年齢、性別、経験、種族は問いません
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第一次護送部隊との2回目の定時連絡が繋がった。
『てんふぉーてん』
『ういっす、ワタリっす。今は丁度キャンプしてたとこっす・・』
遠話のカウンターは「128」を示していた。すでに128kmほど離れた場所で、野営をしているようだ・・
「皆、変わりない?」
『アエンがへばっているっすね。オイラ達でもキツイ道中っすから、仕方ないとは思うっすよ』
「その先、行けそう?」
『本人は、頑張るっていってるっす。交渉役なんで来て貰うしかないんすけどね・・』
あと1日の行程だし、我慢してもらうしかないか・・アエン抜きでドワーフと交渉は厳しいからね・・
『それと、アイス・ドレイクとフロスト・リザードマン達も、この先は厳しそうっす。かなり水場が減ってきてるので・・』
どちらも半水棲だから、陸上行動はできるけれども、長時間、乾燥した状態でいると、支障がでてくるらしい。
「今の場所は安全そう?」
『それなりに遮蔽物もあるし、水場にも近いし、いいかと思うっす。アップルリーダーも頷いているっす』
「じゃあ、そこを第二補給拠点に決定するよ。手分けして改造して。5日から6日はそこでキャンプする部隊がでるからね・・」
最初から、ドレイクの長距離行軍は難しいかと考えていたから、今の場所に1部隊残して、補給拠点の防衛に廻すプランで行くことにした。
「蜘蛛の姿は確認できた?」
『影も形もないっすね・・ただ、野生の動物もまったく見ないっすから、脅威がないわけではなさそうっす・・』
不気味だね・・もっと早いうちに遭遇すると予想していたんだけど、勢力範囲が変わったのかな?・・
『その所為で食料の現地調達が、ほとんどできていないっす。狼部隊から生肉の要請が来てるっすよ』
運んでいるのはほとんど燻製した鮭と猪肉のベーコンだから、現地で狩りをしないと生肉は手に入らない。それが出来ないとなると、補給態勢にも修正が必要になるかもしれない・・
「野生の動物がいない原因はわかる?」
『推測っすけど、レッドバック・ウィドウが狩り尽くした可能性が高いっす』
やはりそうだよね。蜘蛛を見かけないのは、すでに狩場を変えているからなのだろう・・
「だとしたら、もっと北に行けば野生動物にも遭遇するのかな?」
『アップルリーダーはそういう見解っす。拠点の補給も、北を中心にすればなんとかなると思うっすよ』
南の監視が疎かになりそうで、怖いけどね・・でも食料、なかんづく生肉の補給にはそうするしかないか・・
「了解、第二機動部隊はそのまま第二補給拠点の警備として、その野営地に駐屯すること」
『ういっす。ただ、第一機動部隊だけだと、メンバーがスノーゴブリンに偏るけど良いっすかね?』
あっと、確かにアエン以外はそうなっちゃうのか・・
「ベニジャは第二補給拠点の警備隊長になってもらうから、ツンドラエルフの小隊長とシナノを交代してもらおうかな・・」
『了解っす。親衛隊の小隊長は、めっちゃ喜んでるっすよ・・ストームタスカーに同乗できるから』
ああ、アイス・ドレイクは、ひんやりはするけど、モフモフ感はないだろうからね・・
『第一機動部隊は3時間後に出発の予定っす。次の定時連絡は、引渡しの現地で受けるはずっす』
「了解、戦力が減るから、移動中の遭遇には十分注意するようにね」
『了解したっす』
長い会話が終了した・・
「コア、通話時間は?」
『ぎりぎりー』
タイマーを見ると、01:59と表示されていた。あと2秒で、次の1分が始まってしまうところだった・・遠話も、この距離で長々使うものではなさそうだ。
とはいえ、ウィスパリング・ウィンド(風の囁き)やアニマル・メッセージ(動物の伝言)などの情報伝達呪文だと、こちらからしか話しかけられないし、上位の相互会話呪文は使い手がいない。
今のところは、DPの残高を気にしつつ、遠話を使うしか方法がなかった・・
ビスコ村冒険者ギルドにて
例の受付嬢には、ギルドの2階に個室が与えられていた。それはギルド長以外では唯一の厚遇ではあったが、誰からも文句がでることはなかった。
年中無休、24時間態勢で働いているように見える彼女は、実務方のトップであり、ギルド長室は削っても、彼女の個室が無くなることはないと言われていた。
「少し休憩します。あとをよろしく」
窓口業務が一段落したのを見計らって、受付嬢が自室に戻ると、そこには待ち人がいた。
「遅かったな・・」
「・・ヒルダですか、どうやってこの部屋に?」
窓は閉まったままだし、入り口には鍵が掛かっていた。それなりに重要な書類が保管されている、この部屋のセキュリティーは、それほど甘くはないはずだった・・
進入は防げなくとも、警報は鳴るはずなのだが・・
「ギルド長に入れてもらった」
「・・なるほど、後でよく言い聞かせておきましょう・・それで、何か用ですか?」
「情報が欲しい・・」
「貴女も冒険者登録はしてあるのですから、窓口で聞けばよかったのに・・というのはヤボですか・・」
わざわざ、人目を避けるにはそれなりの理由があるのであろう。
「先にスネークの酒場に寄ってきた」
「なるほど、下調べは終わっているのですね」
「レッドベリー家から派遣された者が、何をしにギルドに来たのかが知りたい・・」
「依頼に関する情報は、貴女といえども・・・ちょっと待ってください、レッドベリー家と言いましたか?」
「引退して耳が衰えたのか?」
「そんなわけないでしょう!重要な事だから再確認しただけです。少し調査する必要があります。ここで待っていてください、くれぐれもギルド内をうろつかないように!」
そう言って、受付嬢は階下に走り去っていった。
「あいかわらず、せっかちだな・・」
そう呟いた瞬間、扉が開いて受付嬢が舞い戻ってきた。
「おい、いくらなんでも速すぎないか?」
「そんなことはどうでも良いです。どうやらレッドベリー家の使者は、私が受付にいない時間に来訪したようですね・・ギルド長が直接取り扱っています」
「それで・・」
「詳しい話は出来ませんが、冒険者と要面談で依頼をしていったようです・・」
「ではその依頼の内容は?」
「行方不明者の捜索と所持品の回収・・」
ここまでは依頼票が掲示板に張り出してあったので、問題はなかった。ただし、依頼を受けた冒険者の情報は、王都からきた高レベルのパーティーである以上、簡単には教えることはできない。
しかし、そこまで聞くと、ヒルダは踵を返して部屋を出て行こうとした。
「どこへ行くのですか?」
「娘の勤め先だ」
「はあ?」
てっきり依頼を受けた冒険者の素性を尋ねられるかと、身構えていた受付嬢が、あっけにとられている間に、ヒルダの姿は消えていた・・
「誰かクランの外に就職してたかしら・・」
受付嬢は、親友の家族構成を思い返しながら、首を捻るしかなかった・・




