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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第10章 ドワーフキャラバン編
344/478

ペットは責任を持って

  第一補給拠点にて


 夜が明けて、慌しくキャラバンの出立の準備が進められていた。

 未明に、2台の離脱者が出たことは、すでに他のドワーフ達にも伝わっていたが、それに対して何かを言い出す者はいなかった。

 彼らの考えもわかるし、どの選択が未来を掴めるのかも、まだ決まっていなかったからだ・・・


 第一と第二の護衛部隊は、合流したあとで再編成を行なった。

 先行部隊として第一護衛部隊が、タスカー3頭とそのライダー3名、その後部座席にエルフ親衛隊のソーサラーとドワーフの有志2名を乗せていく。ソーサラーは沼杉の伐採要員で、ドワーフ2名は、移動車両の通行限界を見極めてもらう為である。

 ドワーフは一人でも十分だったが、タスカーに乗ってみたい希望者が殺到したので、2枠とるはめになったのである。


 「日の出から3時間後ぐらいに追いつくっす。それまでに作業を完了しておいて欲しいっす」

 「ギャギャ(了解した、キャラバンの方は頼んだぞ)」

 先行部隊を率いて、アップルリーダーが出発していった。彼らは最初の難所である、沼杉の林へ急行し、移動車両が通過できる道幅を確保する予定である。

 


 残ったワタリは、キャラバンの準備を急がせる。

 「余分な荷物はここに放棄していくっす。食料も水も第二補給拠点に用意してあるので、最小限で良いっすよ。この先は速度が重要になるから、出来るだけ軽くして欲しいっす」

 しかしあちこちで押し問答が繰り広げられていた。


 3号車の横では、老ドワーフに対してベニジャが、水樽が多すぎると注意していた。

 「この樽を降ろせば、大分軽くなるぜ、ジャー」 

 「これは水ではない、ワシの仕込んだ酒じゃ。ワシが降りてもこれは降ろせん」

 「それ、意味ないだろう・・ジャジャ」


 4号車の横では、貴族ドワーフ達とエルフの神官が、大量の宝箱を前にして口論していた。

 「この箱の中身は、全て私の財産だ。何としてでも持っていくぞ」

 「こっちは私の財産だ。放棄するなど論外だな」

 「しかしその鉄の箱だけでも相当な重さがありますよね?中身だけ麻袋にでも移したらどうでしょう?」

 「そんな事をして盗まれたらどう責任を取るつもりだね。これ一箱で、屋敷が建つのだぞ」

 「はあ・・」


 5号車の横では、威勢の良いドワーフの女性が、積荷をバンバン捨てていた。

 「まだこの季節なら夜も毛布なしで大丈夫だろ、防寒具もあとから揃えればいいさ」

 「でも班長、毛皮か布がないとあたし達の仕事が無くなりますけど・・」

 「そんなの向こう様が用意してくれるだろうよ、今は生き延びることを優先しな!」

 「あ、はい・・本当に大丈夫なのかな・・」

 「ほらほら、その床敷きもいらないだろ、引っぺがして捨てちまいな」

 「こ、これは、勘弁してください、お尻が死んじゃいます」

 「ちっ、これだから近頃の若い娘は・・軟な尻だと丈夫な子供を生めないよ!」

 どうやら、この車両はほっといても大丈夫そうだ・・・


 7号車の横では、ペットを連れて行きたい子供のドワーフが、泣きついていた。

 「ダメだよ、雪原ウサギのピョン太は家族も同然なんだ。一緒に連れて行くんだい!」

 「いや、しかし・・・ジャー」

 モフモフ一家の男の子の我が侭に、リザードマンのエリートが困っていた。

 「どうしたんだぜ?ジャジャ」

 見かねたベニジャが仲裁に入った。

 「蜥蜴のお姉さん、ピョン太も連れていっていいよね!」

 「雪ウサギの1匹ぐらい大丈夫だろう、ジャー」

 「やったー、お姉さんありがとー」


 「ですがお嬢、雪ウサギではなくて、雪原ウサギですぜ・・ジャー」

 エリートが指した先にいたのは、全長1・5mもある巨大な茶色い兎だった・・どう見ても体重が100kgを越えていそうな巨体である・・

 ピョン太は、ふてぶてしく両足を投げ出して座り込みながら、ぼりぼりとお腹を掻いていた。


 「あ、あれ?あれは・・どうだろう・・ジャジャ・・」

 「大丈夫って言ったよね、ピョン太を置いていけなんて言わないよね、お姉さん!」

 しかし、あれ1頭で、ドワーフ二人分の重量はありそうだった。ペット枠に入れるには重過ぎる・・

 困ったベニジャの肩を、誰かが後ろから優しく叩いた。


 振り返るとそこには、笑みを浮かべたエルフの小隊長が立っていた。

 「ピョン太君はペットですよね」

 「うえ?そ、そうかな、ジャジャ・・」

 「ペットで・す・よ・ね」

 肩に置かれた手に、徐々に力が加わってきたので、ベニジャはぶんぶんと首を縦に振った。


 「よかったね、ピョン太も一緒で良いそうだよ」

 「やったー、隊長さん、ありがとー」

 「こらこら、私は小隊長だって教えただろ。隊長は、大尉殿で、もっともっと凄い方なんだよ」

 「へー、そうなんだー」

 男の子と小隊長は、連れ立って7号車に乗り込んでいった。


 「・・よし、アタイは何も見なかった、ジャー」

 「いいんですかい?お嬢、ジャジャ・・」

 ベニジャとエリートは、男の子の後ろを飛び跳ねて付いて行く雪原ウサギを黙って見送るのであった。



 2号車の横ではワタリとアイアン爺さんが、何やら相談していた。

 「アイアン爺さん、またすごいの取り付けたっすね」

 「じゃろ、対地用バリスタ『黄牙オーガ』じゃ。蜘蛛の甲殻もブチ抜けるはずじゃよ」

 「よく一晩で出来上がったっすね」

 「元々、荷車にも戦闘車両としてのベースはあるからの、艤装には問題ないわい。バリスタの材料も元から車両に積み込んであったものだから、重量も変化しとらんしのう」


 2号車の屋根に設置された、大型のクロスボウは、飛竜でも狩れそうな威容を誇っていた。

 「威力はあるが、むろん連射はできん。ただし射手一人で再装填できるようにはなっておる」

 「車両の中から操作できるっすか?」

 「残念じゃが遠隔発射機能は、荷車には付いておらん。射手は屋根に乗ってもらうことになる」

 揺れる車両の上から、バリスタを操作するのは、かなり難しい作業になりそうだった。


 「スナイパーのシナノに任せるっす」

 「ギャギャ(了解)」

 シナノは、身軽に2号車の屋根に飛び乗ると、射手が身体を固定する金具の調整を始めた。

 「両手は自由に動かせるようにしとかんと、再装填で手間取るぞ」

 アイアン爺さんの注意に、シナノは手を振って答える。


 「これ、残りの6台にも取り付けられないっすかね・・」

 「無茶を言うな、どの荷車にもベースは内蔵されておるが、バリスタが用意できんわい」

 「残念っす」



 そうこうするうちに、各車両の準備が整ったようだ。

 無理矢理、整ったことにした車両も、有るにはあったが・・・


 「今から走り始めたら、小休止以外は止まらないっす。湿原を抜けて、第二補給拠点に辿り着くまで、ノンストップで行くっすよ。2日の行程を、1日半で走り抜ける強行軍になるっすけど、湿原地帯には野営ができる安全な場所がないっす。なので全速で駆け抜けるっす」

 頷くドワーフ達の顔は、緊張で青褪めていたが、覚悟は出来ているようであった。


 「ドワーフキャラバン、出発するっす!」

 

 運命の二日間が始まった・・・


 メモ

3号車 杜氏

5号車 縫製職人


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