こっそり回収していたのさ
ダンジョン内地下墓地玄関ホールにて
鎧を装備した神官には、スケルトンファイターの攻撃は通らないと判断して、防御の薄い魔法使いを集中的に攻撃する。
神官は、それを止めようと聖句を唱えるが、詠唱が完了する前に、背後から骸骨戦士長の攻撃を受けて中断してしまった。
その後ろでは最初の1体らしき骸骨戦士長が、倒れたアルカナ・ナイトの身体を、ずりずりと引きずりながら、奥の広間へと移動していく。
それを見て、再び神官が叫んだ。
「コルベット、お前だけでも逃げろ!」
しかし6体の骸骨戦士に囲まれながらも、魔法使いは悠然と構えている。
「雑魚がいくら集まっても、しょせん雑魚よね」
そして、徐に詠唱を始めた・・
「魔力よ集いて、敵を穿て、・・・」
それを阻止しようと骸骨戦士が一斉に切りかかった。
その途端、一番距離の近かった2体が、何かハンマーの様なもので殴られたかのように砕け散った。
さらに反対側から接近していた1体が、宙に浮かんだ半透明な巨人の手によって、握りつぶされてしまったのだ。
そして残りの3体が、足元に絡みつく透明な何かに移動を阻害されている間に、呪文が完成した。
「マジック・ミサイル!」
一番初歩的な、第一階位の魔力の矢の呪文ではあったが、高位の術者が呪文に込める魔力を増やして唱えれば、出現する矢の数を増やすことができた。
実に6本もの魔力の矢が出現すると、足踏みをしている3体の骸骨戦士に向って、2本ずつ飛んでいった。
それは自動追尾で狙った獲物に命中すると、3体全てを破壊したのであった。
「主殿!、何が起きた?!」
ロザリオからは、最初の3体がどうやって破壊されたのか分からなかった。呪文で倒された3体も、直前で動きが鈍ったように見えた。
『最初の2体は、たぶん、インビジブルストーカーに殴り倒されたみたい。どうやら術者本人の警護を命令してあるのだと思う』
「もう1体は?」
『半透明な巨大な手が浮いているから、フォース・ハンドの呪文だね。これもターゲットを握りつぶすモードになってるのかな・・』
フォースハンドは、指示によって、敵を押さえ込んだり、握りつぶしたり、押しのけたりすることが出来る。実体があるから攻撃して破壊することは可能だけれど、それにかまけていると術者を自由に行動させてしまう事にもなる。
「召喚されたものが見えないのがやっかいだな・・後の3体の動きが鈍ったのも、何かが邪魔をしたということか・・」
『こちらからだと確認できないけど、透明なサーバントが複数いるはずだよ。普通は1体ずつ召喚して雑用をやらせるんだけど、高位の呪文にはそれをまとめて沢山呼び出して待機させておく呪文があるからね』
もし仮に、透明な物が見える能力があれば、骸骨戦士の足元に、わらわらと群がっていたサーバントが見えたに違いない。透明な従者は力も弱く、攻撃させることも出来ないが、移動の邪魔をするぐらいは可能だったのだ。
『大抵の召喚従者には、呼び出した呪文の階位に準じて、耐久値が決まっているから、攻撃すれば破壊できるはず』
「しかし主殿、見えない敵をどうやって・・・」
『ロザリオは精霊呪文の「強風」は使えたよね?』
「あ、ああ、風属性の第3階位の呪文なら使えるが・・あれではダメージを与えることは出来ないが・・」
『大丈夫、玄関ホールに向けて、すぐに撃って』
「良くわからないが、真っ直ぐに放てば良いのだな?」
『コア、ロザリオの前に石灰を3袋変換!ドクロは麻袋を剣で切り裂いて!』
『つむつむ』
「カタカタ」
ロザリオが呪文を詠唱し始めたとき、コルベットもまた起死回生の呪文を唱えようとしていた。
「カレラ、上手く避けなさいよ!」
通路で骸骨戦士長と近接戦闘を始めていた仲間に声を掛けると、原子分解の呪文を詠唱し始めた。
「ちょ、この狭い通路に光線呪文とか、無茶だろ!」
しかも敵は容赦なく剣で切りかかってくるのだ。それに対応しつつ射線を確保するのは至難の業に近い。それでもコルベットが撃つのが原子分解ならば、なんとしてでも避けざるをえなかった。
うっかり光線に当たれば、分解されるのは自分であったからだ・・
「風よ集いて、奔流となれ、ガスト・オブ・ウィンド(強風)!」
「万物よ想い出せ、原初汝らが 塵であったことを、ディスイン・・」
勝負を決めたのは詠唱の短さだった。
一瞬早く完成したロザリオの強風が、切り裂かれた麻袋からこぼれだす大量の石灰を巻き上げながら、通路を白一色に染め上げた。
「ゲフッ、ゲフッ、なんだこれは・・喉が痛い、目が、目が・・」
カレラは吸い込んだ喉と目をやられて、その場で苦悶するしかなかった。
「・・テグレー・・ゴホッ、ゴホッ、なによこれ、ゴホッ・・」
コルベットも咳き込んで、呪文は中断するしかなかった。
玄関ホールもその先の階段まで、石灰の吹雪で真っ白になっていた。
その中を、黒い鎧を白く彩りしながら、スケルトン・ウォーリアー達が疾走していく。
彼らにとって石灰は大して邪魔にならなかったのだ・・
そして、今なら、見えざる従者達が、その姿を現していた。
白く染まった風の流れが、障害物となる全ての存在を、暴き出していたからである。
「ギャギャ(チャンスです)」
「ギャ(了解)」
好機とみたゴブリンスナイパーの二人が、十字路まで走りよって、ロザリオの後方からクロスボウを放つ。
「ガハッ、回復の呪文を唱える暇が・・ガハッ・・」
廊下にしゃがみこんだカレラに、容赦なく打ち込まれるボルトは、的確に鎧の隙間を貫いていた。
「カタカタ(ミギイク)」
「カタカタ(マカセタ)」
スケルトン・ウォーリアーのドクロとズガイは、彼等だけに理解できる言語で意思疎通をしながら、次々とサーバントを切り裂いていった。
サーバント自体は耐久値が1しかないので、姿さえ見えてしまえば、なぎ払うのは簡単だった。
その二人の前に、同じく石灰の影響を受けない巨人の手が立ち塞がった。
人族の大人でさえ握りこめそうな巨大な手は、召喚主に接近する敵を排除すべく、ドクロ達に襲い掛かる。
「カタカタ(ココハオレガ)」
「カタカタ(タノンダゾ)」
ドクロがフォースハンドと相対している間に、ズガイはコルベットへと刃を向けた・・
しかしそこに最後の砦が割って入って来た。
インビジブル・ストーカーである。
見えざる守護者は、ズガイの剣を、自らの身体で受け止めると、両腕のパンチで反撃してきた。
片方は盾で受け止めたズガイだったが、もう片方に直撃されて、吹き飛ばされる。しかもズガイの剣の一撃は、守護者に傷1つ与えることができなかったのである。
「そいつは私に任せろ!エレメンタルブレーーード!!」
なぜかスキル名を雄叫びながら、ロザリオが通路を激走してきた。
彼女の右手には、ミスリルソードからさらに伸びた、光の剣が握られていた。
「成敗!!」
ロザリオの中では極悪人の扱いらしく、殺気の篭った光の刃が守護者を切り裂いた。
無論、それで倒れる守護者ではなく、危険度の高い敵から排除していこうと、ロザリオに反撃を試みる。
しかし守護者の攻撃では、ロザリオの防御を突破することは出来なかった。
「どうしてよ!もう風は止んで、インビジブルストーカーは姿を消してるじゃない。なんで攻撃を避けられるのよ!」
間近で行なわれている理不尽な戦闘を見ながら、コルベットが叫んだ。
「甘いな、姿が見えなくなっても、立ち位置がわかれば、攻撃を避けることは可能なのだ」
守護者を圧倒しながら、ロザリオが呟いた。
「だから、なんで立ってる場所が・・・まさか・・」
コルベットは足元を見て愕然とした・・・
そこには、雪のように降り積もった石灰の上に、くっきりと守護者の足跡が残っていたからであった・・




