今ならこれに
「それは・・・私も初めて聞く状況ですわね。アーカイヴには・・・該当なし。ダンジョンコア・・・正常起動中。ダンジョン内に異空間反応・・・無し。ラプラス、シュレディンガー、マーフィーの介入・・・痕跡無し・・・」
ダンジョンコールセンターでなぜかオペレーターをしていた「姫」が、僕らの陳情を聞いて対応をしてくれている。ただ、過去に前例がないらしく、システムチェックは時間がかかっていた。
そして僕らにはその時間がなかった。
なぜならリアルタイムで送られてくるコアからの情報の中に、「通話料3分10DP」とあったから。
すでに通話時間のタイマーは 00:11:54 を指していた。まだ50分間は話せるとみるか、スノーゴブリンが1体召喚できなくなったとみるべきか。
猪肉300kgが消えていったのが一番ショックだったり。
「あー、その、あのですね、「姫」、もういいんです、僕らのために無理をしないでください」
「いいえ、私の事はお気になさらずに。どんなに時間がかかったとしてもオペレーターの仕事を完遂さてみせますわ」
いえ、気にしてるのは「姫」の時間ではなく、通話時間なんですけど。
「でも、僕らだけに関わっていると、他の顧客から苦情がくるかも・・・」
「大丈夫です、今のところ他のオペレーター達で対応できていますわ」
くっ、あれだけ混雑していたのに、こんなときだけ緩和されるとは。
「あれからお客様からかかってきませんねー」
「誰かがコード抜いたまま直していないからね。ボクのもだけど」
「ふふふ、休憩にしましょう。チーフの手が空くまでは」
「あ、じゃあお茶いれますねー」
「「自分で淹れるからいい!」」
「えー、じゃあ「姫」様に」
「「あ」」
ひゃー、がしゃん、びしゃん、ごつっ ツーー ツーー ツーー
紅茶をまともにかぶって、額にレモンスライスを貼り付けた「姫」が、怒りのオーラーを纏いながら振り向いた。
「ど・な・た・の仕業かしら~」
「ひゃあああーー」
「あう」
「通話が切れたって?誰かしらないけどナイスだ」
僕は手助けをしてくれた、見知らぬ天使に感謝しつつ、その冥福を祈った。
通話時間は16分を少し越えていた。60DPも使ったのに状況は少しも改善していない。もう現状を受け入れて、やっていくしかないかと諦めかけていたときに、「姫」の方から連絡が来た。
「あの、これコレクトコールじゃないですよね?」
「もちろんですわ。こちらのミスで通話が切断したのですから」
「よし!」
「何かいいことありまして?」
「あ、いえ、「姫」に見放されたのかと思ったので・・・」
「まあ、ごめんなさいね。うちの新人・・・でもないんですけど、が粗相をしまして」
「それで何かわかりましたか?」
コールセンターの「姫」は言いにくそうに言葉を探していたが、
「私の権限で調べられる範囲にはデータがありませんでしたので、上層部に問い合わせしましたの」
「その結果は?」
「・・・バグではなく仕様だと・・・」
「運営の人は都合が悪いことは全部そう言うんですよね!」
「ごめんなさい、力になれなくて・・・」
「姫」が本気で落ち込んでいた。だけどこちらも人生かかってるし、ここは押しどころだ。
「いいんです、「姫」の所為じゃないですし。ハードモードでもいけるなんて思い上がってた僕が悪いんですから・・・」
ケンを手招きして、そばで甘やかす。 「クウーン、クウーン」
「はっ、どこかで子犬の鳴き声がしましたわ」
「僕にも大切な仲間ができたんですが、満足に餌もあげることができなくて・・・」
「なんてことでしょう・・・そうですわ、私のコールセンター主任権限を使えば」
かかった。
「何かいいまして?」
「あ、いえ、助かったって」 「ん」
「そう、ならいいのですけど・・・。とにかく今回の陳情に対してシステムの修正などは行われません」
「はい」「ん」
「ですが、ヘルプ機能によるトラブルシューティングを試みることはできますわ」
「「おお」」
「まずダンジョンコア機能の管理項目のサブメニューを開いてくださいな」
「ん」
「その中の「吸収」をダブルクリックすると、隠しコマンド「分解」がでるはずです」
「「おお!」」
「分解は、通常は生体組織しかできない吸収を、無機物に行うコマンドで、これを行った対象を「変換」
リストに登録できますわ」
「「おお!!」」
「手に入らないものは分解もできないので、リスト化もできないですけど、装備や武具はこれで拡充できますわ」
「十分です、感謝します「姫」」 「ん」
食材は増えなかったけど、これで道具や防具を皆に配給できるね。「姫」には本当に感謝だ。
「それとコールセンターのカスタマーサービスでお試しキットというのが何種類かあるので、それも送っておきますわね」
「あ、食材があったら嬉しいです」
「了解しましたわ。優先しておきましょう。でわ良いダンジョンライフを!」
「ありがとう!」 「ん!」
後日、コールセンターから届いたデリヴァリーボックスには、青汁とクロレラとミドリムシが詰め込まれていた・・・
DPの推移
現在値:206DP
コール:16分 -60
残り 146 DP




