黒い戦士と赤い部屋
昨晩も接続障害で、投稿できませんでした。メインの執筆時間を狙い澄ましたような事故です。
これが今朝、投稿される予定だった話になります。遅くなりまして申し訳ございませんでした。
ダンジョンコアルームにて
『ころころ』
「お、やっと反応あった?さすがにもう帰ったかと思ってたけど」
昼間に侵入してきた冒険者パーティーは、キャッチャーに二人撃退されたところで、一旦、撤退していった。
後を蜜蜂隊で追わせたけれど、北側の林の中で、突然消えたという報告が上がってきた。コアに確認すると、二人分の撃退ポイントも加算されていたので、転移呪文で帰還した可能性も高かった。
ただ、少し気になったのは、転移するなら林の中まで気絶した二人を運ぶ必要が無いと思ったのだ。
最初は安全な場所での治療を優先して、その結果、撤退を決めたというだけかも知れなかったが、蜜蜂の、『空の扉へ入っていった』という説明が気になって、林一帯を土竜穴とコオロギの群体による警戒網で監視しておいた。
そうしたら、夜になって再び現れたというわけである。どうやらディメンジョン・シェルターを使って回復していたらしい。
ちなみに男性二人の撃退ポイントは、アルカナトリックスター500ポイント(想定レベル10)、アルカナナイト450ポイント(想定レベル9)だった。思ったよりもレベルが高かったので、家計簿的には助かったみたいだ。
『うまうま』
『あの二人は、キャッチャーに翻弄されて実力が発揮できなかったようだな、主殿』
コアの出した警報を聞いて、ロザリオが警戒態勢に移行しながら話かけてきた。
「たぶん、今度は地下墓地に行くよ」
『望むところだ、最近出番が少ないから、身体が鈍ってしょうがなかったのだ』
ガーディアンのボディーは鈍らないと思うけど・・
『主殿、それで方針はどうすれば良い?』
「ガンガン行って良いよ。もうダンジョンだってことはバレているだろうし、手加減できる相手でもなさそうだしね」
『了解した。逃走に移ったら追撃するのかな?』
「いや、逃げるならそのままで。捕獲できたらいつものパターンでよろしく」
『身包み剥いで、独房行きだな、了解した』
ロザリオとスケルトン部隊は、迎撃用の配置に展開していった。
現在のスケルトン部隊は、スケルトン・ウォーリアーが1体、バーニング・ボーンが3体、火炎耐性カスタムが2体、両手槍カスタムが4体、弓カスタムが4体、通常タイプが3体である。他に監視用に水路に潜んでいるのが数体いるが、そちらは戦闘には参加しないので、数には入れないことにする。
「消耗してるし、上位種に変わったのもいるから、部隊を補充しておこうかな・・」
『主殿、増強してくれるならウォーリアーで頼む。そろそろファイターだとランクが違い過ぎて戦いに参加できないのだ』
「了解、ウォーリアーを2体増やそう。コアよろしく」
『さもんないと』
いやいや、騎士じゃないし、それどこからかクレームきそうなヤバさだよね。
新たに呼び出したスケルトン・ウォーリアーは「ドクロ」と「ズガイ」と命名した。装備は奮発して「スカル」共々、剣、盾、鎧ともに黒鋼で統一した。
新品の装備に換装すると、アンデッドの恐ろしさよりも、戦士長の精悍さが目だって、なかなか立派に見える。本人達も気に入ってくれたようだ。
「「カタカタ」」
バーニング・ボーン達は、攻撃方法が爪と噛み付きだし、防御も回避主体なので、装備による底上げがし辛い。そこで特徴を生かした、専用の罠部屋を増築した。
地下墓地への階段は、邪神教団との戦いで、半分以上削られてしまい、今は、降りると左手すぐに癒しの泉へ繋がる通路がある。なのでその向い側に木製の扉を設置した。
その先は下り階段になっており、3マス下で今度は青銅の扉で塞いでおく。これには鍵をかけて、さも奥に重要な物が置いてある風を演出するのだ。
「コア、この地点に丈夫な木の扉、その先に下り階段3マス、突き当たりに青銅の鍵付きの扉を設置して」
『はいな』
「青銅の扉の奥は9マス部屋で、出口は奥に1つだけ石の扉を鍵付きで設置。その奥は1マスで行き止まりでいいかな」
『ほいな』
「部屋には木の樽に詰めた、蒸留酒を4つと油を8つ、変換して4隅に積んでおいて」
『まいど』
「最後に、石の扉に、開けたら属性範囲呪文(火炎)を設置して」
『まんなか?』
「あ、ターゲットは部屋の入り口、青銅の扉あたりを中心でよろしく」
『らじゃー』
「バーニングチームは急いで火刑部屋に集合!」
「「カタカタ」」
『主殿、丸太転がしは使わないのか?』
「下り階段が半分以下になってるから、威力が足りないんだよ」
『なるほど、ただのバリケードにしかならないか・・』
丸太を押し出す場所もないしね。
右で損害を与えたとして、左に行くか、正面にくるかだけど・・
『侵入者の目的がはっきりしないが、私なら左を探索するな』
「どうしてそう思う?」
『これで正面に下りてくる者は、最初から右には寄り道しないと思うからだ』
「左右は罠だと思って警戒する可能性は?」
『あり得なくはないが、右の下り階段より左の通路の方が脅威度が低い。まずは左の安全を確認してから、本命の正面に進むと思う』
確かに初手から右の扉を開けずに、左の開口部から調べる可能性もあるんだよね・・
左の泉の部屋は、今の時間だとポチが寝てるよね・・ポチなら勝っちゃいそうな気もするけど、ゲストに任せるのもどうなんだろう・・
「コア、癒しの泉に通じる通路をシークレットドアで隠して」
『ないない』
これで、ほぼ間違いなく正面に行くはずだ。
もしシークレットドアを見破られたら、そのときはポチに頼もう。
「じゃあ皆、頑張って。敵は少数だけど、全員がアルカナ系の呪文を使うと考えるように」
『『了解!』』
その頃、ダンジョンの外では、魔法兵団が突入の準備を終えていた。
「インビジブル・ストーカーは明日の日没まで、アタシを外敵から護りなさい」
「・・・・」
コルベットは、再度、見えざる守護者を召喚して、24時間のボディーガードに任命した。これで、彼女を害そうとする者は、見えざる守護者の反撃を受けることになる。
さらにコルベットは、透明な従者の上位呪文を唱え始めた。
「サモン・サーバント・ホード(従者の集団の召喚)!」
すると、彼女の周囲に、透明な何かが集団で召喚された。その数、12体。もし透明看破の呪文を掛けている者が見れば、それは、白いシーツを頭から被った、子供の集団に見えたであろう。無言で、足音もせずに歩き回るそれは、暗い場所で見れば、幽霊と見間違うような格好である。
「サーバント達は、別命があるまでアタシの後ろに付いてくるように!」
「OOOoO]
声にならない声が聞えたような気がした。
カレラはカルト呪文から、忠実なる番犬を唱えた。
「来たれ、フェイスフル・ハウンド(忠実なる番犬)よ!」
するとカレラにしか見えない透明な大型犬が2頭召喚され、ダンジョンの入り口を見張れる場所に、それぞれ移動した。
「この番犬は10m以内に敵が近づくと、吠え掛かって攻撃する。姿を隠そうが、幻覚で偽わろうが、この番犬の目を逃れることは出来ないのさ」
「後詰の代わりってことか。ついでに何頭か呼び出して、索敵させられないのか?」
「残念だけど、こいつらは番犬だからね。拠点を護ることにしか使えないよ」
「ちぇ、楽できると思ったのによ・・」
ランチャーが愚痴をこぼした。
「アンタから斥侯の役を取ったら、何も残らないでしょ!ぶつくさ言ってないで、仕事しなさいよね!」
「はいはい、仰せの通りに、ってね」
大半は透明なので、そうは見えないが、総勢、17名の兵団と化したパーティーは、ゆっくりと地下へ降りる階段を下り始めた。
それを2頭の番犬が見送っていた・・・
虚空から召喚した兵隊を操り、人数以上の戦力を展開する。
それが王都でも名高い冒険者パーティー、「虚無の魔法兵団」であった・・・




