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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第10章 ドワーフキャラバン編
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やらねばならぬ時がある

  最北の湖の北岸にて


 「・・現状で確認できるだけで15体か・・ほぼ100mずつの間隔をとって展開中・・随分効率の良い分布の仕方だが、これがレッドバック・ウィドウの狩りの習性なのか、何かに指示されているのかが分からないな・・」

 召喚した鷹との同調を切断して、ハスキーは偵察を終了した。


 「まずはキャンプに戻って報告だな・・」



 少し離れたキャンプ場所まで戻ると、そこではソニアとビビアンが夕食の支度を始めていた。

 手持ち無沙汰なスタッチが、目敏くハスキーを見つけて声を掛けてきた。

 「よう相棒、何か動きがあったかい?」


 「いや、この前の大集団以外は、静かなものだな。特に南下してくる様子は無い・・」

 「そりゃ、良かった。50体以上とか馬鹿げた集団に、こっちに来られたら大迷惑だからな」


 ギルドの指名依頼で、レッドバック・ウィドウの大氾濫の監視を要請されたが、この最北の湖まで移動してきたときに、ハスキーの哨戒範囲に対象が引っ掛かった。

 慎重に偵察を重ねていたときに、それは目撃された。

 黒衣の沼の方面から、50体以上のレッドバックが集団になって西に向かって移動していったのだ。あの規模であるなら、小さい村など一飲みで滅ぼしてしまうに違いなかった。


 「西側には開拓村は無かったよな?」

 「ああ、かなり南西に下がらないとないな・・ただし、それは人族の村と限った場合だが・・」

 「なるほど、他の種族のクランや開拓村があってもおかしくないな」



 男性二人が真剣に話し合っている横で、女性二人は食事の仕度で揉めていた。

 「あ、ビビアン、塩は入れすぎたらダメさね・・」

 「だって、あれっぽっちじゃ、味が付かないでしょ?」

 「いやいや、このサイズの鍋なら、ほんの一摘まみで良いはずさ」

 「ふーーん、じゃあ一摘まみ」

 「いや、だからもう味は調えてある・・ああ、もう入れちまったさね・・」

 「あとはこの香草を千切って浮かべれば完成ね?」

 「そ、それは苦ヨモギの葉・・まさかそいつを入れる気さね・・」

 「ふんふんふん♪」

 周囲になんとも言えない香りが広がっていった・・・



 そして料理が出来あがった。

 「出来たわ!」

 ドヤ顔で立つビビアンの横では、携帯食を取り出しているソニアの姿があった。


 不穏な気配を感じとって、スタッチが尋ねた。

 「今日の晩飯は誰が作ったんだ?」

 待ってましたとばかりにビビアンが答えた。

 「もちろんアタシよ!飛び切り美味しく造ったんだから感謝しながら食べなさいよね!」


 男性二人は顔を見合わせてから、再び尋ねた。

 「ソニアも手伝ったんだよな?」

 「ビビアンは料理できたんだな・・」

 この質問はビビアンの背後で暗い表情をしていたソニアに向けられたものであった。


 そしてソニアは、どちらの質問にも首を振って否定した・・

 「まじかよ・・」

 息を呑む二人にビビアンがドヤ顔のまま、勧めてきた。

 「さあ、召し上がれ♪」


 野営のときの食事当番は持ち回りでやっていたが、ビビアンは、焚き火に火をつける役だけで、料理には関心を示さなかった。

 それが最近は、ハスキーやソニアが造っているのを横から熱心に見つめることが増えていたのだが、まさか練習もせずに、いきなり本番に挑むとは思ってもいなかったのだ。


 椀によそわれた鍋の中身は、根菜と鶏肉をスープで煮込んだもののようだ。

 根菜の切り方が乱雑だったり、鶏肉が煮えすぎて堅そうだったりする以外は、食べれなくはなさそうだ・・

 「いや、まて、この匂いは何だ?」

 スタッチが、椀から漂う違和感に気が付いた。


 「え?香草だけど、まさか苦手だった?」

 ビビアンが事も無げに答える。その裏には「大人なんだから好き嫌いは言わないわよね」という圧力が見て取れた・・

 「いやいや、香草って・・」

 後ろを見るとソニアはまたも首を振っていた。


 しかしハスキーは、平然と椀を受け取ると、倒木に腰掛けて食べ始めた。

 「相棒、お前・・・」

 スタッチは、その度胸の良さに感嘆しながらも、じっとハスキーの様子を覗った。


 「・・・・・」

 料理が熱いのか、それとも他の理由があるのか、ゆっくりと咀嚼するハスキーに、他の3人の視線が集中していた・・

 やがて1杯を食べきると、無言でお替りを要求してきた。


 「うんうん、沢山あるからね」

 ビビアンは嬉しそうに鍋からお替りを注いでいる。

 それをソニアは驚愕の面持ちで見ていた。


 「そうだよな、材料はいつものなんだし、俺としたことが見た目に惑わされたぜ」

 スタッチも自分に渡された椀に口をつけた・・・


 「ふぐっっっ!!」

 最初に舌を刺すほどのしょっぱさが押し寄せ、後から強烈な苦味が襲ってきた。具材の味はどこかに消し飛んでいて、青臭さだけが唯一感じ取れる。

 思わず吐き出そうとしたスタッチだったが、その視線がハスキーのそれと重なった・・


 『・・こいつ、こんな代物をお替りまで・・・なんてすげえ奴なんだ・・』

 スタッチは、全身全霊を込めて、口の中のそれを飲み込んだ・・


 

 ソニアは二人の奮闘を眺めながら、一人で干し肉を齧っていた。

 「漢だねえ・・」







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