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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第10章 ドワーフキャラバン編
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性能を発揮するにはメンテが重要

 第一補給拠点から南に5kmほどの湿地帯にて


 キャラバンが出発してから、そろそろ1時間がたち、幾つか問題が浮上してきた。

 まず最初に移動車両の速度の違いである。


 「団長、4号車が遅れているっす」

 1号車の屋根からキャラバン全体を眺めていたワタリが、足元の伝声管に叫んだ。

 すると運転席の団長の声が、そこから返ってくる。

 『あいつら財産に固執して軽量化しなかったからな・・仕方ない、今のうちに車両の順番を並べ替えよう・・』


 団長の指示で、4号車は最後尾に送られた。もちろん貴族派は盛大に文句を言ったけれども、足の遅い車両にキャラバン全体の移動速度を合わせるわけにはいかなかった。

 その原因が、私欲にあるのならば、なおさらである。


 7台のうち、次に遅いのが、モフモフ一家の7号車だった。

 雪原ウサギの体重に加えて、ペット用の飼料が、大量に積んであるからである。半分に減らすように進言したが、2日間で食べ切ってしまうそうなので、見逃して欲しいと泣きつかれた。

 乗員9名と1匹のうち、2名が今はタスカーに乗って先行部隊に同行しているので、なんとかなっているが、戻るとかなりまずいことになりそうだった。

 事態を理解しているのか、していないのか、ピョン太は車中で、物凄い勢いで餌の赤蕪をボリボリ噛み砕いていた。

 

 「ピョン太が食べちゃえば、その分は軽くなるよね?」

 男の子の質問に、小隊長は首を捻った。

 「どうだろう・・保存場所が、車中からピョン太の胃袋に代わっただけのような気もするが・・」

 消化すれば軽量化するんだろうか?・・・



 それ以外の5台は、だいたい同じ車重なのか、速度は揃っていた。

 しかし、というかやはり、というか、湿地帯では速度が出し辛かった。


 今はまだ、牽引アルマジロの踏ん張る足が、柔らかい地面に沈むぐらいで済んでいたが、この先、徐々に水位が上がってくる。

 殆ど、池に近い水溜りを渡る様な箇所も出てくる以上、行軍速度は、さらに遅くなると予想された。

 しかも、車輪が巻き込んだ泥が、あちこちに跳ねて、各部の動きが悪くなってきていた。


 ワタリは、2号車に飛び移ると、車内のアイアン爺さんに呼びかけた。

 「アイアン爺さん、湿地と泥で速度が鈍っているっす。なんとかならないっすか?」

 『無茶いうな!防水はしっかりしてあるし、車体の底部にはフロート板も取り付けてある。これ以上は停車して、地道にメンテする以外に方法はないわい!』


 「停車は却下っす・・」

 泥を被るたびに、一々停車していたら、それこそ日が暮れてしまう。仕方なくこのまま進むことにした。



 そして最後の問題は、レッドバックウィドウの斥侯が、ちらちら報告され始めた事であった。

 今のところはまだ、広く張った狼警戒網の端に引っ掛かっただけなので、事無きを得ているが、この先に想定外の集団がいる可能性もあった。

 『補給拠点を襲った集団の、生き残りなんじゃないのか?』

 団長の意見にワタリは首を振った。

 「なら、拠点を再襲撃するか、逃げ帰っているはずっすよ。持ち場を離れずに監視しているのは、統率している奴が居る証拠っすね・・」


 拠点を襲撃してきた集団の統率者であった、ダークライダーは、ストームランサー隊が撃破している。新たな幹部が送り込まれたとするなら、今までの例からいって、配下の蜘蛛は50体はいるはずだった。

 「残党を吸収していたら、もっとかもしれないっす・・」

 ワタリが不吉な予言をした。


 『どちらにしろ、警戒しながら突っ切るしか方法がないな・・』

 「そうっすね、ルートの変更をする余裕もないっすから、このまま前進するっすよ」

 キャラバンは、警戒度を高めながら、湿原を疾走していった・・・




  ナーガ族の隠れ里にて


 影狼の増援により、危機を脱した村人達は、戦いの後片付けを終えると、疲れて眠り込んでしまった。

 再度、蜘蛛が上空から侵入を図ろうとしても、今は影狼が警戒していてくれるので、安心だった。


 その功労者2名は、大量のカピバラ肉に囲まれて幸せそうであった。

 「村人が感謝の印に持ち寄ってくれたのだ。遠慮しないで受け取って欲しい、シュル」

 戦士長に勧められて、チョビとガイルは嬉しそうに齧り付いた。


 「こうして見ると、可愛いものだな。昨晩は鬼神のような戦働きだったのだが・・シュル」

 恐る恐るチョビの背中を撫でながら、戦士長が呟いた。

 

 「普通のシャドウ・ウルフなら、こんなに懐かないさ。この2頭はダンジョンマスターの眷属だから特別だな」

 リーダーもガイルを撫でながら答える。


 「ダンジョンマスターか・・ヘラが世話になっていると聞いたが、どのような方なのだろうか・・シュルシュル」

 「どのような・・・そういえば俺も直接は会っていないな・・」

 「そうなのか?援軍を送ってくれるぐらいだから、面識はあるものだと思っていたぞ・・シュル」


 リーダーは、記憶を遡ってみたが、ダンジョンマスターの顔を思い浮かべることはできなかった。

 「うーむ、眷属のアイスオークドルイドや、スノーゴブリンスナイパー、それからヘラとは直接会話はしたんだがな・・」

 それ以外に想い出せるのは、モフモフとかモフモフとかモフモフぐらいだった。


 「人見知りする方なのか?シュル」

 「声は若いから、そうなのかもな・・って、ダンジョンマスターに興味があるのか?」

 「いや、無いと言えば嘘になるが、どちらかというと恩返しに何が出来るのかと考えてな・・シュルシュル」


 「なるほどな・・相手がダンジョンマスターだと、欲しい物はなさそうだが・・」

 リーダーにしてみれば、戦力も物資も、不思議なパワーで呼び出せるダンジョンマスターは、無限の財力で欲しいものは何でも購入してしまう大富豪の印象があった。

 眷属にモフモフが多いので、悪い存在ではないのだろうが、一介の冒険者や戦士長が、贈るものなど興味を持つとも思えなかったのだ。


 もちろん、これをダンジョンの誰かが聞いたら、全力で否定したに違いない。

 彼らの主人は大富豪というより、日雇い労働者に近いのだから・・


 「まあ、恩返しも、この大氾濫を生き延びてから考えることではある・・シュル」

 「そうだな、まだ終わっていない・・・」


 二人は、一時のまどろみに静まり返った、隠れ里を見つめ続けていた・・・



 


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