閑話休題
この話は、工事中だった306話の差し替えになります。
このお話は、『胡蝶の明晰夢』の後日談です。
「ういっす、ニンジャ・マスターも間近のワタリっす」
「まあ順調に進化はしてるけどね・・油断するとまたトリックスターとかに寄り道することになりそうだよ」
「それは勘弁っすね」
「アズサもくノ一には成れなかったしね」
「ギャギャ(まだ可能性はあるはずです・・)」
「で?二人揃って今日は何?」
「ギャギャ(前回のスキャンの結果でお伺いしたことが)」
「ざっくり流されたっすけど、新スキルとか説明受けてないっすよ」
ああ、コアが酔ってスキャンを乱れ打ちしたやつね。確かに上映終了後のテロップのように流れていったねえ・・
ちょっと再確認してみようかな。
「アズサとアサマは、ランクが上がってデスブリンガーになってるね」
「ギャギャ(新技能の弱点看破が良くわからないんですが・・)」
「オイラにも付いたっすけど、特に敵の苦手な攻撃属性とかは、思い浮かばないっす」
ああ、本当だ、ワタリにも新技能で増えているね・・
弱点看破は、相手の防御の薄い所や、急所を見抜く技能みたいだ。クリティカル・ヒットの確率を上昇させる様だから、技能の「クリティカル」の上位版なんだろうね。
「なるほど、だから特に効果が現れた気がしなかったっすね」
「ギャギャ(そういえば、クリティカルヒットが出やすくなった気がします)」
次に・・テオは、ハイレンジャーになったのか・・
「ギャギャ(1ランクで2個も増えるってありなんですか?)」
「そうっすよ、技能が9個とかずるいっす」
「ギャギャ(ワタリさんは10個ありますけどね・・)」
「オイラは・・ニンジャっすから・・」
「ギャギャ(ずるいです・・)」
えっと・・技能の数については僕も予測しか出来ないんだけれど、基本はランクと同じみたい。
「ギャギャ(なるほど)」
それで、クラスによっては、増減するものもあると・・
「減ったりするっすか?」
術者系は、減ってるクラスがあるね。きっと呪文を習得するのに、技能の枠も使ってる扱いなんだと思う。
「へー、知らなかったっす・・」
逆にローグ系アサシン系レンジャー系は、ボーナスなのか一つ枠が多いね。
「ギャギャ(私はランク6で技能が7つです)」
それらの上級職で、特技は増えないけど技能が2つ増えるタイプがあるみたい。
「それがオイラのニンジャ・アサシンとテオのハイレンジャーっすね」
最後に、カスタム(召喚時の付与)とスペシャル(個人の資質もしくは通信教育)で増えた分は別枠です。
「オイラの共通語とか、テオのハリネズミ語っすね」
「ギャギャ(後からカスタムで技能は増やしてもらえないんですか?)」
無理みたいだね。あくまでカスタムは召喚時のみのボーナスかな・・
「ギャギャ(どこかでくノ一の通信講座を開催していないでしょうか・・)」
いや、それはどこにもないと思うけど・・
「あと、穴熊チームが首を捻っていたっすけど、特技の横回転って、縦回転とどう違うっすか?」
ああ、あれね、横回転は使用MPが1少なくて、草刈とか森林伐採に役立つみたい。
「ギャギャ(便利系なんですね・・)」
元々、横回転から派生したのが縦回転だからね。やんまー達に教えた順序が逆だったんだよ。
「縦回転の方が強いっすか?」
回転速度に重力が加算されて、打ち下ろす牙に体重が乗るかららしいけど、実際はどうなんだろうね・・
ちなみに技能の双撃は、両方の爪で同時に襲いかかる、双剣の獣バージョンだ。
「穴熊チームも3匹は巨大化したし、すっかり戦闘職っすね」
あれで、ノーミンがブーストすると2倍ぐらい強くなるからね・・
「ギャギャ(ますます負けてられません・・)」
いや、眷属同士で競わなくてもね・・
「アズにゃんは、穴熊チルドレンに、アイドルの座を奪われたから、意識しているっす」
「ギャギャ・・(どうやらワタリさんは、またクロスボウの的になりたいみたいですね・・)」
「うそうそっす、アズにゃんは、まだ賞味期限切れじゃないっすよ、マジで」
「ギャギャ・・(まだって事は、近いって思ってるんですよね・・)」
「ヘルプ、ヘルプっす・・」
遠くから、射撃音と悲鳴が響き渡ってきた・・・
・・ワタリも鳴かずば、撃たれまいに・・
『なむなむ』
ある夏の夜の女子会
ある日の夜、カジャが発案して、納涼百物語が催された。
まあ、ダンジョン内は、コアが室温調整しているので、年中適温なのだけれど、そこは雰囲気を楽しみたいらしい。
わざと蒸し暑くした部屋を用意して、女子だけでお泊り会をしていたようだ。
参加者は、カジャ、ベニジャ、アエン、ヘラ、アズサ、ロザリオ、コアの7人である・・
ロザリオが混じっている時点で、すでに3話ぐらい語り終わっているような気もしないではないが、そこはあえて言わないでおこう・・
蝋燭の数が足りなかったので、灯りは、小皿に大豆油を溜めて、灯心だけ差した行灯形式になった。
数も、百も作るのは面倒だからと半分以下に減らされている。
まあ、一晩で百話は、徹夜でもしないと難しいだろうから、実際には何人かが寝落ちするまでのお遊びである・・・
最初は発案者のカジャから話を始めた。
「これはメイド仲間から聞いた話なんですが・・」
カジャが語ったのは、ある人族の領主の後妻になったエルフの令嬢の物語であった。
「その領主は、以前に6人の妻がいたそうで・・」
「やばい、やばい、もう7人目ってだけで、やばいってわかるだろう、ジャジャ」
「ギャギャ(ぜったいに殺されてますよね、前の6人)」
「しかし何故、エルフの里から領主に嫁ぐのだ?しかも訳有りの人族へなど・・長老会の差し金か?」
「少し静かに聴いて下さい・・」
カジャが騒ぎ立てる3人を睨んだ・・
「「「はい・・」」」
その時、確かに室温が2度は下がったと、参加者は口々に証言してる。
やがて物語りは佳境に差し掛かり、ぜったいに開けてはいけないと言われていた、廊下の突き当たりの扉を、エルフの令嬢がノックの呪文で開けてしまう・・
「呪文かよ!ジャジャ」
「ギャギャ(彼女は鍵開けの技能が無かったんですか?)」
「木の扉なら、蹴破れるぞ」
今度は、カジャの話に聞き入っていた、残りの3人から冷たい視線が突き刺さった。
「「「ごめんなさい」」」
気を取り直したカジャが、物語を進める・・
「呪文によって開け放たれた扉の奥には・・」
ゴクリ と誰かが固唾を飲み込む音が響いた・・
「6体の前妻の蝋人形が、椅子に腰掛けて、こちらを虚ろな目で見ていたという話です・・」
「「「やっぱり・・」」」
「そしてその蝋人形の出来映えに感動した、エルフの令嬢は、自分の姿を模した人形を特注し・・」
「あれれ?」
「人形愛好家の領主と、中睦まじく暮らしました・・・」
「なんか良い話になってるんですけど・・」
灯明の灯りを一つ吹き消したカジャに質問が乱れ飛んだ。
「結局、6人の前妻は?ジャジャ」
「病弱だったり、馬車の事故で亡くなったりしただけだそうです」
「ギャギャ(じゃあなんで扉を開けるなと)」
「蝋人形は、室温の変化に弱いので、夏の間は開放厳禁だそうです」
「人形の中に死体が隠されているとか、生きている内に塗りこめたとかないのか?」
「いえ、まったく・・」
「なら、この話のどこが怪談なのだ?」
ロザリオの質問に、周りの皆も頷きながらカジャを見た。
「そのエルフ令嬢は、長命種として、領主より長生きし、彼が死んだときに、その蝋人形を手作りしたそうです・・」
「「「まさか・・」」」
「その後、新たな領主となったエルフの令嬢の屋敷では、行方不明になるメイド、庭師、執事が後を絶たず、それに呼応するように、廊下の開かずの扉が増えていったという・・・」
「そっちかーー」x7
カジャの巧みな話術で引き込まれた、メンバーは、次々と自慢の怪談話を披露していった。
コアは主に、空中に投影した幽霊の映像だったけれども・・
やがて2回りほど話し手が巡った所で、百物語は終わることになった。
だが・・
「ねえ、消された灯明の数が合わなくない?」
「誰かが間違えて消したんだろ、ジャー」
「それはない、私が数えていたからな、消したのは話と同じ、16だ・・・ん?」
メンバーはお互いに顔を見合わせた・・
「1・2・・7人だよな、ジャジャ・・」
「でも、カジャさんの最初の話のとき・・7人が相槌打ちましたよね・・」
「私は話手ですから・・」
カジャは勿論否定した。
その時、部屋の隅に、透明な何かが横切った・・
「「「でたああーーー」」」
本物が出たと騒ぐ女子会のメンバーを置き去りにして、透明な何かは壁をすり抜けて立ち去っていった。
『メイドの話と聞いて、つい立ち寄ってしまいました・・反省ですね』
彼女が姿を現すのは、もう少し後の話になる・・・




