不滅の兵団
ダンジョンコアルームにて
アルカナ・ナイトが骸骨戦士の再生能力に危惧を覚えていた頃、僕らも敵の対アンデッド能力に危機感を募らせていた・・・
「初めてまともなターン・アンデッド能力を発動したクレリックを見たけど、とんでもないね・・」
『ばらばらー』
一撃で4体のカスタム・スケルトン・ファイターが持っていかれた。しかも追い払う効果ではなく、強制送還による消滅である。どうやら神官は、かなりレベルが高いみたいだ。
「範囲魔法と違って、味方を巻き込む可能性がないから、使い易いだろうし、やっかいだな・・」
優先目標を魔法使いから神官に変えた方がいいかも知れないね・・
玄関ホールでの戦闘をモニタリングしながら、ロザリオに指示を出すかどうか迷っていた。
しかし魔法使いの方も黙って見ているわけではなかった。
素早い詠唱とともに、突き出した両腕に青白い火花が巻きついている。
それを見たロザリオが叫ぶ、
「まずいぞ、避けろ!」
同時に魔法使いが呪文を解き放った。
「ライトニング・ボルト(雷撃)!」
正面に直線状に延びる雷撃は、味方のはずのアルカナ・ナイトを巻き込みながら、通路にいた全ての骸骨戦士達をなぎ払っていった。
「つっつっ、毎度の事ながら容赦ねえな、うちのリーダーは・・」
後方から範囲攻撃魔法を撃たれても、歯を食い縛って耐えているアルカナ・ナイトの姿があった。どうやら味方の巻き込みは、この冒険者パーティーでは日常的に行なわれているようだ。
「まあ、そのおかげで、前がすっきりしたけどな!」
そう言いながら、雷撃を避け損ねた骸骨戦士長に、止めを刺しに切りかかった。
「とっとと成仏しな!」
アルカナ・ナイトの鋭い斬撃を、スケルトン・ウォーリアーのスカルは盾でなんとか防いだが、瞬時に繰り出された2撃目に反応できない。
「もらったああ!」
雷撃呪文で重傷を負っていたスカルに、止めとなる一撃が振り下ろされた・・
だが、その剣は、割って入ったロザリオに受け止められた。
「よくも好き勝手にやってくれたな、部下の敵、とらせてもらうぞ!」
「はっ、お前がここのボスってわけか。お手並み拝見させてもらうぜ!」
激しく斬り合いを始めた二人を横目に、スカルは一旦、十字路の左へ退却していった。
なぜなら魔法使いと神官が、次の呪文を詠唱していたからだ。
「もう1発、ライトニング・ボルト!」
「悪霊よ立ち去れ、ターン・アンデッド!」
しかしこの援護射撃?は、骸骨戦士長が退避していたことにより、ほとんど効果がなかった。
「あの銀色はアンデッドではないようだな。手応えが無さ過ぎる・・」
「雷撃の呪文も効きが悪いわね。あの左手の盾が干渉してるみたい」
冷静に状況を見極める二人に、アルカナ・ナイトが抗議した。
「だったら俺を巻き込む呪文をうつんじゃねえよ!敵よりよっぽど痛いだろうが!」
確かに彼は、敵から一撃も有効打を受けていないのに、すでにボロボロだった。
「ちっ、タンクならそれぐらい我慢しなさいよね」
「・・回復するから待ってろ」
神官が、少し前に出ると、アルカナ・ナイトに回復呪文を唱えた。
「我らが女神の慈愛をもって、彼の者の傷を癒したまえ、キュア・クリティカル(上位治癒)!」
それだけで、殆どの傷が治っていった。
「ありがたいぜ、これでこいつに勝てる!」
実際に、アルカナ・ナイトとロザリオの実力は伯仲していた。
攻撃力ならアルカナ・ナイトが有利、防御力ならロザリオが有利だった。しかし1対1ならまだしも、二人の術者の援護があっては、ロザリオに勝ち目はなかった。
「どうした、防戦一方で口も利けないかよ!」
鋭い2連撃を繰り出しながら、アルカナ・ナイトが挑発する。
「・・・・」
しかしロザリオは、徐々に押されながらも、その猛攻を防ぎ続けていた。
じりじりと後退するロザリオに、神官が、聖印の代わりとなるルーン文字の彫られた盾を掲げながら、声を掛けてきた。
「骸骨戦士長の援護を当てにしているようだけど、顔を出したら即、消滅させるから無駄だぜ」
それに対して、十字路まで押し戻されたロザリオが、ボソッと答えた。
「いや、無駄ではないな・・」
その言葉を切っ掛けに、十字路の左右に潜んでいたメンバーが一斉に攻撃を開始した。
ドスッ ドスッ
アルカナ・ナイトの脇腹に、死角から放たれた2本のクロスボウのボルトが、クリティカルヒットとなって突き刺さった。
「ぐがっ!、スナイパーだと・・どこに隠れていやがった・・」
さらに左右から新たな骸骨戦士長が姿を現すと、それぞれが黒い剣を掲げた。
それに呼応するように、雷撃で吹き飛ばされた6体の白骨死体が、神官の周囲で立ち上がる。
「しまった!こっちが狙いか」
回復呪文を詠唱しかけた神官が、それを中断して聖句を唱え始めた。
さらに後方の魔法使いは、再び雷撃の呪文を詠唱し始めるが、前衛が重傷を負っているのを目にすると、あきらめて別の呪文に換えることにした。
「さすがに自分の手で止めは、ちょっとね・・」
しかし、このタイムラグが、魔法兵団にとって致命傷になった。
十字路で3体に囲まれたアルカナ・ナイトは、その攻撃を受けきるのが精一杯で、死角に潜んでいるスナイパーに注意を払うことが出来なかった。
「ギャギャ(もらいました)」
静かに放たれた必殺の一撃は、まったく同じ場所に吸い込まれるように突き立った。
「ありえねえ・・乱戦状態でもクリティカルだと・・」
それを最後に意識を失った・・
「ロータス!!」
目の前でアルカナ・ナイトが倒れたのを見た神官が、思わず叫び声をあげてしまった。しかしそれは詠唱中の聖句を中断する結果になった。
その隙をついて、骸骨戦士達は、玄関ホールの魔法使いに襲い掛かる。
「まずい、コルベット!」
神官が慌てて振り返るが、そこには堂々と腕を組みながら胸を張っているリーダーの姿があった。
「おたおたしない!『虚無の魔法兵団』は不滅よ!」
「・・・あの自信はどこから来るんだろう・・・」
『・・まだ隠し玉がありそうだな、主殿』
『しーゆーとぅもろー』




