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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第10章 ドワーフキャラバン編
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うちの知りませんか?

  ビスコ村の酒場、「酔いどれモズクガニ」にて


 昼時の忙しい時間が過ぎて、夜の仕込みをするために、暖簾を降ろした店内に、フードを目深にかぶった長身の人影が、ふらりと入ってきた。


 「今は、準備中だ。表に札が掛かってたろ」

 カウンターの奥で、野菜の皮むきをしていた酒場の親父が、顔も上げずに追い出そうとする。


 「あいかわらずだな、スネーク」

 昔の名前で呼ばれた親父が、驚いて客の顔をうかがった。


 「なんだ、誰かと思ったらヒルダじゃねえか。今日は一人なのか?」

 昔馴染みの女戦士は、たいてい獣使いと一緒に行動していたが、今は一人のようだ・・・いや、気配を消しているが、何かがもう1体、店の中に潜んでいる・・・

 スネークと呼ばれた酒場の親父は、そっと後ろの棚から、珍しい果実酒の瓶をとりだすと、深皿になみなみと注いでカウンターに乗せた。


 すると、突然、店の死角から、巨大な虎が飛び出してきて、音も無くカウンターに飛び移ると、皿の酒を舐め始めた。

 「グルルル・・・グルニャン♪」

 陶酔したように深皿を嘗め回しているのは、巨大な白い虎だった。

 ツンドラ・タイガー、凍土の森の王である・・・


 「グルニャン、ニャン」

 しかし今は、ただのデカい猫にしか見えなかった。


 「スネーク」

 ヒルダと呼ばれた女戦士は、フードの下から咎めるような一声を発する。


 「いいじゃねえか、クロスだってここに来れば、俺がタマにマタタビ酒を奢ることぐらい折込済みだろ」

 そういいながら、ツンドラ・タイガーの首を撫でていた。


 「1杯だけだ」

 ヒルダは、タマを甘やかすスネークに対して釘を刺しながら、自分もカウンターのストールに腰掛けた。

 「情報が欲しい」


 「あいかわらず、お前は必要な事しか口にしねえな。久しぶりに会ったんだ、お互いの近況とか、仲間のその後とか、少しはするもんだろうが・・」


 ヒルダは少し考えてから、家族の話をした。

 「息子が戦死した。娘が発掘された」

 「おい、なんだそれ?ミイラか何かになってたのか?」

 「近い・・」

 「意味わかんねえぞ・・あと息子は残念だったな・・」

 「戦死なら本望だろう」

 そう言ったヒルダの瞳は、どこか悲しげだった・・


 スネークは黙ってグラスにワインを注ぐと、ヒルダの前に差し出した。

 「注文してないぞ」

 「俺の奢りだ・・」

 ヒルダは黙ってワインを呷った。


 「で、娘っていうとクルス・・いや発掘されたというなら・・ロザリオか!」

 「うむ、元気だった」

 「益々、意味がわからねえ・・」

 スネークも自分用のグラスにワインを注いで、一息に飲み干した。


 「まあいい、それで欲しい情報てのは?」

 「レッドベリー家」

 「・・お前のとこの政敵じゃねえか。大森林の中のことなんか判りっこねえだろうが」

 「この村でいい」


 どうやら落ち目の武闘派が、悪足掻きをしているらしい。その後始末に「白雪の鬼姫」ことヒルダが派遣されたようだ。

 「確かにそれらしい二人組が、「水竜の鱗亭」に宿泊していたが、今朝、村を出て行ったぞ」

 「行く先は?」

 「宿のメイドに南の里の話を聞いていたそうだが、追われていると知っているなら、ブラフかもしれないな」

 「・・わかった」

 「なんなら、ギルドのメリッサに聞いてみるといいかもな」

 「ギルドは好かない」

 「そんなことは知っているが、例の二人組、冒険者でもなさそうなのに、ギルドに何度か足を運んだらしいからな。足取りが掴めるかも知れないぜ?」

 「・・わかった」


 そう呟くと、ヒルダはフードを被り直して、店を出て行こうとする。

 「おい、情報料は?」

 ヒルダの背中にスネークが呼びかけた。


 「ツケで」

 ヒルダの呟きに、酒場の親父に戻ったスネークが語りかける・・

 「スノーホワイト家のツケは大分貯まっているんだがなあ・・」


 ピクッとヒルダの肩が震えたと思うと、振り返った。

 「そんなに借りていないはず・・」

 「お前はな・・」

 「どういうことだ?」


 親父が、カウンターの下から帳簿を引っ張りだしてきた。そこには・・


 『ミルク 3ガロン』

 『鹿のジャーキー 5kg』

 『マタタビ酒 1ダース』

 『猪の生肉 50kg』

 『ニジマスの燻製 20本』

 『・・・』

 そしてクロスの署名があった。


 「ほほう・・」

 帳簿を睨みつけていたヒルダが、とても良い笑顔をしていた。


 「今度、支払いをさせに、ここに寄越す」

 「毎度! ただし折檻はほどほどにな」

 「我家の辞書に『ほどほど』は無い・・」


 そういってヒルダは店を出て行った。

 その後ろを、ヒルダの放つ闘気に怯えながら、タマがついていった・・・


 「クロス、死ぬなよ・・」

 酒場の親父は、そう呟くと、野菜の皮むきに戻った・・


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