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コアルームにて
「そしたらレッドバック・ウィドウの襲撃は一旦、止まったんだね?」
『半分やられて態勢を整える為に退いたってとこかな・・あれはまた襲ってくる気たぜ、ジャー』
第二補給拠点への襲撃は、なんとか撃退できたらしい。ただし、蜘蛛の集団が、自然発生した暴走ではなく、何かに操られているようだという報告は、問題があった・・・
「それで蜘蛛の集団の指揮をとっていたのはアラネア(蜘蛛人族)だった?」
『いや、上半身がダークエルフだから、違うんじゃないかな?ジャジャ』
「だとするとダークライダー(闇蜘蛛人族)なのか・・やっかいだね・・」
アラネアは、上半身が人族で下半身が蜘蛛の亜人だ。変身能力も持っていて、人族に姿を変えることもできる。そうなると見分けるのは困難で、こっそり村人に紛れて生活してたりもするみたいだ。
ダークライダーは、上半身がダークエルフの魔人に分類され、変身能力があるかどうかは個体によるらしいし、変身するならダークエルフになるはずだ。確か邪神の1柱である蜘蛛の女神を信仰している・・・
「・・という認識で良いのかな?ロザリオ」
「概ね間違ってはいないぞ。付け加えるならダークエルフ自体は、ダークライダーを畏怖して崇めている者達と、嫌悪して戦っている者達に分かれるらしい。蜘蛛の女神信仰もクランによって色々だな」
僕の知識に誤りがないか、ロザリオに確認してみたけど、大体合っているようだ。
『それで、どっちの方がヤバイ相手なんだよ?ジャー』
「どちらもクラスでLVがあがるから強さ的には一概には言えないけど、危険度でいえばダークライダーがぶっちぎりかな・・特に上半身が女性型だと、かなりの確率で高LVの術者だと思う・・」
『嬉しくない知らせだぜ、ジャー』
遠目でしか見えなかったが、あの指揮官は女性型だったという。
現状は、視認できない距離まで下がっているが、蜘蛛軍団の再編成と補充が済み次第、再び襲撃してくるに違いなかった。
そのときに広範囲攻撃呪文で支援されたら、防衛しきれない可能性が高かった。
「次の襲撃があったら、隙をみて指揮官を狙撃かな」
『それしか手はなさそうなんだぜ、ジャジャ』
指揮官が居なくなれば、蜘蛛の集団も散らばるかもしれないしね。
「第一機動部隊が合流するにしても、10時間はかかるだろうし、それまでは防御に徹して凌いで」
『了解だぜ、だけど隠れ里もピンチなんだし、早いとこ頼むんだぜ、ジャジャー』
そういってベニジャとの遠話は切れた。
隠れ里の様子は、遠話できる相手がいないから今すぐには確認できない。ここから直接に届くような通信呪文は無かったとはずだけど・・・
そう考えていると、コアの警報が鳴り響いた。
『はにはに!』
「蜜蜂警戒網に何か掛かった?」
この忙しいときに、狙ったように来なくてもいいと思うんだけど・・
『かもねぎもどき?』
ん?鴨ネギってビビアン達のコードネームじゃなかったっけ? もどきということは偽物なのかな?
『ほむほむ』
蜜蜂の群体が続々と帰還すると、コアに侵入者の情報を集積してくる・・
集まった情報から、冒険者4人組だということが判明した。
「小さい女性と大きな女性、それに男性二人か・・確かにビビアンもどきだね」
現在、ダンジョンの領域に侵入しつつあるパーティーが、その呟きを聞いたら、経験も実力も自分達が上なのだから、偽者は向こうだと言うに違いなかった。
だが、ダンジョン側から見れば、引越しの最中を狙ってきた空き巣である。
「戦力が出払っているから、手加減できないかも知れないね」
『なむなむ~』
火事場泥棒には、お仕置きが必要だよね・・・
『むーんぷりずむ・・』
「止めなさい」
『ちぇー』
その頃の「虚無の魔法兵団」
「あれがオークの丘か・・聞いたのと随分様子が違うんだが・・」
少し離れた丘の上から、地下墓地があるという目的地を偵察している男が呟いた。
彼の名はランチャー・ストラトス、魔法兵団の偵察・斥侯担当である。クラスはアルカナ・トリックスターというローグの中でも魔術師寄りの派生クラスであった。
「確かにどう見ても整地してあるな、あれは。屋内農園みたいにも見えるし、アイスオークごときが造る居住地じゃないだろ」
ランチャーの言葉に同意したのは、魔法兵団の切り込み隊長であるロータス・ユーロであった。彼はアルカナ・ナイトという前衛職では珍しい魔術師寄りの騎士である。
「どうやら依頼主は、うちらに隠していることがあるみたいだね。どうする?リーダー」
男性二人に比べても頭半分抜け出した巨体を、漆黒の鎧で包んでいるのは、魔術の神を信奉する神官戦士のカレラ・ポルシエだ。彼女の掲げる盾には、「魔術」を意味するルーン文字が大きく刻み込まれている。
「ここまで来て引き返すとか、ありえないでしょ。何が住んでいようと蹴散らして、依頼主からは追加料金をふんだくってやるわ」
小さい身体に闘志を漲らせて、喚きたてているのは、魔法兵団のリーダーであり、12階位呪文の使い手であるコルベット・スティンガーその人である・・・
見た目からは想像つかないけれども・・
「よけいなお世話よ!」
コルベットが誰もいない虚空に向かって悪態をついていたが、そんなことは魔法兵団にとって日常茶飯事なので、誰も気にしなかった。
「それで、侵入経路が有りすぎて迷うぐらいなんだが、どこから攻め込むんだ?」
ランチャーは蹂躙することを前提に、リーダーに尋ねた。
「そうね、まずはあの変梃りんな案山子の立っている畑からつぶしていくわ。だってなんかむかつくから」
コルベットの理不尽な意見に、ランチャーは首を竦めて了承した。
「へいへい、仰せのままに、ってね」
他の二人も慣れたものなのか、コルベットの方針に異を唱えることもなく従っていく。
「我々の通り過ぎた後には、何も残らない、残さない。それが『虚無の魔法兵団』の流儀よ、わかってるわね!」
「はいよ!」x3
4人の死神が、ゆっくりとオークの丘へと近づいていく。
待ち受けるのは、地獄から帰還した案山子達であった・・・
 




