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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第10章 ドワーフキャラバン編
310/478

賞金総額1G

 オークの丘から北へ1日ほど行くと、百を越える湖沼群の中で最北の湖が姿を現す。

 ここまで来る人族は、冒険者しかおらず、湖には名称はついていなかった。単に「最北湖」とか「北端湖」などと呼び習わされているぐらいだ・・

 大きさも中ぐらいで、取り立てて特徴のない湖である。水は澄んでいて、十分飲料水として使えるが、危険な生物が住み着いているわけでもなく、便利な補給拠点として知られていた。ただし、ここから北は完全に人跡未踏の地であり、先に進むにはそれなりの覚悟を必要とする。

 ここまで辿り着いた冒険者達は、湖畔で休息をとりながら、自らの心に自問自答するのである。

 「このまま進むのか、それとも引き返すのか」

 と・・・


 そして今、6頭の馬に跨って、湖畔に到着した6人の冒険者達が居た。

 彼らもまた、己の心に問いかけることになる・・・


 「さすがに獣道だと、乗用馬でも速度はでないわね」

 『乗騎として召喚するなら、どうしても馬になるけど、モフモフ度がいまいちね・・』

 

 「重い荷物を徒歩で運ばなくていいだけ、ありがたいわよ」

 『枝豆、もう少しもらってくればよかった・・』

 

 「このペースだと、隠れ里まであと2日か・・」 

 『蛇・・下半身蛇か・・』

 

 「ヘラ嬢の距離感覚が正確なら、そうだな・・」

 『ハーフなら下半身も人型だよな・・あれ?上下蛇もありうるのか・・』 


 「俺はどっちでもいける・・」 

 『俺はどっちでもいける・・』


 「おい、お前ら、向き合う心がよこしますぎるだろう! あと最後の奴、表裏なければ良いってもんでもないんだよ!」


 彼らの覚悟はとっくに定まっていたようである・・・


 召喚した6頭の馬に水を飲ませると、明日まではここで、キャンプなので、送還してしまう。

 古い先人の野営跡を見つけて、同じ場所でキャンプの準備を始めた。


 「周辺に攻撃性の高そうな獣やモンスターはいなさそう。ただし気配が濃すぎて、紛れていても判らないかも」

 「小動物が怯えていないなら、平気でしょう。それより私たちにも、あまり警戒しないのね」

 「脅威に感じないのだろうな・・ほとんど見たことのない中型の亜人にしか思えないのかもな・・」

 「それだけ人が入り込んでいないということか」

 「この先の道はわかるのか?」

 「正直、まったくわからん・・北を見失うことはないが、目的地に真っ直ぐ通じる道があるわけでもない・・というか道自体もないかもしれん・・」


 6人とも旅の困難さを考えて、ため息をついた・・

 「いつもの通り3交代で見張りだ。ここから先は安全なキャンプ場所が見つかるかどうかもわからないんだ。身体は休ませておくようにな・・」

 「はいなー」x5


 六つ子の夜は更けていった・・・




  フィッシュボーンの応接室にて


 「初めまして、僕がこのダンジョンのマスターです」

 「クラン『不凍湖の龍』のリュウジャです」

 「元『鍛冶場の番人』のタングステンじゃ」

 初対面同士だけ自己紹介を済ませると、すぐに本題に入った。


 「お二人揃ってこちらに来るということは、何か問題が起きましたか?」

 受け入れの準備が忙しいはずなのに、中心人物が両方抜けたら現場が困らないのかな・・


 「ああ、ご心配なく。受け入れの準備は1つを除いて順調です」

 「それをどうにかしようと、ここまで来たんじゃ」

 「と言いますと?」


 「移住を希望するドワーフがどれくらいになるかわかりませんが、ヘタをすると住居が足りなくなるかと危惧しまして・・」

 「そしたら、この近くに空き家になった居住地があると聞いてな。下見と、ご近所に挨拶しにきたというわけじゃよ」

 ああ、三日月湖の南西岸にある、旧「三日月の槍」の居住地を再利用する気なのか・・


 「確かにあそこなら50人規模で収容できますね・・でも『凍結湖の鮫』クランの居住地も空いていませんでしたか?」

 クランの族長が、「小竜会」乗っ取りの陰謀を企てて、失敗した・・てっきり御取り潰しになるものだと思っていたんだけど。


 「あそこは、他のクランに吸収合併されたが、非戦闘員の数もかなりいたので、居住場所はそのままになっているんだ・・」

 なるほど、埋まったままなんですね・・


 「了解です。うちとしてはあの場所をどうこうする予定はなかったですから、好きに使ってください」

 「いや、筋からいっても、そっちのハクジャに返還すべき土地だからな・・一時借り受けるって事にしといてくれ・・」

 どうやら「小竜会」では、三日月湖畔は全て、旧「下弦の弓月」の支配領域として認めてくれるらしい。それが準構成員になったハクジャへの分配なのか、後ろ盾になっている僕らへの配慮なのかは不明だったけれど・・


 「放棄されていた居住地の、補修と清掃はこちらから人員を出す。なので、あそこにドワーフが引っ越してくることだけ頭に入れて置いてくれると助かる・・」

 「仲間がやってきたら、また挨拶に伺うのでな。今回は顔見せじゃ、ガハハハ」

 そういって、彼らは帰っていった。



 「よろしかったのですか?マスター様」

 ハクジャが心配そうに尋ねてきた。

 「三日月湖半の移譲は、あきらかにマスター様への配慮です、ジャジャ。ダンジョンを拡大する良い機会だったのでは?ジャー」


 「うーん、防衛しづらい場所に手を広げても負担が増えるだけなんだよね・・クラン丸ごと眷属化とかしなければ、使うことないと思うよ」

 「今回のドワーフ移住の場所として、うちが使うこともできそうでしたが?ジャー」

 「第4階層を拡大する前だったら考えたかな・・いや、それでも遠距離通路で繋げた飛び地は、扱いづらいからなー」

 長距離転送魔法陣でもリスト化されない限り、今以上の飛び地は扱いに困るだけだから・・




  ビスコ村高級宿「水竜の鱗亭」にて


 「ワタシが『虚無の魔法兵団』のリーダー、コルベット・スティンガーよ」

 宿が提供してきた、防音の効いた個室で、4人組の冒険者と、2人の依頼主らしき人物が顔合わせをしていた。


 「レッドベリー家の家令を拝命しております、バトラーとお呼びください」

 「ふーん、今回の依頼は、そのレッドベリー家から成されると思っていいのよね?」

 「さようにございます。報酬も当家からお支払いいたしますので、ご安心ください」


 「それで、行方不明者の捜索と所持品の回収って書いてあったけど、もうそちらでは生存の可能性は低いと見ているわけね」

 「なぜ、そうお考えになりましたか?」

 「なぜって、生きていると想定しているなら、所持品の回収依頼は一緒に頼まないでしょ?」

 まずは行方不明者の捜索、その結果、死亡が確認されたら遺品の回収というのがセオリーだった。


 「ご明察です。捜索していただく方は、当家のご嫡男でしたが、信頼できる情報筋から、戦闘に巻き込まれてお亡くなりになったと伝えられております」

 「それでも捜索願いなのね・・」

 「奥方様がいまだ納得されておりませぬので・・」

 「ああ、なるほどね。それで建前上は捜索依頼にしておいて、本命は遺品の回収と・・」

 「さようでございます。戦闘の起きた場所はだいたい把握してありますので、あとは現地で調査していただければ・・」


 「・・・そこまで判明しているなら、ギルドに依頼など出さずに、私兵を動かせば良いと思うんだけど?」

 コルベットが、胡散臭げにバトラーを見つめた。


 「ここから先は当家の恥に関わりますので、ご内密に願いますが、その戦闘というのが、アイスオークとの抗争でして・・」

 「ああ、仲悪そうだものね」

 「・・その結果、動かせる戦力の9割を失いましたのでございます」

 「全滅に近いじゃない・・ということはオークは戦力が残っているわけね?」

 「同程度の損害は与えたようなのですが、いかんせん数が多かったらしく・・」


 「オークが敵だったら、他のクランに協力を・・って、そこが御家の事情ってわけね・・」

 「さようでございます。まずは家伝の宝剣を取り戻していただきたいのです。もしその過程でアイスオーク側の戦力を減らしていただけたら、その分も報酬に上乗せさせていただきます・・」

 「ふーん・・その宝剣って見ればわかるものなの?」

 「ミスリル製で当家の家紋が柄に意匠されております。まず見間違いはしないかと・・」


 「そう・・ならいいわ、この依頼引き受けましょう」

 「おお、ありがとうございます。これで肩の荷が下りましてございます・・」


 その後、報酬と期限などを詰めてから、依頼主は帰っていった。

 「コルベット、今回の依頼、受けてよかったのかい?」

 「何かまずいことあったか?俺は楽な仕事だと思って聞いていたけどよ」

 「・・何か隠している事が、まだありそうな感じだったな・・」

 「そうね、でも報酬はいいし、ボーナスもでる。敵が多少手強くても、ワタシ達なら問題ないでしょ?」


 「・・依頼は、宝剣の回収だったと思うが・・」

 「なに言ってるのよ、戦力を剥げば剥ぐだけボーナスがでるのよ。全滅させるわよ、全滅、いいわね?」

 他の3人は肩を竦めて承諾した・・


 「アイスオークの親指1つにつき、金貨1枚とか、ボーナスステージもいいところよね!」




 「へぶしっ」

 「キュキュ?」

 「いや、大丈夫だ。ちょっと悪寒がしただけだで、風邪とかじゃないだ・・」


 



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