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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第10章 ドワーフキャラバン編
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裏切りの報酬

  ビスコ村冒険者ギルドにて


 4人組の冒険者達が、依頼掲示板の前で腕組みをしながら、相談していた。

 「さて、ギルドへの報告も終わって、報酬ももらったし、装備も一新できた。次はどこへ行く?」

 新品の黒鋼の鎧に身を包んだ、屈強な戦士が、仲間に尋ねた。


 「そうだな・・予定通りに北へ向かうか・・」

 軽装鎧を着込んだ、斥侯タイプの男が答える・・

 「アタシは、このエルフの貴族の依頼が、報酬が高そうで、気になってるんだ」

 黒鋼の胸当てをした長身の女性剣士が、依頼の1つを指差した。

 

 「どれよ、ふーーん、行方不明の長男の捜索と所持品の回収か・・ちょっと面倒だけど、金払いはよさそうよね」

 一番背が低いのに、態度は一番偉そうな、女魔術師が頷いた。


 「いいわ、これにしましょう。依頼人のレッドベリー家とやらに会いにいきましょ。場所はこの村の高級な方の宿屋ね」

 そういって、依頼票を剥ぎ取ると、ギルドの窓口へ歩み寄って、カウンターに依頼票を叩きつけた・・


 「この依頼、『虚無の魔法兵団』が受けてあげるわ!」



 依頼を受けた4人組が、ギルドを出ようとしたとき、逆に入ろうとした冒険者とぶつかりそうになった。

 「ちょっと、良く前を見て歩きなさいよね!」

 女魔術師が文句を言うと、向こうからも文句が返ってきた。


 「なによ、お互いさまでしょ、そっちが避ければすむことじゃない!」

 いきり立つ仲間を、他の3人が宥め始める。

 「おい、ビビアン、入り口でもめてると、受付嬢ににらまれるぞ・・」

 「そうそう、こっちは急ぎの用件じゃないわけだ、もっと太っ腹でいこうぜ」

 「8人がすれ違うには、ちょいと狭いさね、ここは」


 女性二人に男性二人、なにやら構成の似通った冒険者パーティーが、すれ違っていった・・

 

 「何よ、あのパチモン臭い連中は・・・」


 ビビアンと魔法兵団の女魔術師は、まったく同じことをお互いに呟いていた・・

 


 ビビアン達がギルドに入ると、奥から丁度、件の受付嬢が姿を現した。

 「ねえ、さっき変な4人組とすれ違ったんだけど、あいつら何者よ?」

 受付嬢は、いきなりな質問にも、冷静に答えてくれた。


 「遠目にしか見えませんでしたが、たぶん、最近、王都からやってきた冒険者グループですね。名前は確か『虚無の魔法兵団』だったと」

 「はっ、名前だけはご大層ね。実力が伴ってればいいけど」


 先の邪神教徒との戦いで、4人は全員が8Lvに到達していた。特にビビアンは、もう少しで9Lvに届こうかという戦果をあげている。鼻息も荒くなるのも仕方ないところだ・・

 「魔法兵団のトップはLvが二桁だと聞いていますが・・」

 「そ、そう、まあ10Lvでも二桁よね・・」

 いきなり気弱になるビビアンを、スタッチとソニアがニヤニヤ見守っている。


 「他人は他人だ、俺達はゆっくり行くさ・・」

 ハスキーが、ビビアンをフォローすると、受付嬢に尋ねた。

 「指名依頼があると聞いて、来たんだが、詳しい話をしてもらえるかな・・」


 受付嬢の眼がキラリと光った。

 「それでは奥の会議室へどうぞ」



 「黒衣の沼だって?」

 「そうです、ここから北に5日ほど離れた、侵入禁止区域に指定された場所です」

 「おいおい、穏やかじゃねえな、なんでそんな場所へ行く必要があるんだよ?」

 スタッチが、ある意味まっとうな意見を返す。


 「黒衣の沼の周囲で、レッドバック・ウィドウの活動が活発になっているという報告が入りました。もしこれが60年に一度の大繁殖の前兆であるならば、この村にも影響が及ぶ可能性があります」

 「それを確かめて来いと?・・」

 ハスキーの問いに、受付嬢が頷いた。


 「かなり危険な任務になります。ベテラン冒険者でも、あまり寄り付かない地域ですし、対象が猛毒を保有する上に、数が多いです。討伐依頼ではありませんが、偵察といえども捕捉されると命にかかわります。無理だと思ったら、断っていただいて結構です」

 「最近そんな依頼ばかりだけど、このギルドはそんなに人手不足なのかい?」

 ソニアが、前回の聖堂騎士団の案内を思い浮かべながら、探りを入れている。


 「中級クラスが出払っているのは確かです。邪神教団の顛末の報告で王都に伝令を頼んだり、フロストリザードマンの部族抗争の監視に人手が取られました。ただし、この件を依頼するにあたって最適任と思われたのが、貴女方だったのも事実です」


 「ふふん、煽てたって、簡単には乗らないわよ」

 すでに半分、乗せられているビビアンを、ハスキーが押し止める。

 「そう判断した根拠を聞かせてもらえるか?」


 「いいでしょう・・一定のLVに到達しているのは大前提として、索敵能力を有した少人数パーティーであること。北方に土地勘があること。そしてこれが一番重要ですが、生存能力が高いことですね」

 それを聞いてハスキーが複雑な顔をした。

 「北に土地勘ができたのは、何度も身包み剥がされて逃げてきたからだけどな・・・あと、人数が少ないのは利点なのか?」


 「今回の場合は、徒らに人数がいても無意味です。発見される可能性が増えますし、戦闘になってしまったら、レッドバック・ウィドウは仲間に助けを求める習性があります。戦闘が長引けば、あっという間に囲まれて毒牙の餌食ですね」

 「なるほど、少数精鋭で、基本は隠れて行動するしかないか・・」

 「それでも、交戦が避けられないときは、瞬殺するだけの戦闘火力が必要になります。それらの条件を満たしているのが、貴方方というわけです」


 「それで、報酬は弾んでくれるんでしょうね?」

 「おい、ビビアン、無理はやめようぜ、この依頼は毒消しの呪文が使えるクレリックがいないと危険過ぎるだろ」

 乗り気なビビアンをスタッチが引き止めた。


 「あたしも止した方が良いと思うさね」

 ソニアも危険過ぎると判断したようだ。

 「昆虫系は大量発生すると始末に負えないからね・・しかも警報持ちならなおさらさね」

 一度、蜂系のモンスターに手を出して、死にそうな目にあったらしい。


 しかし、いつもは一番慎重なハスキーが、反対意見を出さずに何か考え込んでいた。

 その様子を見たビビアンが、代わりに受付嬢に尋ねた。


 「この依頼、アタシ達が断ったとして、代役のあてはあるの?」

 受付嬢は静かに首を振った。

 「あとは六つ子ぐらいしか適任者がいないのですが、彼らはここしばらくギルドには顔を出していないので・・」

 後遺症の残ったメンバーの治療に、遠くの街に行ったという噂も聞えている。帰還を待っている時間はなかった・・


 「・・前回の大繁殖では、この村も襲われて緊急依頼が出たわよね・・今度もその可能性が高いというわけね・・ハスキーもそれを心配してるんでしょ?」

 ビビアンの言葉に、ハスキーは驚いたように、彼女の顔を見つめた。


 「ビビアン・・60年前の大繁殖を知っているのか?・・」

 ハーフエルフの寿命は、エルフの半分と言われている。平均で500年ほどだ。そして成人してからはその姿はほとんど老化しない・・・


 「ば、ばか言わないでよ、アタシはまだ16年しか生きてないんだから。母親から聞いていただけなんだからね!」

 顔を真っ赤にして反論するビビアンの横で、スタッチが椅子を蹴り立てて立ち上がった。


 「成人しているだと!!」


 次の瞬間、ソニアとビビアンに叩かれて、机に顔面を激突させることになった・・



 「緊急依頼になれば、結局は戦うことになる・・ならばその芽を摘むために動く方が賢明か・・」

 ハスキーの言葉に、ビビアンとソニアが頷いた。

 「この依頼、受けよう・・」


 「ギルドを代表して感謝します」

 受付嬢が3人に対して頭を下げた。


 

 




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