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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第10章 ドワーフキャラバン編
322/478

夏といえば・・・

 作中に嫌悪感を覚える可能性のある描写が存在します。

 スプラッタの苦手な方は、読み飛ばしてください。

  オークの丘の北側斜面にて


 ランチャーは、慎重に構造物の内部を覗っていた。

 小高い丘をそっくり掘り抜いたような不可思議な農場は、北と西に出入り口があるが、入ろうと思えば斜面を登ってどこからでも侵入できそうだった。

 「天井がないのは、日光を取り入れる為なのかねえ・・・」

 まるでダンジョンの天井だけ引き剥がしたような風景に、違和感しか感じなかった。


 「どうだ?何かわかったか?」

 後方からロータスが声をかけてきたが、返せる言葉は1つだけだ。

 「うんにゃ、何もわからねえ」


 一部分だけ通路が丘の中に潜っている場所があるので、そこが本命だと思うが、オークや他の何かが警備をしている気配はない。

 ただ、区画整理された畑のそれぞれに、奇妙な案山子が立っているだけである。


 両方の入り口には麦畑があり、麦藁帽子を被った案山子が、カラスの止まり木と化していた。

 「案山子の意味がねえな・・」

 その奥に並んだ、少し広い果樹園や、見たことのない蔓植物の畑には、野菜を彫りぬいた頭部をもつ、奇妙な案山子が立っていた。

 「ありゃ、案山子というより祭りのお化け人形だよな・・」


 深緑色の丸い野菜に、目鼻口を彫りぬいて、ボロ布の服を着せた案山子の頭に据えてあるのだ。夜中に畑で出会ったら、確かに猪も逃げ出す妖しさである。

 「なんかあんな姿をした邪霊の童話があった気もするぜ」

 きっとその話の中で、動物を追い払う逸話があって、案山子の題材に選ばれたのだろう。

 だとするとこの畑を作ったのは人族なのか?



 悩むランチャーの視界に、ある物が映った。

 北側の麦畑の入り口に、例の深緑色の野菜が転がっていたのである。

 「ブービー・トラップというわけでもなさそうだが・・」

 畑の外から罠のないことを確認したランチャーは、何気なく麦畑に踏み込むと、その野菜を拾い上げた。


 「見た目より、ずっしりしてやがる・・」

 一抱えもありそうな丸い深緑色の野菜は、反対側に目鼻が彫り抜かれていて、中身が見えるようになっていた。

 「中は黄色いんだな・・しかし刳り抜いてあるのにこの重量って、どんだけ重いんだよ・・」


 野菜の内部は刳り抜かれていて、中で蝋燭が灯せるように加工されていた。夜はこれで明かりを灯して、野生動物を脅かすのであろう。

 ランチャーは夜の畑で、目鼻から光を放つお化け案山子の様子を想像して、一人頷いていた・・・


 そこに後ろから声が掛かった。

 『どうせなら、奥の麦わら帽子も調べてみろよ』

 ロータスの声に、大して疑問も持たずに答えた。

 「ああ、そこで待っていてくれ、すぐ調べてくるぜ・・」


 通路を吹き抜ける風が、ぎっしり実った麦の穂を揺らす中を、ランチャーは奥へと進んでいった・・・




 その様子を、麦畑の外から眺めていた3人は、野菜を拾い上げて、しげしげと観察していたランチャーが、勝手・・に畑の奥に向かっていくので、注意した。

 「おい、ランチャー、単独行動は許可されていないぞ。戻ってこい」

 ロータスが声を掛けるが、風に揺らぐ麦のざわめきで、聞えていないようだ。仕方なく後から追いかけて、肩をつかんで引き戻そうとした。


 ところが直前で、足元の根にブーツの先が嵌って立ち止まることになった。その隙にランチャーは麦畑の奥へと姿を消してしまう。

 「おい、ランチャー、戻って来いよ!」

 叫ぶロータスの耳に、ランチャーの声が聞える。


 『大丈夫だって・・それより緑の野菜を拾って、こっちに持ってきてくれ。どうやらこっちの案山子に挿げ替えることで、隠し扉が開くみたいだぜ・・』

 「なんだ、その凝ったギミックは・・まるでダンジョンみたいだな」

 その時、後方からコルベットの声が聞えた。


 『単独行動は危険だって、あれほど言い聞かせたのに・・いいわ、合流して二人で偵察してきなさい』

 それを聞いたロータスは、少し違和感を感じながらも、足元の不気味な野菜を拾いあげて、ランチャーの後を追った・・・

 「・・コルベットにしては命令違反に対して寛容だったな・・」

 そう思い返しながら・・・



 残された二人は、さすがに異常に気が付いた。

 「何よ、あいつら、わたしの指示も聞かないで勝手な行動して。帰ったら飯抜きよ!」

 「コルベット、何か変だ。奴らの行動にいつもの遊びがない。普通なら無駄口ぐらい叩いてから動き出すはずだ・・」

 「ちょっと、何かに操られているってこと?」

 「可能性が高いな」

 「これだから馬鹿のお守りは疲れるのよね」


 そう言い放つと、コルベットは少し悩んでから呪文を唱え始めた。

 「永遠の虚空に在りし、見えざる守護者よ、我が声が届くなら、この地に来たりて、我が願いを叶えよ、インビジブル・ストーカー!(見えざる守護者)」

 すると彼女の目の前に大きな召喚魔法陣が出現し、何かがその中央に呼び出された気配がした。しかし、そこには何も居ないように見える・・

 コルベットは構わずに、魔法陣の中心に向かって命令した。


 「パーティーメンバーの二人を、ここに引きずりだして」

 すると、その言葉に何かが反応して、動き出した気配がすると、魔法陣は消滅していった。

 「後は、ほっとけば良いわ」

 コルベットの言葉に、カレアは頷いた。

 12階位の高レベル呪文である「見えざる守護者」は、虚空世界より不可視の存在をしもべとして召喚し使役する、強力な呪文だ。基本的に召喚時に命令したことだけを遂行するが、それを果すか、自らが消滅させられるまで、24時間行動し続ける。ただし、同時に複数を呼び出すことは出来ない。


 「見えざる守護者」なら精神攻撃も受けにくいだろうし、何より視認されないのが強みだ。腕力も強く、片腕で大人一人を抱えることができた。

 序盤で手の内を明かす危惧はあったが、今、メンバーを二人も失うわけにはいかなかった・・


 最強の一手を送り出した二人は、すでに、戻ってきた男達に対して、どんな説教をするかを考え始めていた。

 彼らが嵌った悪夢が、どれほど深く恐ろしいものかを知らなかったがゆえに・・・




 奇妙に歩き辛い麦畑の中を、懸命に切り開きながら、ランチャーは進んでいた。

 「こいつは思ったより難儀だぜ。ロータスのやつを連れてくれば良かったな・・」

 外から見たときは狭い麦畑に見えたが、こうやって背丈より若干高い麦の穂の中に嵌り込むと、終わりが見えない為か、単純労働に疲れた為か、やけに広く感じていた。


 密集した麦の穂の束を掻き分ける間に、頬や腕の内側など、革鎧の覆っていない場所にいくつもの切り傷が出来ていた。どれも浅い傷だが、麦の葉で切った傷なので、ジクジクと痛む。さらに薄っすらと血が滲んでいる箇所もあった。

 「ちくしょう、いっそ呪文で薙ぎ払ってやるか・・」

 ランチャーが不穏な思考を始めたとき、それは唐突に姿を現した。


 「やっと見つけたぜ・・」

 目的の麦わら帽子の案山子を見つけて、ランチャーはほっとした。

 肩に乗っていたカラス達は、彼の接近を察知したのか、既に飛び去ったあとのようである。彼は無意識に抱えていた緑黄色野菜を地面にそっと下ろすと、目の前の案山子の調査を始めた。


 「特にどうってことない案山子だな・・あちこち焦げているのは焼畑でもしたせいか?・・」

 普通の案山子に比べて、支柱がしっかりしているのと、服は焼け焦げてボロボロなのに、右手を模した草刈鎌が、妙に新品なのが気にはなった。しかしそれ以上の情報は、この案山子からは得られなかった。


 『どうだい、何かわかったかい?』

 

 ロータスの声が、足元から聞えた・・

 ギョッとして振り向くと、そこには昆虫の様に6本足を生やした緑黄色野菜が、虚ろな目を向けながら、話し掛けていた。


 「こ、この化け物が!」

 ランチャーは咄嗟に腰の短剣を抜いて、それ目掛けて投げつけたが、機敏な動きにで回避されてしまった。さらに化け物から反撃が来た。

 麦の穂先にカメムシのように止まった化け物は、その彫り抜かれた口から、高速で種を吐き出してきた。


 顔面を狙ってきたそれを、ランチャーは咄嗟に両腕をクロスして防御した。

 速度は速くても所詮は植物の種である。革鎧に弾かれて、ほとんどダメージを受けることはなかった。

 しかし幾つかは、鎧の隙間や、腕でカバーしきれなかった箇所に突き刺さった・・・


 ケケケケケ


 おぞましい鳴き声を放つそれに、ランチャーは必中の呪文で応戦する。

 「魔力の矢よ、敵を穿て、マジック・・ぐあっ」

 しかし詠唱は、両腕の激痛で途絶えてしまった・・


 「ちくしょう、どうなってやがる・・」

 激痛を発する両腕の内側を見ると、そこには、突き刺さった種から延びた根が、腕の中に潜り込んで、今も成長しているのが見えた。

 「寄生タイプかよ!!」


 ランチャーは予備の短剣を腰のベルトから引き抜くと、傷が開くのも構わず突き立てた。

 「ぐおおおお」

 無理矢理、穿り出した種だったが、そこから伸びた細い根は、しっかりと血管に巻きついて離れようとしなかった。

 「どちくしょおお」

 ランチャーは雄叫びを上げながら、激痛に耐えて種を引きちぎった。


 しかしそれは大量の出血を伴うことになる・・

 さらに利き腕に潜り込んだ種を摘出するのには、何度も何度も切りつけなければならなかった。


 両腕から全ての種を抉り出したときには、出血多量で、意識が朦朧とし始めていた。

 「・・カレラに・・治療を・・」

 高レベルの神官戦士であるカレラなら、これぐらいの重傷なら治せる・・既に肘から先が動かない両腕を、無理矢理振り回しながら、ランチャーは仲間の元に戻ろうと足掻いた・・


 しかし、それは顔面に走る激痛により、阻まれてしまう・・


 「ぐがががが」

 頬に食い込んだ種が、顔面に根を張っているのだ。

 あまりの激痛に、爪で掻き毟ろうとするが、すでに両腕はぴくりとも動かなかった。

 絶望したランチャーは、地面に顔を打ち付けるが、それで剥がれる様な寄生種ではなかった・・


 やがて地面に顔を埋めたまま、ランチャーは動かなくなった。

 その表情は恐怖に強張ってはいたが、何故か口を開いて笑っているようにも見えた。


 まるで、カボチャに刻まれたジャック・オ・ランタンの顔の様に・・・




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