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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第10章 ドワーフキャラバン編
332/478

室内でご使用の際には

 「サーバントAは、パティーの3m先を進みなさい」

 「OOo」

 コルベットの指示で、透明な従者の1体が、滑る様に前にでた。落とし穴避けである。


 その後ろから、ランチャーが周囲に注意を払いながら階段ゆっくり降りていく。

 本当は、ランチャーが進むのに合わせて、従者が前に出ているのだが、傍から見ると、従者に導かれているように見える・・・従者の姿は見えないのだけれども。

 「説明がうざったい!」


 コルベットがまた、虚空に向けて独り言を呟いた。

 よくある事なので、団員は誰も気にしていない・・・次元の狭間から召喚をし過ぎると、見えない者が見えたり、聞えないはずの声が聞けたりするらしい。

 いわゆる妄想癖である。


 それならば、そっとしておいてあげるのが、大人の対応だと他の3人は思っている。

 「ねえ、何か失礼なことを考えてない?」

 「「いや、なにも」」



 地下への階段を降りると、すぐに右壁に木製の扉があった。階段はそのまま下へと下っている。

 「どうする?」

 ランチャーが、仲間に尋ねた。

 「罠がなければ開けてみなさいよ」

 コルベットの指示で、ランチャーが罠探知を始めた・・・


 「なさそうだな・・鍵も掛かってない・・」

 ランチャーは、パーティーに少し下がっているように身振りで伝えたあと、木の扉をそっと押し開いた。


 扉の先は下り階段であった。10mほど下に青銅の扉が見える。

 「下ってまた扉か、どうする?」

 「今度は青銅の扉なのよね?重要度が増してる感じがするわね」

 コルベットの意見で、その扉を開けることになった。


 「罠はないが、鍵が掛かっているな・・倉庫か何かか?」

 「鍵は開けられるのか?」

 「誰に言ってるんだよ、いざとなったら呪文を使うが、これぐらいの難易度なら・・」

 そういって鍵開けの道具で2・3度、鍵穴をいじると、カチャッっと音がして鍵が開いたようだ。

 「それじゃあ、ご開帳といきますか・・」

 ランチャーが少し重い青銅の扉を押し開けた・・・


 「こりゃあ、倉庫だったんだな。安酒の臭いがまだするぜ・・」

 ランチャーの言う通り、地面を掘りぬいて固めただけの地下室には、酒樽が並んでいて、混ぜ物を入れた安い酒の臭いが充満していた。

 そして床や壁際に白骨死体が散乱していた。


 「死体は大分前のものだな・・焼け焦げた跡が残っているのは、火炎属性の呪文使いでも混じっていたのか?」

 死体の半数は焼け焦げた革鎧を着た冒険者風で、半数は揃いの盾を持ったスケルトンのようにも見える。


 「この位置関係だと、奥の石扉に仕掛けられた罠に嵌ったところに、スケルトンに奇襲されてやられたっぽいな・・」

 「あのスケルトンはまだ、動くんじゃないのか?」

 「もしくは部屋に入ると再召喚されるとかな」

 ランチャーが手近な白骨死体に短剣を投げつけてみたが、反応はなかった・・


 「やはり動くとしても再召喚されてからか・・どうする?」

 奥の石扉にはほぼ間違いなく罠があるだろうし、連動してスケルトンが出てきそうである。ランチャーは暗に、引き返そうという意味を込めてリーダーに尋ねた。


 しかしコルベットの反応は違った。

 「スケルトンが出てきても6体でしょ。ビビる必要なんてないわよ。罠はサーバントで作動させるから平気だしね」

 「なら、任せるぜ・・」

 ランチャーとコルベットは立ち位置を交代した。その横には常にロータスが警備についている。


 「サーバントBは奥の扉を開けてきなさい!」

 「OOo」

 コルベットの指示で、透明な従者が部屋を突っ切って扉を開けに行った。透明なものには反応しないのか、白骨死体が動く様子もなかった。

 やがて扉の前に到達した従者は、一種懸命に扉を押すが、びくともしなかった・・・


 どうやら鍵が掛かっているらしい。従者は困ったようにコルベットを振り返って見た。

 「えっと・・触れると作動する罠はないわね、うん」


 「へいへい、俺がノックの呪文で開けるから、そこをどいてくれ」

 再びランチャーと位置を代えると、コルベットは階段の途中まで登った。ロータスはまだ前線でスケルトンを警戒している。


 「閉ざされし扉よ、我が前に道を拓け、ノック(開錠)!」

 ランチャーが奥の扉に開錠の呪文を掛けると、扉の鍵がはずれて勢い良く開き、そして罠が発動した。


 「火炎の範囲攻撃か・・って、こっちに飛んで来やがった!!」

 てっきり部屋の中央で炸裂すると思っていたファイアーボールが、青銅の扉を目標に飛来してきた。ランチャーとロータスは直撃範囲である。階段の上部にいたコルベットとカレラにも熱風が押し寄せた。

 「サーバントAとBが!」

 「こっちの心配しろよ、畜生!」

 悪態をつくランチャーの背後で、酒樽が破裂し、中からこぼれ出した液体に、引火すると部屋中に燃え広がった。


 「ど畜生め、酒と見せかけて油かよ!どうりで混ざり物の臭いがすると・・・」

 わめくランチャーの横で、ロータスが盾を構えた。

 「くるぞ!」

 見ると、部屋の中で炎に巻かれながら、複数の人影が蠢いていた。


 「おいおい、スケルトンだろ、なんで火の海の中を平気で歩いていやがる・・ゴホッツ・・」

 黒い煙に咽ながら、ランチャーが喚いた。

 「俺にもわからん・・が、火炎耐性でも付与してあるとしか思えんのだが」

 スケルトンは火炎属性に脆弱性がある。まさか巻き込み形の範囲攻撃が来るとは予想していなかった。


 「とにかく部屋からの熱気が凄い、ダメージを受けないぐらいまで下がるぞ・・ゴホッ」

 擬似ファイアーボールと油の延焼で、かなりの火傷を負った二人は、階段を登って炎から離れようとした。

 だが、その足を何かが掴んだ。


 「うわっ!なんだ?」

 「新手か、こいつは冒険者風の死体の方だ!」

 床に広がる炎に紛れて、全身を燃え上がらせながら、匍匐前進してきた2体の焼死体が、二人の足をそれぞれガッチリと掴んで、部屋の中に引きずり込もうとしていた。


 「畜生、離せよ、あちっ、熱いって」

 「馬鹿な、1撃で切り伏せられないだと!こいつらスケルトン・ファイターではないな!」

 掴んでいる腕に切りつけたが、一太刀では切り離せなかった。しかも燃え盛る腕に攻撃すると、その炎で逆にダメージを受ける。さらにその場に留まっていると、油の延焼からもダメージを受けた。


 「こっからだと部屋の中の敵には射線が引けないわ! カレラは二人に耐性の付与を!」

 「もう準備した、マス・レジストファイアー(複数火炎耐性)!」

 カレラは、すでに詠唱を終えていた複数対象の付与呪文を、ついでに4人全員にかけた。


 これで炎のダメージは全て防げるはずであった・・・

 「助かったぜ、あとはこいつらを・・うっ!」

 「おい、ランチャーどうした・・うぐっ!」

 ところが前衛の二人は、喉を掻き毟りながらその場に倒れてしまった。


 「何?毒ガス?」

 「違うな!これは・・窒息の症状だ!」

 鉱山の坑道で、鉱夫達が落盤の次に恐れている現象であった。


 意識を失った二人を、焼死体がずりずりと部屋の奥へと運んでいこうとする。

 「・・虚空に住し理力の巨人よ、その手を我に貸し与えよ、フォース・ハンド(理力の手)!」

 コルベットは呪文を素早く詠唱すると、ロータスの上にフォース(理力)で造られた巨人の手を召喚した。

 それを使って無理矢理、ロータスの身体を階段の方へと引き寄せた。

 力比べでは分が悪いと、アルカナナイトの身体を手放した焼死体は、青銅の扉を閉めてしまった。

 「あっ、ランチャーが!」

 慌てて理力の手で扉を押すが、中から総出で支えているのか、ギシギシいうだけで開かなかった。


 「ノックの呪文は?」

 「覚えているのはランチャーだけだよ」

 「・・仕方ないわね、扉を分解するわ」

 コルベットが、第十二階位の呪文を詠唱し始めた・・


 「万物よ想い出せ、汝らが原初は塵であったことを・・ディスインテグレート(原子分解)!」

 緑色の光線が、コルベットの指先から迸ると、青銅の扉に衝突し、そして扉は塵となって消滅した。


 部屋の中には壊れなかった酒樽がバリケードのように積まれていて、床の炎は酸欠で消えていた。

 しかしそこにはランチャーの死体も、白骨死体も残っていなかった。

 「どういうこと?どこに消えたの?」

 「・・どうやら奥の扉から運び出したらしいな。引きずった跡が残っている・・」


 だが、扉の先はすぐに行き止まりになっていた。そして床にぽっかりと大きな縦穴が口を開けているだけであった・・・


 「やられたわね・・」

 「・・ここは危険だ、すぐに息苦しくなるぞ」

 二人はランチャーの回収をあきらめて、ロータスを抱えて階段を戻ることにした・・・




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