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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第10章 ドワーフキャラバン編
313/478

第一次接近遭遇

 最北湖から北西に1日、湿原地帯の西端辺りにナーガ族の隠れ里があるという。

 六つ子達が、ヘラからの情報を頼りに、沼地から湿原へ、そして湿原から丘陵地帯へと到達し掛けた頃、不思議な景色が目に付くようになってきた・・

 小さな丘が幾つも連なり、その谷間を湿原が走るような風景の中で、丘の上に葦や浮き草、小枝を集めたコロニーが点在している。そのサイズからして亜人は住めそうも無いが、何か小型の動物が営巣しているように見えた。


 「あの丘の上の巣は何だ?」

 「ん?あれはツンドラ・カピバラの巣かな・・」

 「あのデッカイ鼠の親玉みたいな奴か」

 「あれはあれで、愛嬌がある・・」

 「・・しかし、ほとんど破壊されているのが気になるな・・」

 リーダーの指摘通りに、視界に入るほとんどの巣が、無残に壊されていた。


 「・・・この周辺全部そんな感じだね・・・大型生物に襲われたみたいだけど、範囲が広すぎるような・・」

 偵察用の鷹を召喚して、空から様子を調べていた妹レンジャーが答える。


 「そろそろナーガ族の哨戒網にかかるはずなんだが、何か見えるか?」

 「んー・・・ぱっと見、それらしいのは見えないね・・まあ、隠れ里なんだから、簡単に見つかったらダメなんだろうけど・・」

 ちなみに隠れ里と呼ばれているが、何かから逃れて隠遁生活を余儀なくされているのではないそうだ。単に、他の種族の生活圏から離れた場所にあるので、自然と交流が失われていった結果だそうだ。里の規模も年々縮小していたようで、ヘラが抜け出して来た時で、人口は50人を切っていたという。


 「まだ先なのか・・」

 「湿原は少なくなってきたから、方向は合ってると思うんだけど・・」

 「何にせよ、この破壊の主が問題・・」


 その時、妹レンジャーの召喚鷹が何かを発見した。

 「何かいる!集団で群れてる!」

 他の5人が咄嗟に戦闘体勢に移行する・・


 「敵か?」

 「数は?」

 「モフモフ?」


 「レッドバック・ウィドウ!数は5、何かを襲っているみたい!」

 鷹を接近させて詳細を確認した妹が、次々に情報を流してくる。


 「カピバラの巣か?」

 「まさかナーガ族の斥侯とか?」

 「モフモフ?」


 襲われている相手によっては救助に向かう必要があった。レッドバック・ウィドウ5体は、はっきりいえばギリギリの相手だが、戦闘をしているにも関わらず、これ以上増援が来ていないなら、範囲内には5体しかいないはずだ。あの蜘蛛のやっかいなところは、仲間を呼び寄せる能力なので、そこが判明していると戦い易い・・


 「襲撃されているのは・・あ、まずい、ナーガ族だね。もう壊滅寸前で、殆どが糸玉にされてる・・」

 レッドバック・ウィドウの習性として、余分な餌は、糸にくるんで巣に持ち帰り、保存食もしくは卵の苗床にするらしい。


 「総員、対レッドバック戦闘準備!」

 「毒耐性の呪文掛けます」

 「水上歩行の呪文付与するよ」

 「人質がいると、範囲呪文が使えないな・・」

 「俺の嫁が・・」


 「距離、約500m、ほぼ真西・・」

 「召喚はそのままでいいから、リンクは一度切断しろ。走るぞ!」

 リーダーの号令により、6人が一団となって走りだす。

 ウォーター・ウォーク(水上歩行)の呪文により、低地の湿原に足をとられることもなく、真っ直ぐに戦闘現場を目指した・・


 「鷹がこっちに移動し始めてる!くるよ!」

 リンクは切ったが、召喚鷹には、レッドバック・ウィドウを見張りながら追跡するように指令をだしてあった。それが、こちらの報告に動いてきているらしい。


 「よし、ここで待ち伏せする。前衛はここ、後衛は、二手に分かれて、丘の上の壊れたカピバラの巣に隠れろ」

 「了解!」x5


 レッドバック・ウィドウの進行ルート上に散開して、接近してくるのを待つ・・・


 やがて、遠くからカサカサカサという耳障りな音が何重にも重なりながら響いて来た。

 「・・くわあ、背中がぞくぞくする・・・」

 「・・静かに・・耳も良いはずだぞ・・」

 

 「・・間近で見ると、でかいな・・」

 「・・攻撃呪文1発だと死にそうにないね・・」


 「・・全部の背中に糸玉が乗ってるな・・」

 「・・1体ずつ足止めするぞ・・3・2・1・・ゴー」


 身を潜めていた場所から前衛の二人が帯びだした。

 レッドバック・ウィドウは、直に臨戦態勢をとると、威嚇音を立て始める・・


 チキチキチキチキ

 顎をかみ合わせる音で、敵を威嚇しながら、仲間を呼ぶのである。

 

 「ここから先には、行かせん!」x2

 前衛の二人が、息のあったセリフを叫びながら、2体のレッドバックに、それぞれ立ち向かう・・


 「こっちも援護始めます」

 「手薄の1匹に集中しよう・・」

 右側後方の丘に潜んでいたレンジャーとローグ/メイジが弓と呪文で攻撃を開始した。マジックミサイルは通常の威力を発揮するが、矢は装甲に弾かれてほとんど効果がない・・

 「ちいっ!硬い」

 「牽制でいいから、撃ち続けろ。少しでもこちらに引き付けないと、前衛がもたないぞ」


 「着弾のタイミングを合わせて・・」

 「了解・・」

 左奥の丘に潜んだドルイドとメイジが、阿吽の呼吸で、手近な1体に攻撃呪文を集中した。


 「ファイアー・アロー!」 「ウィンド・カッター!」

 2発の単体攻撃呪文が同時に着弾するが、重傷を負わせるに留まった・・

 「まだ死なないのか・・」

 「範囲呪文が使えるときは、そっちが良さそうね・・」

 怒ったレッドバックに接近されるよりも早く、次の呪文を完成させないと危険だ。二人は再び詠唱を始めた・・


 前衛は二人は苦戦していた。

 両前足と噛み付き攻撃のマルチアタックがある上に、噛み付きには毒がある。どうやら麻痺系の猛毒のようだが、身体の動きが止まれば倒されたも同義語である。いくら毒耐性の呪文が付与されているとはいえ、その効果を身を持って試してみる気にはなれなかった。


 両側からの援護により、2体が攻撃対象を求めて離れていったが、最後の1体がクレリックに襲い掛かった。

 「こっちかよ!」

 純粋ファイターであるリーダーなら2体でもなんとか対応できたかも知れないが、準前衛のクレリックでは、それは無理だった。

 隙の出来た側面から、致命的な攻撃が振り下ろされる・・・


 そこへ上空から、攻撃指令を受けた鷹が舞い降りてきた。


 「キィーーー」

 猛禽類とはいえ、召喚された鷹は、偵察用の普通の種類である。攻撃が通じるはずも無いが、その身を犠牲にすることにより、貴重な時間を稼ぐことに成功する・・


 「ウィンド・カッター!」

 3発目の単体攻撃呪文を受けたレッドバック・ウィドウが、断末魔の悲鳴をあげながら、転倒すると、8本の足を痙攣させながら息絶えた・・


 「ファイアー・アロー!」

 その結果を見たメイジは、少し遅らせた火炎矢の呪文を、鷹が食い止めた個体に放つ。

 敵の認識を改めた、その1体は、左奥へと移動し始めた。これにより前衛にかかる負担が大幅に軽減されることになった。


 さらに偶然にも、レンジャーの放った矢のうちの1本がクリティカル・ヒットになって、深々とレッドバック・ウィドウの頭部に突き刺さった。

 「おっと、ラッキー♪」

 「もらった!マジック・ミサイル!」

 2体目のレッドバックが倒れた・・ 


 遊撃戦力のなくなったレッドバック・ウィドウは、やがて1体ずつ倒されて行き、5体全てが転倒して、足を痙攣させることになった・・


 「止めを刺したら、糸玉にされたナーガ族を助け出せ!」

 次々に、過剰と思われるほど念入りに止めを刺してから、背中に括りつけられた糸玉を松明で炙って引き剥がす。

 転倒した際に下敷きになって押しつぶされないか心配だったが、糸玉は思いの外に丈夫で、中に囚われていたナーガ族は一命を取り留めていた。


 急いで、応急の手当てを済ませると、乗用馬を召喚して背中に括り付けて、安全そうな場所まで移動した。もちろん、手の空いているメンバーが、レッドバック・ウィドウから討伐証明部位を剥いでくるのは忘れずに行った。

 ただし、解体して重要な器官(顎の毒腺と、腹部の糸袋)は取り出す暇がなかった・・・


 「もったいないなー」

 「換金できる部位は、どちらも解体に慎重さを必要とする。今は無理だ・・」

 「わかってるけど、レッドバックなんてめったにやれないじゃん・・」

 「討伐証明部位はとれたんだ。それだけでもかなりの報酬がでる・・」

 他の生物を見境無く捕獲して、しかも猛毒を有するレッドバック・ウィドウは、常設討伐依頼種でも賞金が高いことで知られていた。


 「でもなー、すでに倒してある獲物を放置するのは、なんかモヤモヤするのだ・・」

 「・・もったいないお化けだな・・」

 「そう、それよ、それ」

 「解体ジャンキーとも言うね・・」

 「・・姉さんをディスるとは、いい度胸ね・・晩飯は特別メニューにしてあげよう」 

 「御免なさい!」



 六つ子と5頭の馬が遠くに離れた頃、1体の止めを刺されたはずのレッドバック・ウィドウが、体中から体液を流しながら、痙攣していた・・

 それは最後の力を振り絞るように、弱々しく顎を噛み合わせた・・


 チキチキチキ


 その音は冒険者達には聞えなかった・・・・


 

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