水竜タイプの酸のブレスに、闇魔法も使ってくるかもしれない。

 防御能力は、刺突半減だろうし、アンデッド属性で、闇属性は無効か吸収、毒も病気も効かないはずだ。

下手をすると魔法の武器でないと傷つけられない可能性がある。


 「あれだけ大きいと、生前はかなり歳を経た水竜だったでしょうから、アンデッド化したらかなりのランクになっていると思います」

 横でカジャが解説してくれるけれど、その内容はこちらを不安にさせるものだった。


 「わかってる・・まずはスケルトン部隊で、奴の能力を見極める。本隊の突入はその後だね・・」

 「ボーン・サーペントはアンデッドの中では上位種です。逆にコントロールされませんか?」

 「奴は最初のスカウト・スケルトンを、問答無用で攻撃していたからね。支配下に置くとか、そういう意識は無いと思う」

 「なるほど・・」


 モニターには、次々と湖にダイブしていく、スケルトン部隊が映し出されていた。

 ロザリオとノーミンはなにか打ち合わせをしているようだ。穴掘りチームも、水中戦闘に向けて、準備体操を念入りにしていた。

 『キュッキュ』『ギュッギュ』



 『6番テオ、準備完了です』

 「6番転送!」

 『いってらー』


 「・・ご無事で・・」

 カジャは旅立つ戦士に祈りを捧げていた・・・






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