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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第10章 ドワーフキャラバン編
347/478

ほうれんそうは大切に

加筆しました。

  南下中のキャラバンにて


 時速5kmほどの速度で、7台の移動車両が1列となって疾走している。

 ときおり車輪に巻き上げられた泥が、後方の車両に降りかかり、騒動になっていた。牽引アルマジロは既に全身が泥だらけで、一見すると違う生き物に見えるほどであった。


 「おい、少しは後ろの車両に遠慮しろ!泥で前が見えんぞ!」

 「無茶を言うな、こっちだって前の車両の泥をかぶってるんだ。お互い様だ!」

 

 「うわっ、運転席の覗き窓が泥で埋まって、前が!」

 「助手席側も開けるんだ!常に左右で視界を確保しておけ!」

 

 「アルマジロのオグリが可哀想・・」

 「今度の野営地で洗ってあげましょうね」


 しかし泥だらけになるぐらいは、キャラバンに降りかかる災難としては、まだ序の口であった。



 「お嬢!前方に煙が見えますぜ、ジャー」

 フロストリザードマンのエリートが、アイス・ドレイクを御しながら、立ち上る煙を見つけた。


 「ああ、アタイにも見えた。だけど何だ?あの煙・・ジャジャ」

 「先行部隊が向った泥杉の林辺りですが、狼煙か何かですかね?ジャジャ」

 特にそんな連絡方法は聞いていなかった。


 「ワタリを呼んで来てくれ、ジャー」

 「へい、がってんです、ジャー」

 エリートを乗せたアイス・ドレイクが後方に下がっていった・・

 「何か嫌な予感がするぜ、ジャジャ・・」

 ベニジャは手綱を握り締めながら、呟いていた・・・


 「例の煙の件っすね」

 迎えに行ったアイスドレイクに乗って、ワタリは、先頭集団に合流すると、話始めた。

 「2号車からも見えたっすけど、なんですかね、あれ」

 「・・それをアタイは聞きたかったんだけど・・ジャジャ」

 といわれてもワタリにも心当たりが無かった。


 「先行したストームタスカー部隊が、何かの厄介事に巻き込まれたのはわかるっす。けど、戦闘の結果、火が出ただけなのか、何らかの合図なのかは、分からないっすね」

 「停まらなくて良いのかよ、ジャジャ」

 不測の事態が起きたのなら、様子を覗うべきではなかろうか・・


 「ここからだと、偵察を出すにも、ちょっと距離があるっす。もう少し前進しながら様子を見たいっすね」

 「あいよ、しばらくはこのままだな、ジャー」


 だが、事態は直に動き出す・・・



 「バウバウバウ」

 キャラバンの進行方向の斜め右前方から、雪原狼のチュンリーが走り戻ってきて、盛んに吠え立てている。どうやら蜘蛛が接近しているらしい。

 「来たっすね、オイラは持ち場に戻るっす」

 「あいよ、進路の掃除は任せろ! ジャー」 

 後方に下がっていくワタリを見送りながら、ベニジャは僚騎に声を掛けた。


 「蜘蛛が2体までなら弾き飛ばす、3体以上来たらブレスを使え、いいな、ジャジャ」

 「がってんですぜ、お嬢、ジャジャー」

 アイスドレイク部隊は、前方に目を凝らしながら、進んでいった。



 移動車両の先頭車に戻ったワタリは、モリブデン団長に状況を伝声した。

 「警戒網に蜘蛛の集団が掛かったっす。右前方から来そうなんで、注意して欲しいっす」

 『了解した、各車に伝える。煙の件は何かわかったか?』

 「煙は謎っすね。先行部隊の合図だと思うっすけど、それ以上は、さっぱりっす」

 実際には、予期せぬ森林火災だったのだが、そのことはキャラバンに居る者にはわからなかった・・


 『キャラバンは、このままでいいのか?』

 「停まれば囲まれるだけっす。突っ切るっすよ」

 『了解した』


 団長は、車内の通信要員に指示を出すと、自分は助手席に腰を下ろした。

 「ここからが正念場だ・・」

 思わず漏れた呟きに、運転席のドワーフも緊張しながら頷いた・・・



 「アイアン爺さん、1号車の屋根に通信旗だ!」

 移動車両の屋根にひらめく、三角の旗の繋がりを見て、2号車の運転手が班長に声を掛けた。 

 「おう、何色だ?」

 「黄色・緑・白・・だな」

 「警戒しながら移動速度を保て・・か。よし、後ろの車両にも送ってやれ」

 「了解」

 準備された旗を、指示のあった順番に手早く結びつけると、天井の専用ハッチから外に送り出した。


 「ガンナー、敵が近いらしいぜ、その腕前見せてもらおうか」

 『ギャギャ(了解した、任せろ)』

 屋根の上で、対地用バリスタに取り付いているシナノが伝声管から答えた。

 「問題は、バリスタの射界が前方120度って事か・・」

 専用の銃座がない荷車では、射手を屋根に固定するしかなく、その結果、バリスタの撃てる方向も、前方に制限されていたのだ。しかし一晩の工作では、現状が精一杯であった。

 「・・後ろは頼んだぜ・・」



 最後尾を4号車と代わって、今は6番目を走っている7号車も、前の車両の通信旗を見つけた。

 「旗がでてるよ、色は・・黄色・緑・白・・かな」

 「直に後ろに知らせないと・・旗どこ?ないよ?!」

 「あ、あの箱、嵩張るから捨てちゃった・・」

 「えーーー、どうするの!」

 「だって・・ピョン太の分も軽くしないといけないからって・・」

 「そうか・・だったら仕方ないよね」

 「でも、4号車にどうやって知らせるの?うちが最後尾だったら問題なかったけど・・」


 「えっと・・これでどう?・・」

 探し出して来たのは、古くて黄ばんだ木綿のシャツだった。

 「黄色に見えるかな?」

 「白・・ではないね・・」

 「ならいいか、これ三角に切り取っちゃうよ?」

 「問題なし」

 7号車から急いで通信旗?が送り出された。


 

 「前方の車両から通信旗が出ました」

 「ほう、色は?」

 「・・黄色?緑?白でしょうか・・」

 「もっとはっきり見極めろ、なんだそのあやふやな報告は!」

 「はっ、正確には、黄ばんだ白、葉っぱの緑、真新しい白です」

 「・・・無視しろ」

 「はっ、しかし宜しいのでしょうか?」

 「構わん、我らに対する侮辱だ」


 最後尾の4号車には、団長の指示は伝わらなかった・・・



その頃、キャラバンの先頭を行くアイスドレイク部隊の視界に、レッドバックウィドウの姿が入って来ていた。

 「お出ましだぜ、ジャー」

 「お嬢、やりますか?ジャジャ」

 「遠いのは無視だぜ、進路の邪魔になる奴らだけ吹っ飛ばせ、ジャー」

 「「がってんです、ジャジャジャ」」


 ワタリを1号車に送り届けて戻ってきた1騎と合流し、3騎編隊になったベニジャの氷竜騎兵隊は、戦闘態勢に移行した。

 正面で立ち止まった不運な蜘蛛を、ランスで串刺しにして進路から弾き出していく。

 傷ついて脇に転がったレッドバックウィドウは、ワタリが確実にクロスボウで止めを刺していった。


 「後続にちょっかい出されると、困るっすからね」

 ボルトは2号車から潤沢に提供されていた。弾切れの心配が無くなったワタリは、1号車の屋根に腰掛けながら、次々に蜘蛛の死体を増産していった・・・



 氷竜騎兵隊が見逃した蜘蛛のうち、横合いからキャラバンに急接近してくるものは、対地用バリスタの餌食になった。

 屋根に張り付くようにスタンバイしていたゴブリンスナイパーのシナノが、引き金を絞ると、ズドンという轟音を立てながら、大型のクロスボウにセットされた金属製のボルトが発射された。

 ほとんど槍のような太さのそれは、接近するレッドバックの胴体を貫き、そのまま地面に縫いとめてしまう。体液を流しながらもがく蜘蛛も、やがて力尽きて動かなくなった。


 「ギャギャ(威力は十分なんだが・・)」

 シナノは、ボヤきながらバリスタの下部に備えられた、巻き戻し用のレバーを力強く手前に引き倒す。

 梃子の原理を応用したその機構は、通常なら3人で巻き戻す弦を、一人で準備する事ができた。

 それでも発射間隔は毎分6回が限界であった。


 「ギャギャ(全車両に設置されていれば、弾幕も張れたんだが・・)」

 交代で打ち出せば、接近する蜘蛛の殆どを撃退できるはずだ。射手の力量も必要だが、そこは数で補えばよかった。

 しかし現状では、手の回らない敵も出てきてしまう・・・



 キャラバンの先頭集団は手強いとみて、蜘蛛は後方集団に襲いかかった。

 7号車の車中でもエルフの小隊長に指揮されて、モフラーの一家がクロスボウを構えていた。

「右舷、目標、蜘蛛。打て!」

 小隊長の号令で一斉に発射する。しかし命中率が低く、1斉射では1体を倒すこともできなかった。


 一番幼い男の子も、予備のクロスボウを抱きかかえて、左舷の見張りについていた。

 「ピョン太も蜘蛛を見つけたら教えてね・・」

 背後で自分を抱き上げて、覗き窓の高さに持ち上げている雪原ウサギに声を掛けた。


 ピョン太は黙って、口の中の赤カブを咀嚼していた・・


 その7号車の前を、1体のレッドバックウィドウが走り抜けていった。

 「なんだ?なぜ襲わずに通過したんだ?」

 訝しむ運転手が、蜘蛛の狙いに気がついたのは、次の瞬間だった。


 「な!正面に糸が!」

 ゴールテープの様に進路を横切る形で張られた銀色の糸に、牽引アルマジロが突っ込んでしまう。

 「手近な物にしがみつけ!!」


 しかし想像した衝撃は訪れず、かと言って糸は切れもせず、牽引アルマジロは、そのまま糸を引っ張りながら疾走を続けた。

 その糸の先には、レッドバックウィドウが付いている。

 振り子の様に振られた糸は、蜘蛛を付けたまま、7号車の上空を通過していった。

 「撃ち落とせ!」

 小隊長が命令するが、移動車両の側面に設置された銃眼は、上には撃てない。


 次の瞬間、ドンッ!という重量感のある音と共に、蜘蛛が7号車の屋根に取り付いた。


 ガリガリという天板を齧る音が響いてくるが、荷車と言えどもドワーフの移動車両である。蜘蛛の顎では貫くことはできなかった。

 しかし問題は、蜘蛛に取りつかれたことにより車重が一気に増えたことだ。目に見えて7号車の速度が落ちた。


 「私が出る!」

 小隊長が、天板のハッチを押し上げようとしたが、ビクともしなかった。

 「真上にいるのか!」

 唯一の上への出口を封じられて、車中からは手が出せなくなってしまう。

 外部からの援護を頼むしかなかったが、果たして間に合うだろうか・・


 車内に恐怖が蔓延しようとした時、それが動いた。


 「ピョン太?」

 抱えていた男の子を床に下ろすと、雪原ウサギのピョン太が、立ち上がった。

 そして、車両の中央で逆立ちをすると、天井に向けて、物凄い速さで両足を叩きつけたのだ。

 いわゆるウサギキックである。


 しかしその威力は想像を越えており、天井の装甲を凹ませるほどであった。

 ズドンッ!という音とともに、キックの衝撃は天井を伝わって蜘蛛を弾き飛ばした。


 宙を舞うレッドバックには何が起きたのか分からなかったに違いない。

 地面に落ちる前に、殺到したボルトの雨に貫かれて、絶命していた・・


 7号車の中からは歓喜の声が響き渡った・・・



 




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