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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第10章 ドワーフキャラバン編
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去るものは追へず

  第一補給拠点にて


 日付が変わり始める深夜、蜘蛛の集団に追われながらの旅を、1日中続けて疲れ切ったキャラバンは、静かな眠りについてた。

 防衛拠点の中には、到底入りきらない移動車両は、拠点を囲むように円陣を組んで配置し、簡易的な壁の代わりにしていた。

 拠点と移動車両の間には、牽引アルマジロを囲っておき、ドワーフ達は、車両の中か防衛拠点のどちらかを選んで休息している。


 護衛部隊は、より疲労が溜まっているはずであったが、いつ襲撃があるか分からない以上、警戒を怠ることはできなかった。

 狼チーム3頭を中心とする索敵班が、今も拠点の周囲を巡回している。ただしタスカーとアイスドレイクには、次の日の為に休息を取らせていた。

 拠点の見張りは、ドワーフの有志と護衛部隊の兵士で行なっていたが、月明かりだけでは遠くまで見通すこともできず、門衛としての役目しか果たしていなかった。


 防衛拠点の中では、どうせ蜘蛛には場所が知られているのだからと、火が焚かれ、それを囲むように9人がボソボソと声を押し殺しながら密談をしていた。

 その集団から、たまに怒声が上がると、離れた場所で寝ていたドワーフの子供が、びくっと身体を震わせて、心細そうに母親にすがり付いている。

 その母親も、むずがる子供をあやしながら、焚き火を囲む団長達を心配げに見守っていた・・・


 ドワーフキャラバンの進路を決める会議が紛糾していたのだ。



 ことの起こりは、モリブデン団長に追及されて、アエンが全部打ち明けた事に由来する。

 アエンとワタリとしては、団長だけの腹の内に収めておいて欲しかったのだが、事がキャラバンの行く末にも関わってきそうな重大な情報だったので、一部のドワーフの有力者にも教えることになってしまったのだ。

 その結果、大揉めに揉めたのである・・・


 どれくらい揉めたかと言うと、ワタリはヘトヘトになり、ベニジャは匙を投げ、アエンは泣きそうになったぐらいであった。

 団長を含めて、秘密を教えられたドワーフの有力者は5名、そのうちの3人が、キャラバンからの脱退を表明した。受け入れ先がダンジョンマスターであることが、納得できないらしい。


 「しかし、今ここで抜けてどこに行く?帰るところもないだろう・・」

 団長は引きとめようと幾度も説得したが、彼らは聞く耳を持たなかった。 


 「構わん、このままダンジョンの肥やしにされるより、野垂れ死にしたほうがましじゃ」

 「ですから、私達のマスターはそんな事はしません。皆さんの安全を慮ってですね・・」

 「裏切り者が何を言っても信用できん。大方、洗脳でもされておるんじゃろう。ドワーフが自らダンジョンの下僕になるなど有り得んからな」

 強硬派は頑として聞き入れることはなかった。


 「ワシはまあ、アエンのマスターは話のわかる奴じゃとは思っておるよ。じゃが、もう一人のダンジョンマスターが、ゴブリン使いというのが気に食わん。そんな奴の所に分配されたらかなわんからのう。悪いがここで抜けさせてもらうぞ」

 「移住先は、本人が選べるっすよ。嫌な土地には行く必要はないっす」

 「それで誰一人としてゴブリン使いを選ばなかったときに、お主の主人は、協力者に対して不義理をすることになるじゃろう。腕の良い鍛冶師を期待していた相手が怒ったらどう宥める?その時、人身御供をださないという保証はないじゃろう」

 理論派は、もう一人のダンジョンマスターが信用できないと主張していた。


 「だから最初から私に任せていれば良かったのだよ。今からでも遅くは無い、キャラバンの全権を私に移譲すれば、悪いようにはしない事を約束しよう」

 「アンタには聞いてないよ、ジャジャー」

 団長が他の3人に声を掛けて相談したときに、勝手に割り込んできた自称貴族の妄言は、誰からも相手にされていなかった。しかし、彼の乗っていた移動車両の乗員は、ほぼ似た者同士で構成されていたので、ある意味、貴族派を代表していると言えなくもなかった。他の貴族に尋ねたら、代表者は自分だと全員が主張したとは思うが・・


 「私は、信じて良いと思っています・・モフモフ好きの人に悪い人はいません・・」

 「ああ、貴女には早く、親方や穴熊ファミリーに会って欲しいと思っているよ。大尉殿も歓迎してくれることだろう」

 消極的賛成派は、モフラーだったようだ。

 鍛冶師のアイアン爺さんも賛成派なのだが、この場にはいなかった。



 「どちらにしろ夜明けになれば蜘蛛の活動も活発になり、ここも危険になる。南下する以外にルートは無いだろう?」

 団長が、他に選択支の無いことを理由に反対意見を押さえ込もうとした。


 「いや、西へ逃げるという方法もある」

 「確かにそれなら湿原を抜けなくて良いからな、蜘蛛に襲われる可能性も減るじゃろうて」

 「私もまさにそれを言おうと思っていたのだよ」

 離脱組は、ここから西へ向うルートを主張していた。


 「さすがに一番危険な箇所を通過するのに戦力は分散できないっす。西ルートには護衛をつける余裕がないっす」

 「構わん、護衛など必要ない」

 「ワシらは勝手にキャラバンを離れるのじゃから、気にする必要はないぞ」

 「いやいや、分散できないのなら私達を守るのが優先だろう。それぐらいの判断もできないのかね?」

 一部を除いて離脱組は、護衛なしで移動するきのようだが、現状では自殺行動に近かった。


 「無理っすよ、北から西に向った集団もいるっす。この近辺で安全な場所などないっすね」

 「行く先の相談は、湿原を渡りきってからでもできるだろう。今は固まって行動するべきだ!」


 団長が強く主張して、やっとその場は収まった。強硬派はぶつぶつと文句を言っていたのだが・・・



 翌朝、キャラバンが出立の準備をしていると、移動車両が2台と牽引アルマジロが2頭いなくなっているのが見つかった。

 「見張りは何をしていた?!」

 団長の叫びに、護衛隊長のアップルが答えた。


 「ギャギャギャ(早朝にこそこそ出かける準備をしていたので、見逃した)」

 「なぜだ、なぜ止めなかった!」

 「ギャギャ(どう行動するのが正解か、誰にもわからない。ならば自分で選んだ道を行くしかない)」

 「そうっすね、オイラ達が湿原を抜けられるかどうかも分からないっす」

 「それはそうだが・・しかし・・」

 団長は離脱者を出したことを悔やんでいた。


 「落ち込んでる暇はないっすよ。残ったキャラバンが出発の合図を待っているっす」

 「ギャギャ(望むものは無事に送り届ける。それが俺達の使命だ)」


 二人に励まされて、団長が顔を上げた。

 「そうだったな・・私にはまだ率いなければならない仲間がいたんだ・・ここで立ち止まるわけにはいかない・・」


 7台に減った移動車両に向けて、団長が叫んだ。


 「ドワーフキャラバン、出発!!」


メモ 1号車 団長

   2号車 アイアン爺さん

   4号車 貴族連合

   6号車 リン&ネオン

   7号車 モフラー

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