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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第10章 ドワーフキャラバン編
327/478

生と死の狭間で

  氷炎の魔女ツインコアルームにて


 「こちらヒルダ、氷竜騎兵隊、応答せよ」

 『・・こちら氷竜騎兵隊、ただいま目的地のドワーフ開拓村跡地まで5kmの位置に来ております・・』

 「了解した、状況はどうか?」

 『・・我が部隊には問題ありません・・しかし索敵範囲内に蜘蛛の反応が点在しています・・』

 「遭遇したのか?」

 『・・いえ、敵も斥侯らしく、こちらには接近してきません・・』

 「妙に慎重だな・・餌が無くて溢れ出した蜘蛛なら、こちらの戦力に関係なく襲ってきそうなものだが」

 『・・集団を統率する上位個体が存在するのかも知れません・・』


 その予想を聞いて、双子姉妹の姉は舌打ちをした。

 こんな山脈の麓まで、指揮官を配置して行軍しているとなると、自分達の本拠地にも襲撃があるかもしれなかった。

 「氷竜騎兵隊は、周囲の警戒を・・」

 遠話で指示を出そうとしたとき、ツインコアのテスラが、緊急事態の発生を告げてきた。


 『マスター、護衛に派遣していたクリスタル・スパイダーのバイタル・サインが次々に消滅しています』

 「どういうことだ?」

 『開拓村跡地で戦闘が発生している模様です。しかも当方は劣勢のようです』


 護衛に派遣した12体のクリスタル・スパイダーは、戦力で言えば、アイス・オークの3個戦闘小隊にも相当するはずだ。防御陣地に居るそれが押されているとなると、敵は3倍以上の戦力で攻めてきていることになる。


 「指示を取り消す・・氷竜騎兵隊は、全速で目的地まで移動せよ。蜘蛛が邪魔するようなら蹴散らせ」

 『了解しました、30分下さい』

 「20分だ・・」

 『・・了解です・・』


 遠話を切ってからテスラに演算させてみる。

 「間に合いそうか?」

 『すでに半数以上のクリスタル・スパイダーが撃破されました・・97%の確率で跡地に残ったドワーフの移民団は全滅するものと思われます・・』

 「・・残りの3%は?」

 『敵が追い詰めた獲物をなぶり始めて、止めを刺さないうちに増援が間に合う可能性が1%、ドワーフの移民団の中に、古代帝国の兵器を隠し持っている人物が紛れ込んでいる可能性が1%、残りは天変地異の類が発生して、ドワーフだけ助かる可能性が1%です』

 

 「・・無理そうだな・・」

 『いかがしますか、マスター。氷竜騎兵隊を呼び戻しましょうか?』

 「それには及ばない・・結果を見届けるように伝えてくれ・・」

 『了解しました、マスター』

 「それとダンジョン内の警戒レベルを上げるように。大氾濫とやらは、ここまで影響する可能性がありそうだ・・」

 『了解しました、マスター』


 「・・黒衣の沼の黒後家蜘蛛の魔女か・・どうやら思ったより大物らしいな・・」

 『・・・・』

 その呟きにはツインコアは反応を返さなかった・・・




  湿地帯と荒地の境界にある第二補給拠点にて


 最初の襲撃を凌いだベニジャ達であったが、敵のダークライダーらしき指揮官がレッドバック・ウィドウを戦術的に投入するようになってから、ずっと消耗戦を繰り広げていた・・・

 周囲から警戒音によって集まってくる蜘蛛が、一定数に達すると、範囲攻撃に巻き込まれない間隔に散開しながら、襲ってくるようになったのだ。


 「敵、来ます!およそ16体、2重の円陣を狭めるように接近中!」

 「しつこい奴らだぜ、ジャー。毒牙に注意しながら各個撃破するぜ、ジャジャー」

 ベニジャの指示もいつもの勢いが無かった・・


 数時間置きに繰り返される襲撃に対して、常に警戒しておく必要があり、長時間の緊張を強いられて、疲労が蓄積していたのである。

 しかも魔力の回復が追いつかないので、呪文やブレスの使用に慎重にならざるを得なかった。すでに事前に防御呪文を掛けて置くこともままならず、毒を受けたら解毒呪文、傷を受けたら治癒呪文というように、対処するしか出来なかった。


 「南西の裂け目に取り付かれた、排除を頼む!」

 「こっちも手一杯だ、そちらで何とかしてくれ!」

 「シャーシャー」

 防衛隊の手薄な場所から接近した蜘蛛は、防御陣地を削り取って、侵入できる裂け目を徐々に拡大していた。このままだと、いつか突破される箇所がでてきそうであった。


 「このままだとジリ貧だぜ、ジャー・・」

 手の足りない箇所に、自ら三つ又矛を振るって防衛戦に参加しながら、ベニジャは焦りを感じていた。

 「せめて指示してる奴さえいなければ、ジャジャ・・」


 指揮をしているダークライダーを倒せれば、本能で襲ってくる蜘蛛は、それほど怖くない。しかしそれをわかっているかのように、指揮官は、こちらの攻撃範囲内には、決して近づこうとはしないのだ・・


 

 その時、防御陣地内で誰かが叫んだ。

 「蜘蛛だーーー!」

 ベニジャが振り返ると、そこにはいつの間にか侵入したレッドバック・ウィドウが、エルフのソーサラーに牙を突き立てていた。

 

 「どこから入りやがった!ジャー」

 突然現れた敵に、メンバーが動揺する。

 「クロコ!味方は全員、耐性持ちだ。構わないからぶちかませ!ジャジャー」

 「シャー!!」

 ベニジャの一喝で、アイス・ドレイクのクロコが陣地内にコールド・ブレスを吹き出した。


 すると、エルフ・ソーサラーに噛み付いた敵の他にも、さらに2体が侵入していて、ブレスを受けてその姿を現したのだった。

 「インビジビリティの呪文です!奴ら透明化してたんです!」


 エルフのクレリックが敵の戦術を見抜いて叫び声をあげた。どうやら16体は囮で、その中に透明化の呪文を付与した蜘蛛を紛れ込ませていたようだ。

 「グレコ、止めだぜ!ジャー」

 「シャー!!」


 同じ範囲に2発目のコールドブレスが吹き荒れ、透明化して侵入を果した蜘蛛は全滅した。

 クレリックが、すぐにソーサラーに近寄ると、解毒と治癒を開始する・・


 「・・思ったより傷が深いです・・今の魔力だと、傷を治しきれないかも知れません・・」

 「魔力は解毒にとっておいて、傷はヒーリング・ポーションで治すんだぜ、ジャー」

 治癒アイテムも、そろそろ底を尽きそうだった。日持ちのしない治癒リンゴは、とっくに食べ尽くしていた・・


 「コールドブレスも魔力が回復しないと無理か・・本格的にやばくなってきやがったぜ、ジャジャ・・」 今回、襲撃してきた蜘蛛は、潜入班が撃退されると、速やかに撤退していった。

 まるで、こちらの余力を推し量っているようにも見える・・


 「せめて、次の襲撃までにブレスの魔力が回復してくれれば・・ジャジャ」

 

 しかし、そんなベニジャの想いを見透かしたように、敵が動いた・・・



 「敵、再び来ます!数は・・30を越えています!」


 どうやら魔力が枯渇したとみて、総攻撃を仕掛けてきたらしい。

 「しかも指揮官は来やがらねえときたぜ、ジャー・・」

 配下の蜘蛛だけけし掛けて、自分は後方の安全地帯で高みの見物を決め込むようだ。

 突攻をかけようにも、直線上には障害となるべく蜘蛛の小部隊が配置されていた。


 「いけ好かない野郎だぜ、ジャジャー」

 ベニジャにしてみれば、臆病な戦い方だったが、効果的なのは疑いようもなかった。

 包囲を狭めてくる蜘蛛の大群を突破しなければ、指揮官を討ち取ることも出来ない・・・



 絶対絶命かと思われたその時、勝ち誇るダークライダーの胸から、突然、ランスの穂先が付き出した。


 「ゲハッツ・・・ナンダ・・ナニガ起キタ・・」

 自らに何が起きたかわからないダークライダーは、背中から胸へと突き抜けたランスを、握り締めながら、後ろを振り返った。


 そこには、アップルリーダーを先頭に、三角フォーメーションで突進してくる、ストームランサー部隊の姿があった。


 「やっと来やがったぜ、待たせ過ぎなんぜ、ジャジャジャー」

 

 「ギャギャギャ(すまない、遅くなった)」


 離れていてお互いの声は届かないはずなのに、ベニジャとアップルは、まるで相手がすぐそばにいるかのように、話し掛けていた・・


 投擲したランスの代わりに、予備を構え直すと、アップルが吼えた。

 「ギャギャギャ!(総員、チャージせよ!)」

 「「ギャギャー(ウラーー!)」」



 「伏兵ダト・・馬鹿ナ・・ドコカラ来タノダ・・」

 混乱するダークライダーが、盾とするべく蜘蛛を呼び戻すが、それより先に、ストームランサーの穂先が殺到した。


 ズドドドドド  地響きとともに3騎が通り過ぎたあとには、全身を4本のランスで串刺しにされたダークライダーの死骸が、墓標のように立っていた・・・


 チキチチチキチチ


 統率者を失ったレッドバック・ウィドウの集団は、混乱しながら無秩序に行動し始めた。

 「逃がすな、できるだけ数を減らすんだぜ、ジャー」

 「ギャギャ(掃討戦に移行する)」



 こうして第二補給拠点は守りきられた・・・





 

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