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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第10章 ドワーフキャラバン編
346/478

アルコール度数70%

  湿原地帯の沼杉の林にて


 先行したストームタスカー部隊が、沼杉の林が目視できる所まで接近すると、アップルリーダーの合図で急停止した。

 「ギャギャ(隊長、どうしました?)」

 「ギャギャギャ(林の中に蜘蛛が見えた)」

 「ギャ(え?本当ですか?)」

 隊員のパイとティーが目を凝らすと、確かに沼杉の陰にちらほらと黒い影がうろついていた。


 「ギャギャ(斥侯ですかね?)」

 「ギャギャギャ(違うな、数が多い・・待ち伏せかもしれん)」

 「ギャ(そんな・・)」

 キャラバンのルートを予測しなければ、ここで待ち構える事など出来るはずもなかった。蜘蛛に先回りをするだけの知能を持った指揮官がついたことになる。


 「蹴散らせないですかね?」

 アップルの後ろに乗っている、エルフのソーサラーが尋ねてきた。ストームタスカーの突進力と、範囲攻撃呪文の援護があれば、5・6体のレッドバックウィドウなら倒せるという計算である。


 「ギャギャ(難しいだろうな・・木々の間に銀色の糸が張り巡らされている)」

 目を細めて凝視すると、朝日を反射した銀色の蜘蛛の糸が、何重にも張られているのが見えた。もしあの糸一本で、垂れ下がるレッドバックウィドウの体重を支えられる強度があるならば、タスカーの突進も、移動車両の通行も止められてしまうだろう・・


 「なるほど、確かにあれは面倒ですね」

 ソーサラーの精霊呪文属性は、風と光である。火炎や酸ならば容易く溶かせるはずの糸も、風や光では吹き払うぐらいしか対応ができず、効果的な駆除は出来そうにもなかった。


 「ギャギャ(だが、やるしかないか・・)」

 ここで時間をとれば、キャラバンが追いついて来てしまう。

 先行したからには、障害を排除するのが、このチームの役目であった。


 「ギャギャ(ドワーフ二人はタスカーから降りて、近くに隠れていてくれ)」

 アップルリーダーの指示に、しかし二人は首を横に振った。


 「俺達にも何か手伝えることがあるかもしれん、このまま後ろに乗っけてってくれないか」

 「そうそう、人手は多いにこしたことはないからの」

 モフラーの二人は、ストームタスカーの背中から降りようとはしなかった。


 「ギャギャ(いいだろう・・振り落とされるなよ)」

 アップルリーダーは、ドワーフ達の同行を許可すると、隊列を逆三角形に変えさせた。

 「ギャギャギャ(エルフが乗る俺のタスカーが中央後方、その左右前方にパイとティーのタスカーは並べ)」

 「「ギャ(了解です!)」」


 「ギャギャ(接近して呪文を打ち込んでみる。蜘蛛が飛び出してきたら、二人で抑えろ・・いくぞ!)」 「「ギャギャ(はい!)」」

 沼の中央にある中州を辿りながら、3体のストームタスカーが突進していった・・・


 チキチキチキチキ


 沼杉の林に近づくと、あちこちからレッドバックウィドウの警戒音が響いて来た。

 タスカーの進路を遮ろうと、林から飛び出してきた2体の蜘蛛は、護衛の二人にランスチャージを受けて吹き飛んでいった。

 「「ギャギャ(ウラー!!)」」


 さらに五郎〇の後部座席に乗った、エルフのソーサラーが、不安定な体勢ながらも呪文の詠唱に成功した。

 「ウィンド・バースト!!」

 風の範囲攻撃呪文は、狙い違わず林の手前に張り巡らされた蜘蛛の巣と、中に潜んだ蜘蛛1体に命中した。


 「やはり効きが悪い!1発では糸を吹き飛ばすまではいかないな!」

 叫ぶエルフの声を聞いて、3騎は急旋回すると、離脱を図ろうとする。

 しかしそれを追う様に、呪文でダメージを受けた蜘蛛が、糸の範囲から出て追いすがって来た。


 「ギャギャ(まずい、追いつかれるぞ)」

 旋回のタイミングが少し遅くなった、パイの騎乗するストームタスカーのアグーに蜘蛛の前足が迫っていた。

 「なんの、任せろ!」

 後部座席のドワーフが、後方の蜘蛛に向って、至近距離からクロスボウを放った。


 ギチギチギチ


 頭部にボルトが突き刺さった、レッドバックウィドウは、断末魔の悲鳴を上げながら転倒した。

 咄嗟に振り向いてクロスボウを放ったドワーフは、座席から転がり落ちそうになったが、パイが後ろ手に支えて、事なきをえる。


 距離をとって、追っ手がこないのを確認すると、再び3騎は旋回した。

 「ギャギャ(よし、もう一度だ!)」

 「「ギャ(はい!)」


 再突入しようとするストームライダーに、ドワーフが声を掛けた。

 「ワシらに考えがある、今度は真っ直ぐ前方に吹く風呪文にしてみてくれ」

 「ギャギャ(出来るか?)」

 「ギャスト・オブ・ウィンド(強風)の呪文でしたら」

 「ギャギャ(なら頼む、このまま繰り返してもラチがあかない)」


 三騎は、もう一度、逆三角形の隊列に組み直すと、林に向って疾走した。

 ソーサラーは、先ほどとは違い、攻撃力のない強風の呪文を詠唱する・・・


 蜘蛛の糸のギリギリまで接近すると、エルフが呪文を解き放った。

 「ギャスト・オブ・ウィンド!」


 それと同時に、ドワーフの一人が、腰に下げた金属製の水筒をエルフの前方に放り投げた。

 「蜘蛛になんぞ飲ませるのは癪だがのう」

 もう一人のドワーフが、火打石を鏃にした特製のボルトで、水筒を打ち抜く・・

 「クラン特製の火酒じゃ、とくと味わえ!」


 ボルトに撃ち抜かれて、中身が飛び散った水筒に、火花が引火して燃え上がった。

 そしてその炎が、強風に煽られて、巨大な火炎放射器のように周囲を嘗め尽くした・・


 炎の範囲にあった蜘蛛の巣は、瞬時に燃え尽きて消滅し、火酒の飛まつを受けた蜘蛛が、火達磨になりながら、逃げ惑っていた。


 「ギャギャギャ(いけるぞ、呪文をもう一度だ!)」

 「・・・ギャスト・オブ・ウィンド!!」

 蜘蛛に燃え移った火の粉と、辺りの枯れ木に燃え移った炎が、2度目の強風に煽られて、延焼していった。


 チキチキチキ


 山火事の様な炎に追い立てられて、レッドバックウィドウの集団が、後方へ離脱し始めた。それを止める統率者らしき存在は見当たらなかった・・・


 もくもくと立ち上る黒煙を見上げながら、アップルリーダーは呟いた。

 「ギャギャ(ちょっと、やりすぎたか・・)」


 その煙は、移動中のキャラバンからも見えたという・・・








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