表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第10章 ドワーフキャラバン編
348/478

欲望という名の

 7号車に蜘蛛が取り付いたのは、1号車の屋根の上からでも見ることができた。

 「7号車がやばいっす。ここは任せるっすよ!」

 ワタリは伝声管に向って叫ぶと、2号車に飛び移っていった。

 1号車の車中では、ワタリの代わりに、蜘蛛に止めを刺す役を担うために、クロスボウの射手が前方に集中して配置される。


 巡航速度とはいえ、走行中でしかも揺れる車両の屋根を、ワタリは平地のように走り抜けていった。

 途中で車両同士の距離が開いていて、ジャンプしても届かないときは、牽引アルマジロの背中も踏み台にして、あっという間に7号車に辿り着いてしまう。


 その頃には、ピョン太の活躍で、屋根に乗った蜘蛛は除去されており、7号車は隊列から遅れた距離を稼ごうと、速度を上げている最中であった。

 「無事っすか?」

 7号車の伝声管に呼びかけると、中からエルフの小隊長の返事があった。

 『ワタリ殿か、蜘蛛に屋根に張り付かれたが、なんとか切り抜けられた。怪我人は出ていない。キャラバンの定位置に戻る途中だよ』

 「了解っす。しばらく屋根に陣取るので、何かあったら言って欲しいっす」

 『こちらも了解した。4号車が遅れているので注意してくれ』


 そう言われて後方を見ると、7号車自体が少し隊列から離れていた上に、4号車はさらにキャラバンから

遅れていた。

 「まずいっすね・・」

 ワタリの視界には、遅れだした4号車を狙って、後ろから追走している蜘蛛の集団が映っていた・・・



 その頃、4号車の車中では、貴族派同士で言い争いをしている最中であった。

 「なぜもっと速度を出さないのだ?!このままでは蜘蛛どもに追いつかれるぞ」

 「貴殿の荷物が重すぎるのだよ。速度を上げたいのなら、半分ほど捨てれば良かろう」

 「馬鹿な、貴様の甲冑こそ、役に立たんではないか。とっとと脱いで蜘蛛どもに投げつけた方が十倍ましじゃ」

 「ああ、皆さん、ここは班長である私に免じて、穏やかに話し合いで・・・」

 「「班長は私だ!」」


 そこに伝声管から声がした。

 『積載重量がオーバーしていて速度がでてないっす。至急、要らないものを投げ捨てて軽くしないと、蜘蛛がそこまで迫ってきてるっすよ!』

 「すでに不要な物は放棄してきた。これ以上は無理だな」

 『いやいや、他の車両はもっと軽量化してるっすよ』

 「庶民と一緒にしないで欲しい。我らには守らなければならない矜持というものがあるのだよ」

 『それって、命より大切な物っすか?』

 「ある意味そうだな。そして我らの安全を守るのは、お前達の役目だろう」


 ワタリは、貴族派の勝手な言い草にあきれ返りながら、それでも警告を続けた。

 『警護しようにも、キャラバンと離れすぎたら援護が届かないっすよ』

 「ならば、キャラバンより、我らを優先すれば良かろう。アイスドレイクで周囲を固めれば、蜘蛛どもも近寄れまい」


 貴族派の身勝手な言い分に、ワタリも返す言葉がなかった・・

 その隙をついて、後方の蜘蛛が一気に間合いを詰めてきた。

 『来たっす!』

 ワタリは屋根の上から、一番近い蜘蛛を狙ってクロスボウを撃ち続けた。


 車内からも散発的に、クロスボウが放たれたが、狙いが甘く、大した効果はあげられなかった。

 「速度があがらん、屋根から降りろ!」

 伝声管からの無茶な指示に、ワタリは驚いたが、彼の体重分、車重が増えているのも確かであった。


 『オイラがどいたら、全速でキャラバンに追いつくっすよ!』

 そう言い残すと、ワタリは身を翻して、7号車へ向ってジャンプした。


 その頃には、最後尾の4号車と7号車では、車両3台分の距離が開いてしまっていた。ワタリの全力の跳躍でも7号車に飛び移るのは無理かと思われた。

 「スイッチっす」

 跳躍の頂点で、転移スキルを発動すると、ワタリの姿は7号車の屋根に現れた。

 その代わりに妙に黄ばんだ通信旗が、ヒラヒラと宙に舞っていた・・・



 しかしワタリが7号車に移っても、4号車の速度は上がらなかった。

 元々、スノーゴブリンの体重はそれほど重くない。それは現状で、7号車の速度が落ちていない事でも分かる。

 4号車が遅れ気味なのは、牽引アルマジロの体力が限界に来ていたからであった。


 他の車両の2割増しの荷重を、ずっと牽きつづけていた4号車のアルマジロは、巡航速度でキャラバンに付いていくのが精一杯だったのだ。

 ここにきて、多数の蜘蛛に追われるプレッシャーから、その疲労はピークに達していた。幾ら運転席から叱咤されようとも、身体が思うように動かなくなっていた・・


 7号車からは、ワタリの他にも、車中から援護射撃が盛んに放たれたが、4号車の真後ろに位置した蜘蛛には攻撃ができない。

 やがて最初の1体が、4号車の後部に取り付いた・・


 

 グンッと沈み込むような感覚を覚えたと思ったら、速度が急に下がり始めた。

 「なんだ、どうした、速度が落ちているぞ!」

 「蜘蛛だ、蜘蛛が後部に取り付いているんだ!」

 騒ぎ立てる合間にも、次々と蜘蛛が集って来る。


 屋根に登った蜘蛛は、ワタリの狙撃を受けて転がり落ちていくが、後部に取り付いた蜘蛛は引き剥がすことが出来なかった。

 「槍で突き殺せ!」

 クロスボウ用の銃眼から槍を突き出そうとするが、逆にそこから糸を吹き込まれてしまった。


 「ぐわっ、なんじゃこれは!」

 「粘ついて取れん、これは糸だ、化け物蜘蛛の糸だ!」

 「クソッ、誰か助けろ!ワシらは貴族だぞ!」


 車内の混乱が運転席まで蔓延すると、牽引アルマジロの制御が疎かになり、パニックを起こしたアルマジロが、右に急カーブをしてしまった。

 「まずい!倒れるっす!!」


 急激な方向転換に、バランスの崩れた4号車は、そのままの速度を維持しながら横転してしまう。

 スライドする車体に引きづられるように、牽引アルマジロも、鎖に絡まったまま転倒することになる。

 推進力を失った車体は、あっという間にレッドバックウィドウに集られて、蜘蛛の小山に埋もれてしまった。


 「・・あれはもう助からないっす・・」


 誰にともなく呟いたワタリは、後続の蜘蛛が4号車の残骸に群がって、こちらを追ってこない事を確認すると、団長に報告する為に、キャラバンの先頭へと走っていった。



 遠くからアルマジロの悲しい鳴き声が聞えた気がした・・・





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ