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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第10章 ドワーフキャラバン編
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長様は美魔女

 「あそこに見える丘が、我らの里への入り口だ、シュルシュル」

 召喚された乗用馬の背に揺られながら、ナーガ族の女戦士が指をさして、六つ子のリーダーに教えていた。リーダーは、背中に感じる幸せな感触に気をとられまいと、歯を食い縛りながら、それに答えた。

 「よし、皆、あと少しだぞ・・」


 しかし後ろに続く弟達の耳には届いていなかった・・


 「ふふ、広い背中が頼もしいわ、シュル」

 「貴方は私の命の恩人です、ぜひご恩返しを、シュルシュル」

 「手料理は得意なの、一度食べてみてくださいな、シュル」

 「ねえ、女同士でも私は構わないんだけど・・シュルル」 

 

 救出戦のあとで、糸玉から救い出されたナーガ族は、5名。その全てが哨戒に出ていた女戦士で、そのほとんどが、助けてくれた六つ子の男性陣に惚れたようだった。

 隊長のシェリルと名乗った女戦士は、他の仲間ほど、直接的なアプローチはかけてこないし、リリーと名乗った女戦士は、妹レンジャーに纏わり付いていた。

 あとの3体のナーガ族は、3人の男性にべったりである。

 一人だけ余った感じの妹ドルイドだったが、その待遇に不満はなかった・・


 不満があったのは、人族とナーガ族を乗せている馬達で、振り落とされないようにと脇腹に巻きつかれたナーガ族の尾の感触が、原始的な恐怖感を呼び起こすらしかった・・


 弟達のあまりに不甲斐無い姿に、声を荒げようとしたリーダーだったが、突然、乗っていた馬が足を止めたので、そちらに注意が逸れた・・


 「どうした?」

 自分の乗る召喚馬と、それを操る妹ドルイドの両者に問いかけるように、リーダーが尋ねた。


 「ブルルルル・・・」

 馬は、怯えたようにいななくだけで、その場から動こうとはしなかった・・


 「リーダー・・前方・・」

 妹ドルイドは、少し先の地面を指差していた・・

 「前に何か・・」

 そう言った、リーダーの言葉も途中で止まった。

 なぜなら前方には、数十匹の蛇が行く手をさえぎる様に並んでいたからである・・・



 「ああ、大丈夫です、シュル。里の結界に入ったので、様子を見に来たのでしょう・・戦士長のシェリルだ、客人をお連れしたので、おさに連絡して欲しい、シュルル」

 戦士長の声を聞き分けたのか、1匹の蛇が後方に、滑る様な速さで消えていった・・


 「あの蛇は、全て里の護り手なのか?」

 リーダーが背後の戦士長に尋ねた。

 「そうだ、我々と共生関係にある、頼もしい用心棒だ、シュル」

 ここに来るまでに、里にいる戦える者が少ないことに懸念があったリーダーは、それを聞いて納得した。


 「なるほど、彼らが外敵から里を守っているんだな・・」

 「ああ・・だが、レッドバック・ウィドウが相手だと・・・シュル・・」

 戦士長の言葉が沈んでいった・・毒に対して強い抵抗を有しているだろう巨大蜘蛛を相手取って、どこまで蛇たちが戦えるかが問題であった・・


 やがて先ほどの伝令蛇が戻ってくると、周囲の蛇達は、元の住処へ戻っていった。

 「さあ、隠蛇の里へようこそ、シュルル」

 戦士長が、努めて明るい声をだして、六つ子を隠れ里に招き入れた。



 「この度は、里の者の危難を救っていただいて、誠にありがとうございました。里を代表して、御礼申し上げます」

 丘の中を巧妙に掘り抜かれた谷間に、ナーガ族の隠れ里があった。そこに招かれた六つ子達は、村人に熱烈な歓迎を受けた・・


 「ささやかではございますが、お持て成しの宴を用意いたしました。御緩りとお寛ぎくださいますように・・」

 里の長だと名乗ったナーガ族の女性は、神秘的な美しさを持つ妙齢の女性の上半身と、艶やかに光る鱗に覆われた大蛇の下半身を持っていた。

 この里では最長老だと聞いたが、とてもそんな歳には見えなかった。


 「失礼ですが、お幾つですか?・・・」

 つい好奇心から妹ドルイドが里の長に年齢を聞いてしまう・・


 「ほほほ、種族が違えば寿命もまた違ってまいります。人族の方に合わせると、いったい幾つになることやら・・ほほほ」

 そういって上手く、はぐらかされてしまった。


 周囲では、危難を救われた戦士ナーガと、里にいた村人ナーガ達が、六つ子の男性陣に接待攻勢を仕掛けていた。どのナーガ族も見目麗しく、しかも露骨なほどに積極的である。

 あと3人ほどが、女性陣にも意味ありげな視線を送りながら、饗応していた・・



 しばらく宴会が続いたあとで、里の長が、ふとリーダーに尋ねてきた。

 「そういえば、どちらに行かれる途中だったのでしょうか?」

 それを聞いたリーダーが、やっと当初の目的を思い出した。


 「失礼、こちらにお渡しするものを預かっていたのを失念しておりました・・」

 そう言って、懐から1通の木簡を取り出した。

 「ビスコ村で冒険者をしていたヘラという女性から預かった木簡です。ベラという方に渡して欲しいと・・」

 

 その言葉を聞いた、里の長と周囲の村人が、驚きの表情を浮かべた。

 「本当に、その女性はヘラと名乗ったのですね?」

 「はい、この里の場所も教えてくれました・・」

 「なんということでしょう・・」

 震える手で木簡を受け取った長は、その場で、炭で書かれた文字を読み始めた・・


 やがて一通り読み終えると、周囲の村人に一度だけ大きく頷いた。

 「確かにこの木簡は、孫娘から私に宛てたものです・・」

 その言葉を聞いて、今度は六つ子が驚いた。

 見た目通りの年齢ではないと思っていたが、まさかヘラが娘ではなく、孫だったとは・・

 だとすれば、この長が、ウィッチ・クラフトの使い手ということになる・・


 「・・まさに魔性の美しさ、というわけか・・」

 「・・あとで美容法も聞き出さないと・・」

 「・・ツルツルお肌の秘訣は、やはり脱皮?・・」

 「・・鱗で熟女か・・難易度高いな・・」

 「・・すばらしい・・」


 「この木簡では本人の近況はよくわからないのですが、孫娘は元気でいましたでしょうか?・・」

 里の長のベラが、何かを気にしながら尋ねてきた。


 「出立するときは元気でしたよ。仲間に囲まれて楽しげに暮らしていました・・」

 木簡にダンジョンマスターのことが書いてあるかどうか、不明だったので、そのことには触れずに、ヘラの近況を話した・・


 「そうですか、家出同然でこの里を去っていったものですから、元気で暮らしていると聞いて安心しました・・」

 そう呟いたベラの表情には、歳を経た悲しみが浮き上がっていた・・・


 「つかぬ事をお聞きしますが、ヘラ嬢の母上は?・・」

 「娘は、もうかなり前に亡くなっております・・あれが存命であれば、孫娘も里を出ることはなかったのでしょうが・・・」

 どうやら複雑な事情がありそうなので、その話は、そこまでで切り上げた。


 「そこでご相談なのですが、弟の身体の様子を診ていただけないでしょうか?」

 「もちろん構いませんですわ。里の者を救っていただいたご恩を、少しでもお返しできるなら、喜んで治療させていただきます、ほほほほ」


 最後の笑みに、一抹の不安を覚えるリーダーであった・・




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