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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第10章 ドワーフキャラバン編
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怒らせてはいけない人

 馬車に轢かれる夢を見た。

 子供の頃に、坂道に飛び出したら、坂の上からすごい速度で走り降りてきた馬車に巻き込まれて、生死の境を彷徨った思い出があった・・

 そのときの、御者の怒声、馬の嘶き、車輪の立てる轟音が、耳について離れない・・・

 あのときの夢だ。


 これが夢ならば、自分は今、どこで眠っているのだろうか・・・

 飛び出したまま、一度も帰っていない実家の部屋?

 始めて泊まった安宿の、硬くて、狭くて、ノミの集っていた寝台?

 それとも、土の臭いが強い、野営の焚き火の傍だろうか?


 朦朧とした意識のなかで、パチパチと薪のはぜる音が聞えた・・・・

 どうやら野営の見張りの最中に眠り込んでしまったらしい・・・

 確か、冒険者ギルドで依頼を見つけて、遺品の回収を請け負ったはずだった・・


 ガバッ  音を立ててコルベットは起き上がろうとした。


 全てを想い出して、周囲の状況を確認する・・・どうやらダンジョンの中ではなさそうだ・・

 

 ここは森の中の開けた場所で、夜なのか、辺りは真っ暗だった。傍にある焚き火の炎が照らし出す範囲しか確認する事ができなかった。

 パーティーのメンバーが3人とも、毛布にくるまって寝転んでいる。どうやら全員、無事なようだ。

 そして、もう一人、焚き火の番をしている人物がいた・・


 「貴女・・誰?」

 

 焚き火に照らされて見えたのは、ツンドラエルフの女性であった。




 「目覚めたか」

 その人物はコルベットの質問には答えず、ただ一言だけ低い声で呟いた。


 「・・・貴女が助けてくれたの?」

 ダンジョンで倒れたはずの自分とパーティーがここに居るということは、そう考えるのが自然だった。

 「そうではない」

 しかしエルフの女性の答えは否定的であった。


 そんな会話を耳にしたからか、3人の仲間がもぞもぞと寝返りを打ちながら、順々に意識を取り戻していった。


 なぜか3人とも下着姿であった・・

 そこでコルベットも、自分が毛布の下は、下着姿であることに気がついた。


 「まさか奴隷商人・・・」

 身包み剥がれた自分達を、どこかに売り払おうと、ダンジョンマスターから買い受けたのだろうか・・

 「そうではない」

 相変わらずエルフの女性の答えは短い。


 「だったら、なんで私たちは裸同然なのよ?」

 少し苛立ったコルベットが、不躾に尋ねた。もし争いになっても4人掛かりならなんとかなると判断しての行動である。


 「お前達の装備は、身代金として置いてきた」

 さもそれで説明し終わったかのように、エルフは焚き火に向き直ってしまう・・

 

 「ちょっと、詳しく説明しなさいよ!それだけで理解できるわけないでしょ!」

 コルベットの叫び声が、夜の森に木霊した・・・




 その後は、カレラが交渉役となって、辛抱強くエルフの女性から事情を聞きだしていった。

 ヒルダと名乗るその女性は、東にある大森林のクランに所属する戦士で、掟破りをした貴族の従者を追っているのだという。

 彼らは自分達の仕える家の没落を、ダンジョンの所為にして、復讐を目論んでいたらしい。

 しかしそれはクランで禁止されている行為であった。

 そこで彼らは、掟を破って人里に潜り込み、冒険者ギルドに偽りの依頼を出して、人族の手でダンジョンに報復しようと企んだというわけだった。


 「それに、まんまと引っ掛けられたというわけね・・」

 コルベットが憮然しながら呟いた。

 途中で裏があるとは気付いていたが、予想以上に話が大きくなってきた。

 

 さらに、エルフのクランとダンジョンマスターとの間で、不可侵条約が結ばれているのもまずかった。

 知らなかったとは言え、条約破りの片棒を担がされたとしたら、自分達は貧乏くじを引かされたことになる。

 依頼は、もし達成したとしても踏み倒される種類のもので、依頼主を探し出して問い詰める事は至難の業だろう・・

 冒険者ギルドに補償を要求しても、依頼内容は、直接交渉の結果なので、自己責任で突っぱねられそうである。しかも事前に警告されていた、侵入禁止指定のダンジョンでの事だ。逆に罰金を取られる可能性さえあった。


 結局は、一線級の装備を失ったことといい、大赤字であった。

 しかも「虚無の魔法兵団」の面目は丸潰れである・・


 こうなったら、装備を整えてから、こっそり戻って、あのダンジョンマスターにリベンジするしか・・・



 「止めておけ」

 ヒルダが、心の内を読んだように警告してきた。


 「何よ、このあと私達がどうしようと勝手でしょ」

 コルベットは、見透かされたようでギクリとしたが、精一杯の虚勢を張って答えた。


 「次はない・・」


 その一言に、恐ろしいまでの殺気が込められていた。

 次に囚われてもエルフのクランは救出の手を差し伸べない・・・などという生易しい話ではない。

 次にこのダンジョンに手を出そうとしたら、私が相手になる、という脅しであった。


 その殺気に、他のメンバーが反応して、険悪な雰囲気になった。

 だが、ヒルダの方にも、陰ながら見守る仲間がいた。


 森の外れの暗闇から、巨大な白い虎と、同じく巨大な白い熊が、のっそりと姿を現したのだ。


 「ホワイトタイガーとグレイシャルベアを従えるエルフの女戦士・・・まさか、白雪の鬼姫!?」

 王都でも語り継がれている、伝説級のエルフの冒険者の名前は確か・・・ヒルデガルト・スノーホワイト。

 しばらく前に現役を引退したと風の噂で聞いていたが、まさかこんな北の辺境に暮らしていたとは・・


 

 コルベットは、それでもヒルダを睨みつけると声高に宣言した。


 「ごめんなさい!」


 後ろでメンバーの3人は、綺麗に並んで土下座をしていたのであった・・・



 

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