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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第10章 ドワーフキャラバン編
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キャラバンの用心棒

 狼の遠吠えが聞えてきた・・・


 「狼チームの警戒網に、何か引っ掛かったっすね・・」

 揺れる移動車両の屋根の上で、ワタリが呟いた。

 「どうする?一旦、停止するか?」

 下から団長のモリブデンが声を掛けてきた。


 「止まるより、移動してた方が、遭遇しづらいはずっす。停止の吼え声じゃないっす」

 「あいよ、全車、巡航速度を維持しろ、遅れるんじゃねえぞ!」

 「「誰にもの言ってるんじゃ!」」

 後続の車両から老ドワーフ達の元気な声が返ってきた。


 ドワーフ・キャラバンは、開拓村跡地を発ってから、既に30kmほどを走破していた。

 目標の第二補給拠点まで、残り20kmほどである。あと3時間ぐらいで見えてくると思っていると、すぐそばで再び狼の吼え声が聞えた。


 「近いっすね、周囲の監視を強化した方が良さそうっす・・」

 ワタリが指示を出して、各車両の側面と背面の覗き窓に、手隙のドワーフを張り付かせた。


 すると直に、荒地の先々に黒い体に赤い文様をつけた巨大な蜘蛛の目撃情報が集まってくる。

 「あれは斥侯っす。手を出すと仲間を呼ばれるから、無視するっす!」

 「しかし、こう広範囲に分布されると、避けきれないぞ」

 「それでも出来るだけ、刺激しないで距離を稼ぐっすよ!」


 兎に角、第二補給拠点のメンバーとの合流を目指したが、幸運はここまでだった・・・


 タスカー部隊が、地ならしした道に、1体のレッドバック・ウィドウが紛れ込んできたのだ。

 「まずい、避けられない!」

 ここで急ブレーキを掛ければ、後続の車両が玉付き事故を起こしかねなかった。

 

 ドンッ という衝撃音とともに巨大なアルマジロが、同じく巨大な蜘蛛を弾き飛ばした。


 キチキチキチキチ


 豪快にひき逃げされたレッドバックウィドウが、空中で仲間を呼ぶ警戒音をかき鳴らす・・・

 「すまん、やっちまった・・」

 「事故はしょうがないっす。それより、直に群れてくるっすよ」

 「全車、全速前進だ!」


 蜘蛛を振り切る為に、速度をあげた・・・

 しかし、最後の車両が抜け切る前に、撥ねられたレッドバック・ウィドウが、衝撃から復帰して、キャラバンの追跡を始めた。


 キチキチキチキチ


 その警戒音に呼ばれて、周囲に散開していたレッドバックが、どんどん集まってきた。

 「なんとかしねえと、まずいぞ!」

 下から叫ぶモリブデンの声を聞きながら、ワタリは集中力を研ぎ澄ましていた・・


 トスッ  突然、キャラバンを追跡するレッドバックの頭に、ボルトが突き立った。

 「ギィーーー」

 何が起きたか分からないレッドバックは、痛みに耐えかねて速度を落とした。


 トスッ 今度は8つある眼の1つに突き刺さった。

 「ギギイーーー」

 ドスッ 3本目はクリティカルになり、レッドバックの脳髄を貫いて、絶命させた・・・


 遠ざかる蜘蛛の死体を見ながら、モリブデンが呟いた。

 「揺れる荷車の屋根から100m先の走る目標に当てるとは・・」

 

 「これでもオイラは下手な方っすよ」

 団長はワタリの言葉を謙遜ととったが、ワタリにしてみれば歴然とした事実なのであった。アズサなら最初のショットでクリティカルを出していただろう・・

 「けど、1体やっても焼け石に水っすね」


 すでに警戒音で呼ばれた後続が、キャラバンを追跡し始めていた。しかも走りながら警戒音を出し続けているので、どんどん集団が増えていく・・

 「なに、追いつかれないうちは、鴨撃ちと一緒だろ。どんどんやってくれ」

 ワタリの射撃の腕を信頼した団長は、出来るだけ数を減らして欲しいと願った。


 「撃つのは良いっすけど、ボルトの残りが心もとないっす」

 持参したボルトは30本、予備は第二補給拠点に置いて来たのである。

 「おいおい、こっちはドワーフ・キャラバンだぜ、任せておけ」

 そう団長が請け負うと、後続の車両に大声で話し掛けた・・


 「アイアン爺さん、黒鋼のクロスボウ・ボルトだ。至急頼むぜ!」

 「任せろ、3分で仕上げてやるぞい!」

 「というわけだ、弾切れなんぞ気にせずに撃ちまくれ」

 「流石っすね・・」

 ワタリはすぐさま、追跡してくる蜘蛛の排除に取り掛かった。


 しかしすぐに追って来る蜘蛛の数が増えすぎて、ワタリ一人ではどうしようもなくなってきた。しかも警戒音に呼ばれて、キャラバンの進行方向から接近してくる個体も出始めた・・・

 屋根伝いに2両目まで飛び移って、アイアン爺さんからボルトの補給を受けながら、ワタリは周囲を見渡した。


 「まずいっすね、前方から来るのは確実に排除しないと、アルマジロが噛まれたら最悪っす。でもオイラだけだと後方が手薄になるっす・・」

 だが、ワタリはあの男の存在を忘れていた・・


 突然、最後尾の車両の後部天板ハッチが開くと、中からツンドラエルフの親衛隊小隊長が、上半身を乗り出して、後方の蜘蛛に向かって弓を構えた。


 「モフモフ隊、狙え!」

 まるでいつもの部下達が、この場にいるかのような号令が響き渡る・・

 「撃て!!」

 気合とともに小隊長の弓から矢が放たれ、一番手前の蜘蛛の頭に突き刺さった。

 さらに車両の後部から、ドワーフ製の鋼のクロスボウが、4丁、放たれた。


 ハリネズミのように、体に矢やボルトを生やした蜘蛛は、それでも突進しようとしてくるが、2度目の斉射を浴びて、ずるずると後退していった。

 「ワタリ殿、後方は我が隊が担当しますので、ご安心を・・」


 「それは助かるっすけど、いつの間に隊員を揃えたっすか?」

 人数合わせでドワーフにクロスボウを持たせたのではなく、あきらかに小隊長の部隊指揮の影響下にあると分かる見事な一斉射だった。


 「雪原ウサギの魅力について3時間ほど語り合ったら、モフモフ親衛隊に入隊を希望してきたのです。現在は体験入隊として扱っております・・」

 動物好きの8人家族のうち、5名が意気投合して入隊してくれたという。


 「さすが、モフモフ親衛隊、ぱっねえっす・・」


 どこにでも同志を見つけて拡大していく、恐ろしいカルトであった・・・







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