護送部隊出撃
フィッシュボーン地下の地底湖にて
地下水道の途中で難破した最後の脱出用潜水艦を、凍結電撃ウナギチームは交代制で警備についていた。 現在はカティとメイが補給のために地底湖に戻ってきていた。その2体に曳航用の投網を預けて、待機中のミコトとスケルトン部隊に合流して、こちらに移送してもらうことにした。
「外からノックすると、浮上し始めるかもしれないから、そのまま網ですくって、運んで来て」
「「ピュイ!」」
元気良く答えた2体は、畳んだ鉄製の投網を背中に縛り付けてもらうと、速度をあわせながら地下水道へと潜っていった。
搬出を手伝っていたハクジャが、心配そうに話し掛けてくる。
「マスター様、現地で、指揮を取る者がいなくて平気ですかな、ジャジャ」
「あれで、ミコト達も器用だからね、なんとかしてくれると思うよ」
それより心配なのは、脱出艇の中のドワーフのマンガンさんが、パニックになって無茶な行動を取らないかが心配なんだよね・・
「やはり誰かつけた方が良かったのでは? いざというとき会話もできますし、ジャー」
問題は沈んでいる場所が、ここから水中を丸1日移動した先だってことなんだよね。半水棲でも厳しいんだ、地下水道の途中に空気穴とかないので・・・
「スケルトンですと、逆に怯えませんか?・・ジャー」
一応、こちらが救助の目的で来てることを知らせるために、ハンマーと肉球の焼印を捺した、三角形のペナントを2体の尾に縛った釣り糸から垂らしてみたんだけど・・
「アエン殿の話ですと、外部はほとんど視認できないそうですから・・ジャジャ」
前方を覗ける小窓があるだけで、あとは音で状況を判断するつくりだったらしい。小窓が床か壁に接地していたら、外の様子はほとんどわからないと思う。
そこへ若い衆が伝令でやってきた。
「大頭様、『不凍湖の龍』の頭と客人のドワーフ殿が見えました、ジャー」
え?リュウジャ本人が来たの?
「へい、上のエントランスホールでお待ちです。お供に若いのが3人と、幹部がお一方付いて来てます、ジャー」
「あ、すぐ行くから、はと麦茶でも出しておいて」
「了解しました、ジャー」
若い衆は、傍の女性にお茶の準備を頼むと、自分は伝令として玄関ホールへと戻っていった。
「ハクジャには同席してもらうとして、アエンはどこに居たっけ?」
「マスター様、アエン殿は護送部隊に同道して、先ほど北へ旅立たれました、ジャー」
あ、そうだったね。僕は今朝の出立の模様を思い返してみた・・・
「総勢が102名で、荷車が14台ですか・・」
アエンが難しそうな顔で、何かを考え込んでいた。
「ドワーフって馬車とかないの?」
開拓移民だと、幌馬車を連ねて移動するイメージが強かったのだけれど・・
「ああ、もちろん荷車というのは通称で、ちゃんとした鋼鉄製の16輪装甲車ですよ」
「それ、荷車って言わないっすよね」
ワタリが皆を代表して突っ込みをいれてくれた。
「戦闘用車両だと、バリスタとか連射式重クロスボウとかが搭載されていて、機動も牛型鋼鉄ゴーレムが牽引するんですが、クランの防衛戦で全部破壊されてしまったようですね・・」
なるほど、輸送にしか使えないから「荷車」なんだね・・
「荷車は何で牽くっすか?」
「基本はジャイアント・アルマジロですね。全長3mぐらいの4足歩行の大型獣です。家畜として飼っていて、普段は農耕とか採掘した鉱石の運搬などに利用しています」
馬や牛でなくて、 アルマジロなんだ・・・
「地下道を上り下りしますからね。あと雑食なので、牧草地が必要ありません」
なるほどね、防御力も硬そうだし、装甲車を牽くにはうってつけかな・・
「移動速度はどうなんすか?」
「そこが難点で、牽引力はジャイアント・アルマジロ1頭で、馬2・5頭分あるのですが、速度は半分に届かないですね」
まあ、長距離移動なら最高速度はあまり気にならないだろうけどね・・
「荷車は、通常は1頭牽きで、乗員が8名~10名。それ以外に食料飲料水、武器装備、酒樽ぐらいまでを積んで、1日に荒地を25km走破できます」
ある意味、動く要塞だね・・移動速度は歩くのと変わりないけど・・
なんにせよ、防御力に余裕があるから、なんとか連れて帰ってこれそうだね。
「了解、これより護送部隊の編成を発表します」
『あてんしょん』
「第一機動部隊はストームタスカー3体にタスクライダー3名、同乗者にワタリ、アズサ、シナノ。リーダーはアップルが担当して」
「ギャギャ(拝命します)」
「ういっす」
「グヒィグヒィ」
「第二機動部隊は、アイス・ドレイク3体にベニジャとフロストリザード・エリート2名、同乗者にツンドラエルフ親衛隊から、小隊長、クレリック、ソーサラーの3名。リーダーはベニジャが担当して」
「うちのチームが連れていけないのが残念だけど、しゃーねえーな、ジャジャ」
「できればタスカーに乗りたかったであります・・」
「シャーシャー」
「第三機動部隊は、狼チーム5体全員、リーダーはケン」
「バウバウ」
「各機動部隊は、全速でドワーフ鉱山まで移動して、現地でドワーフの移民団と合流。護衛をしつつヘラジカの湖を目指して」
「直接、ここじゃダメなんすか?」
「全部は受け入れる場所もないし、東に行く集団は、これ以上南下すると遠回りだからね」
「了解っす」
「ギャギャ(食料などの補給はどこで?)」
「機動部隊には往復にかかる日数分の食料を携帯してもらうけど、それ以外にも2箇所、中継地点をつくっておくから、そこで受け渡ししてもらって」
「ギャギャ(了解しました)」
「あのー、私も同行して良いでしょうか・・」
アエンがおずおずと尋ねてきた。
「アエンには第二陣で補給ポイントの移設に参加してもらおうと思っていたんだけど、どう?」
先発の機動部隊は、かなりの強行軍になる。その為に人員は最小限だし、戦闘能力の高いチームでまとめてみた。アエンには戦闘力は、ほぼないから、候補者からははずしたんだけど・・・
「たぶん、私たち脱出者の誰かが直接行って話しかけないと、色々問題がでてくると思うんです。ニッケルだと逆に悪いほうにこじれるし、タングステンさんは、あちらの受け入れ準備で忙しいでしょう。なら、私が適任かなって・・」
確かにそうかもね・・
「強行軍できついけど、大丈夫?」
「頑張ります」
「ギャギャ(じゃあ私と代わりましょう。ストームタスカーの方が乗り易いですからね)」
アズサが席を譲ってくれたので、アエンが第一機動部隊に同行することに決まった。
「機動部隊が全速を出せば、3日で山脈の麓まではたどり着けると思う。途中の沼は大きく迂回して、蜘蛛の哨戒エリアに入らないように注意して」
「ギャギャ(了解しました)」
「じゃあ、皆、気をつけて行ってきて」
『ぼんぼやーじゅ』
そうして、護送部隊の第一陣は出発していった・・・




