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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第10章 ドワーフキャラバン編
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月に群くも

  ナーガ族の隠れ里にて


 最初の大きな襲撃を撃退したあと、数時間おきに1・2体のはぐれ蜘蛛との戦闘は起きたが、負傷者もでずに処理することが出来た。

 六つ子も、魔力の尽き掛けたメンバーを優先して休憩に回し、戦士であるリーダーやレンジャー妹が、警戒任務に参加していた。


 やがて夜になり、蜘蛛の活動が鈍くなってくると、警戒を里の戦士達に任せて、二人も休息に入ることにした。

 「結局、援軍は来なかったな・・」

 「向こうの方が黒衣の沼に近いからね・・こっちより大変なのかも・・」

 そう呟く妹の顔も、疲労で今にも目蓋が下りそうであった。


 「とにかく身体を休めろ、明日もまた厳しい戦いになるぞ」

 「あいあい、おやすみ~」

 レンジャー妹は、ドルイド妹の待つテントへと潜り込んでいった。


 それを見届けたリーダーは、反対側にある男性陣用に用意されたテント群を眺めて、ため息をついた。

 「あそこに行くのが憂鬱だぜ・・・」


 なぜか贅沢に、個別に用意されたテントは、ナーガ族の感謝の表れだという。

 それはありがたいのだが、どうしても裏の思惑を考えずにはいられなかった。

 今も、2つのテントからは、ナーガ族の女性の嬌声が聞えてくる。たぶん、お酒の酌でもされているのだろう・・

 

 微量ながら魔力の回復を増進するという薬酒は、希望者だけ飲むことにした。

 妹二人は辞退していたが、弟達は、3人とも嬉々として飲んでいた・・・

 「少しでも魔力が回復するなら、多少の副作用は我慢するぜ」

 「魔力回復ポーションはめったに手に入りませんからね、この薬酒の成分も気になるところです」

 「・・ごくごくごく」


 魔力回復より、精力増進に興味があったのは一目瞭然だったが、止めさせる理由もなく、そのまま休憩させることにしたのだ。

 どちらにしろ、術者系は魔力が枯渇すれば戦力にならない。出来るだけ安静にして魔力の回復を図って欲しいのだが、あの二人は、ずっと酒盛りをしていたようだ。

 まあ、薬酒が効くならそれでも構わないのだが・・


 問題は、最後の一人だ。妙にテントが静かなのが気にかかる・・

 既に酔いつぶれて寝てしまったのなら良いんだが、それにしてはテントの中の気配が複数なのは何故なのか・・

 ・・・・・

 放って置こう・・弟も自分の責任ぐらい自分で取るだろう。


 来年辺り、ハーフナーガの姪っ子ができるかも知れないが・・・



 六つ子のリーダーが自分に用意されたテントに入ると、そこには先客が居た。ナーガー族の戦士長である。

 「一足先に飲ませてもらっているぞ、シュル」

 「・・ああ、それは構わんが、なぜここに?」

 「貴殿とは一度ゆっくり話がしたくてな・・明日はその時間があるかどうかわからないから、勝手に押しかけたというわけだ、シュルシュル」

 そう言って、もう1つの杯に酒を満たして手渡してきた。


 「これ、例の薬酒じゃないだろうな・・」

 「戦士の我らに魔力回復は意味ないだろう、私の秘蔵の酒だ、味わって飲んでくれ、シュル」

 リーダーは戦士長の正面に座り込むと、杯を受け取った。


 「ならばいただこう」

 「うむ、勇敢な戦士に、この1杯を捧げる、シュルシュル」

 二人は同時に飲み干した。


 「なるほど、美味い酒だ・・」

 「私が戦士長に就任したときに族長から贈られた酒だ。記念日に飲もうとしたまま、ずるずると封を切らずに過ごしていたのだ・・シュル」

 「そんな大事な酒を、良かったのか?」

 「ああ、腐らせても仕方あるまい・・貴殿と飲めるなら上等の部類だろう・・シュル」

 「そうか・・」

 二人は静かに杯を重ねていった・・・



 リーダーには、これが別れの杯であろうことは、薄々気がついていた。

 明日、夜が明けて、もう一度今日と同じ規模の襲撃があれば里は護りきれない。圧倒的に戦士の手が足りないからだ。

 もともと隠れ里には、薬師や農婦が多く、戦える者が少なかった。

 その上、狩りに出た者が、蜘蛛に襲われて行方不明になっており、まともな戦力としては5人しか残っていなかった。その内の一人が、今日の戦闘で重傷を負い、しばらくは安静が必要だという。

 六つ子の魔力も、薬酒の効能があっても全回復は難しいだろう・・


 故に、彼女は死を覚悟して、ここに居る。

 たとえ里を放棄して、族長や他の薬師を逃がしたとしても、戦士長である彼女は、最後までこの里の守りに留まるに違いなかった。


 だからリーダーは黙って、杯を受ける・・・

 彼女にとって、この隠れ里は、彼にとっての家族と同じ重さを持っているのだろうから・・・




 やがて隠れ里の夜は更けていった・・

 昼間の戦いで、心身ともに疲れ切った村人は、倒れこむように寝床に横たわると、そのまま深い眠りについた。

 まだ体力の残っている少数が、見張りに立っているが、それも居眠りしないのが精一杯という感じである。ただし蛇たちが巡回しているので、敵が近づいてくれば知らせてくれるはずであった・・・


 普通ならば・・・


 深夜になり、それまで隠れていた月が、雲の隙間から顔をだした。

 つられて夜空を見上げた村人が、そこに奇妙なものを見つけた・・

 「銀色の線?・・」

 それは里の上空を横断するように張られた、1本のロープのようでもあった。

 「あんなもの、あったかしら・・シュル・・」


 気になって、仲間に問い掛けようとした、その時、彼女の頭上に巨大な影が落下してきた。


 「キャーーーーー」

 悲鳴をあげたのは離れた位置で、その惨状を目撃した別の村人だった。

 最初に異変に気がついた村人は、レッドバック・ウィドウの下敷きになって、すでに死亡していた。


 悲鳴を聞きつけて、あちこちから戦士達が集まってくるが、そこへ次々と夜空から蜘蛛が落下してくる。

 「敵襲だ!蜘蛛が侵入したぞ!」

 「空だ、奴ら空から降りてくる!」

 「戦えない者は避難しろ!戦士は槍を持て!」


 混乱する中で、レンジャー妹もテントから飛び出した。

 「どういうこと?蛇の警戒網は働かなかったの?」

 夜空を見上げると、そこには岩山の頂上を結ぶ、銀色のロープが見えた。


 「奴ら、糸を撚り合わせて、ロープ代わりにしたのね!」

 その妹の死角から、レッドバック・ウィドウが飛び掛ってきた。

 「まずいっ!!」

 咄嗟に避けようとしたレンジャー妹だったが、間に合わなかった・・


 「キャーーーー」


 首筋に毒牙が突きたてられ、そのまま押しつぶされて噛み殺される・・・はずだった・・


 だがしかし、妹を襲ったレッドバック・ウィドウは、空中でバランスを崩し、そのまま地面に激突すると、動かなくなった。


 「いったい、何が・・」

 呆然とするレンジャー妹の目に、蜘蛛の影から姿を現した、2頭の漆黒の狼が映った。


 「チョビ!助けにきてくれたんだね!!」

 「バウバウ」

 「あははは、ありがとうチョビ!」

 抱きかかえて、めちゃくちゃに撫で回すレンジャー妹を、もう1頭のシャドウウルフが窘めた。

 「バウ!」


 「あ、そうだ、戦闘中だった・・」

 「バウ」

 「よし、君はガイルだったね、君も力を貸してくれるのかい?」

 「バウ」

 「うん、よろしくね。君達が居れば、百犬力だ、里に入り込んだ蜘蛛を駆逐するよ!」

 「「バウバウ」」


 一人と2頭は、乱戦の中に飛び込んでいった・・・




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