第二次護送部隊
コアルームの奥の壁には、この付近の地勢図が投影されていた。コアのダンジョンマップ立体投影の機能を利用した、簡易プロジェクションである。
ただし精度はかなり怪しい・・
正確な鳥瞰図のデータや、元となる地図が存在しない為だ。
ドワーフのアエンが山脈方面を、ハーフナーガのヘラが隠れ里周辺を、そして蜜蜂の群体によるダンジョン周辺の索敵結果をパッチワークのように繋ぎ合わせているのだから、仕方が無いとも言えた。
今、その簡易地図の上に、1つの光点が表示されていた。
それが第一次護送部隊の、「予想」位置である・・・
『しーきゅーしーきゅー』
『ういっす、ワタリっす。こちらは通常営業っす。3部隊とも脱落者無し、概ね順調っすね』
コアの遠話による提示連絡に、第一機動部隊のワタリが返事をしている。隊長のアップルは、部隊の行軍に神経を使っているので、ワタリが通信兵の役割をしているのだ。
そして遠話が繋がると、簡易マップの光点位置に修正が入る。
遠話は基本1分間の会話で、距離(km単位)分のDPを消費する。つまり逆算すれば相手とダンジョンとの距離が判明するのだ。
簡易マップに表示されたのは「67」の数字・・・つまり67km離れた地点をワタリは移動中というわけだ。
もちろん一直線に北上しているわけではないし、方角も少しずつずれている可能性はある。なので、光点の周囲には、台風の予想円のようなものが描かれており、誤差の範囲を表していた。
『モフモフ助け隊から情報提供のあった、最北の湖は、今朝通過したっす。現状だと後方に2時間半ってとこすかね』
こうやって部隊から見たランドマークの位置と、遠話ではじき出した直線距離を元に、より正確な地勢図を作っている最中だった。今も、ワタリの情報で、投影された最北湖の位置が、南に若干ずれた。
『ここまで来ると、森林がなくなって、潅木や湿原植物が多くなるっすね。見通しはよくなったっすけど、足元がぬかるんで、狼部隊は嫌そうにしてるっす』
夏の間は、気温もそれなりに上昇し、凍土が融け出して沼や湿地帯になる。
泥場が好きなタスカーや、半水棲のドレイクはまだしも、狼チームは、ぬかるみを苦手にしているようだ。
『例の蜘蛛はまだ確認されていないっす。ただ、野生の動物がかなり少ないのが気にかかるっすね』
すでにレッドバッグ・ウィドウの生息圏内に入っているはずだが、姿を見ないという。動物が少ないのは、蜘蛛から逃げ出したからだと思うが、元々湿原には中型・大型の獣は居つかないのかも知れない・・
『このまま北上して、今晩中には湿原地帯を抜け切る予定っす。キャンプは蜘蛛の圏内を離れてからとるっすよ』
タスカーやドレイクには超過労働になるけれど、その方が安全だと思う。夜中に毒蜘蛛に奇襲を受けるとか、悪夢以外の何者でもないよね。
『定時連絡終わりっす』
『しれいぶ、おーばー』
ヘッドセットを装着して、通信オペレーターの格好をしたコアが、遠話を切った。
通話時間は56秒23、追加料金はかからなかったようだ。
「しかしこれ、地味にDP消費するよね・・DCから引き落としできないのかな?」
『ぷるぷる』
ダメらしい・・コールセンターとの通話料金はDC払いが可能なのに・・
さて、第一次護送部隊は順調に進んでいるようなので、第二次の部隊を送り出すとしよう。
この第二次護送部隊は、物資を運んで、補給用の拠点を作るのが任務だ。
「第二次護送部隊は、ジャイアント・ツンドラバジャー3体、ツンドラエルフ親衛隊からハイレンジャーのテオとスカウト2人、フロストリザードマンからエリート1人と兵士を2人選抜して。部隊長はテオだから・・」
「え?私ですか?」
「ギュギュ」
「了解です、ジャー」
「拠点は、最北湖の湖畔に設営する予定だよ。冒険者のよく利用する南岸は避けて、反対側の北岸の目立たない場所が良いかな・・」
「そこでキャラバンが来るのを待てば良いですか?」
「基本はそうだけど、周囲の索敵と、地形の把握は出来るだけ広範囲にやっておいて。あと荷物を降ろしたら、ジャイアント・バジャーにスカウトを一人つけて戻して欲しいかな。ピストン輸送するから」
「了解しました」
「主殿、私達は居残りか?」
ダンジョンのメンバーの殆どが護送任務で出撃していくなか、取り残された感じのするロザリオから念話が届いた。
「ロザリオとスケルトン部隊は、ダンジョンの防衛だよ。メンバーが減っている今は責任重大だからね」
「う、うむ、そうだな、モフモフ度が急激に下がって、うろたえたが、ここを護る役目は大切だな」
「ロザリオだからこそ、任せられる任務なんだよ」
「うむ、主殿の信頼を裏切らぬように全力を尽くす!」
急に張り切りだしたロザリオが、スケルトン部隊に号令した。
「ダンジョン内の警邏を強化せよ。敵はどこから入ってくるかわからんぞ。常に二人一組で行動して、異変があれば、周囲にその旨伝えてから、確認にいけ、わかったな!」
「「カタカタ」」
「ギャギャ(ロザリオさん、チョロすぎです・・)」
『こくこく』
「我々が最終防衛線だと思え!けっして抜かれるなよ!」




