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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第10章 ドワーフキャラバン編
329/478

3日以内に5人の友人に

  第二補給拠点にて


 指揮官を失って混乱したレッドバック・ウィドウの集団を壊滅して、第二補給拠点の安全は、一時的に確保された。

 しかし直に9台のドワーフの移動車両が、追跡してくる蜘蛛の小集団を引き連れて、ここに退避しに来るという。ベニジャは、疲労の濃い第二機動部隊のメンバーに休息の指示をだした。


 「ドワーフキャラバンが来るまでは1時間はかかるらしいぜ、ジャジャ。それまで交代で休憩をとって、収容戦に備えてくれ、ジャー」

 本当は全員で、ゆっくりとした休息を取りたいところだが、状況がそれを許さなかった。倒しきれなかった蜘蛛の残党が、再び襲撃してくる可能性も考慮して、警戒しながらキャラバンの到着を待った・・・


 しかし、予想した戦闘は起きなかった・・・


 キャラバンがここに到着したときには、追跡していた蜘蛛はいなかったのである。

 「ギャギャ(まさかワタリが全部、撃ち殺したのか?)」

 「そんなわけないっすよ。途中で急に蜘蛛が離れていっただけっす」


 どうやら、こちらでダークライダーの指揮官が討ち取られたタイミングに合わせて、キャラバンを追っていた蜘蛛も追跡を止めたらしい。

 「指揮系統が一緒だったみたいっすね。しばらくは安心っす」

 「正直助かったぜ、こっちはもうクタクタだからな、ジャジャー」


 第一機動部隊、全員と再合流できて、ベニジャは、ほっと一息ついていた。

 ドワーフキャラバンという護衛対象は増えたが、荒野のど真ん中で、孤立無援で拠点を防御し続けるより、気分的に楽になったからだ。

 補給物資さえ、移動車両に積み込んでしまえば、この拠点は放棄しても構わないわけで、あとは一目散にダンジョンへ向かうのみである。


 「どちらにしろ今晩はここでキャンプするっすよ。皆、疲れてるっす」

 ワタリの提案に、異議を唱える者は居なかった・・・メンバーの中には・・



 異論は、ドワーフの中から出てきた。

 「こんな間に合わせの陣地でキャンプするより、このまま安全な場所まで南下したらどうだね」

 なにやら高級そうな衣服を身につけたドワーフの貴族が、この場所で一晩過ごすことに難色を示していた。

 「そうは言っても、護衛の皆さんは戦闘でお疲れです。すぐに出立は無理ですよ」

 アエンが貴族を説得にかかっていた。


 「彼らは護衛が仕事だろう。疲れたのなんだのは職務怠慢なのではないかね?」

 「さよう、さよう、一人前の護衛ならば3日ぐらいの徹夜は、やって当然でしょう」

 文句を言う貴族がさらに増えた。


 彼らは所謂、気位だけ高くて技術を身につけていない、厄介者の集まりであった。しかも乗っている移動車両は、高級品で振動も少なく、専門の御者もついているので、殆ど疲労もしていない。

 キャラバンの割と安全な、中央付近で移動していたので、蜘蛛の脅威もさほど感じていなかったのだ。


 なんだかんだと文句を言う貴族達を、モリブデン団長が一喝した。

 「このキャラバンの指揮は、この俺に任されているはずだ。今晩はここでキャンプするのは決定事項だ」

 しかし、貴族達は納得しなかった。

 「その指揮権ですが、相応しい者に譲るべきではないですかな?」

 「さよう、この中で一番、位が高い方に譲るべきでしょうな」


 「俺の指揮に不満があるなら、班長会議で論議してもらおうか・・それまでは俺の指示に従ってもらう」

 班長会議とはそれぞれの車両を指揮する班長が集まって、キャラバンの方針を決定する会議である。貴族達は1つの車両に固まっているので、議決権も1票しかなかった。


 不利を悟った貴族達は、それでもボソボソと文句を言いながら引き下がっていった・・・


 「うちの馬鹿どもが迷惑かけてすまんな」

 モリブデンがベニジャ達に頭を下げた。

 「これからも厄介になるが、よろしく頼む」


 「ああ、任せとけって、ジャジャー」

 「打ち合わせがあるんで、アエンと団長は、こっちに来て欲しいっすよ」

 キャラバンが車両を並べて、即席の防御陣地を造っている間に、少し離れた場所で、主だった者がこの先の計画を相談することになった。



 「・・まず悪い話からっす・・」

 ワタリの様子から、どこかの拠点が襲われたことをメンバーは察した。


 「ここの北にあった、ドワーフの開拓村跡地が蜘蛛に襲撃されて、全滅したらしいっす・・」

 「全滅ですか?!あそこに残った皆が全滅・・」

 大きな声を出したアエンをモリブデンが嗜めた。

 「声が大きいぞ、他の連中に聞かれるとパニックになる・・」

 「あ、はい、すいません、ちょっと動揺して・・でも・・全滅・・」


 アエンの動揺が鎮まるのを待ってから、ワタリが話を続けた。

 「襲撃したのは、50体を越える集団だったらしく、護衛の水晶蜘蛛と3台の移動車両を撃破して、そのまま南西の方向へ移動していったそうっす・・」


 「こっちへ追ってこないのは不幸中の幸いか・・」

 すでにキャラバンが二つに分かれたときに、こうなることを予測していたのか、モリブデンは冷静に事実を受け止めていた。


 「そこから南西だと、隠れ里がヤバくねえか?ジャー」

 救援要請を受けたはいいが、こちらも手一杯で、満足に援軍も出せなかったベニジャが、ナーガ族の隠れ里を心配した。


 「ギャギャ(しかしまた戦力を分散するのは悪手だぞ)」

 この先、さらに蜘蛛の脅威が増すと思われるのに、護衛の戦力を割いて救援に回すのは難しかった。

 

 「北の蜘蛛集団も気にはなるっすけど、今は南の脅威の方が重要っす。このまま南下すれば、確実に敵の領域内を通過することになるっすね」

 黒衣の沼はもちろん避けるが、大氾濫によって、その影響範囲がどれだけ広がっているかがわからなかった。下手をすると湿地帯全域がレッドバック・ウィドウで埋め尽くされているかも知れなかった・・



 「マスターから連絡はないんですか?」


 アエンが不用意にワタリに質問した。その言葉を聞きとがめたモリブデンがアエンに詰問する。

 「おい、マスターて誰だ?なぜアエンが気安く呼んでいるんだ?おい」

 自分の失言に気がついたアエンが、口を塞ぎながら他のメンバーに助けを求めた。


 「マスターってのは大頭のことで、アタイ達の・・」

 状況を把握していないベニジャが、さらなる失言をする前に、ワタリが割って入った。


 「どうやら団長にはオイラ達の秘密を話す時が来たようっすね・・」

 「ど、どういうことだ?」

 「この話を聞いたら、もう後には戻れないっすよ・・覚悟は良いっすね・・」


 奇妙な迫力に押されながらも、モリブデンは頷いた。

 「聞かせてもらおうか、その秘密とやらを」





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