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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第10章 ドワーフキャラバン編
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明日へ向かって

 大陸の北壁と呼ばれるポッキー山脈の中腹に、「鍛冶場の番人」と呼ばれるドワーフのクランがあった。

彼らは他のドワーフとの交流を避け、谷の奥の鉱山にひっそりと隠れるように住み着いていた。

 彼らが番をする鍛冶場とは、鉱山の奥底に眠る古代帝国の遺産だと噂されている。その魔力を秘めた巨大な鍛冶場で、彼らの先祖は、帝国の秘宝を鋳造していたのだという・・

 やがて古代帝国が力を失い、幾つにも分裂して、滅んでいく中、その鍛冶場も閉鎖され、技術者の何人かがその見張り番を努める役目を請け負った。それが「鍛冶場の番人フォージキーパー」の由来だと語り伝えられている・・・


 しかしそのクランにも終焉の時がやってきた。

 クランの守備兵を蹴散らし、守護ゴーレムを粉砕していったのは、炎と氷を操る双子の魔女であったという・・

 魔女達は、鉱山を占領すると、捕虜にしたドワーフ達に、伝説の鍛冶場を稼動させるように命令を下した。しかし、逃げ遅れた者達の中には、その秘密を知るものは含まれてはいなかった。

 なぜなら、クランの長老が、逸早く地下水脈を使って重要な者たちを脱出させたからであった・・


 激怒した姉妹は、逃げたクランメンバーを追撃したが、彼らの何人かは、南の湖沼地帯までたどり着くことが出来た。

 その地で、逃亡者の要請を受けた協力者が、魔女と武力交渉を行い、その結果、占領下のドワーフ達に2つの選択枝が与えられた・・・


 曰く、「ここに残るか、どこかに移住するか」である。



 「いったい、どういうことじゃ、魔女が我らを解放するなどと・・」

 長老の一人が困惑しながら呟いた。

 「だから、逃げた者がうまくやったということじゃろ、なんにせよ、これはチャンスじゃ。逃げ出す仕度を始めようぞ」

 もう一人の長老が、他のドワーフに発破をかける。


 「逃げ出して、どこに行く・・行った先でも隷属させられるなら、ここに居た方がましじゃて・・」

 足に重傷を負った長老が、力なく嘆いた。

 「ここにいれば、いつかは殺されるんですよ、奴らの気が変わらないうちに、どこでもいいから移住しましょう!」

 若手の代表が、長老達に詰め寄った。


 「しかしのう、我等はこの地を護る為に存在しているのじゃ、ここを離れてはご先祖様に申し訳がたたん・・」

 「わしは、今の鍛冶仕事が終わるまで、どこにもいかんぞ、中途半端にできんわい」

 「酒は家財道具じゃよな?無ければ暮らしていけんのじゃから・・」



 議論は混沌として、とうてい纏まる気配を持たなかった・・

 そして最後は、最長老の一言で方針が決まった。


 「各々が、選んだ道を行けば良い・・」




 慌しく家財道具を荷車に積み込んでいるドワーフの集団があった。その中で、一際屈強そうな者が、各グループの代表の前で話をしている・・

 「俺が、今回の開拓団の団長になったモリブデンだ、よろしく頼む」

 代表の何人かが、頷いた。


 「さて、急な話で皆も困惑しているだろうが、とにかくこの機会に、魔女の影響下から逃げ出す事を優先した者達が、開拓団ということになる」

 「団長いいかね?」

 代表の一人が、意見を差し込んできた。


 「ああ、構わない、何か質問があるのかな?」

 「この開拓団に参加しても、移住先は自分達で選べるでいいんだよな?」

 「そうだ、南に移住を希望した者は、それがどこであれ、魔女の影響下からは逃れられる。そういう話だ」

 するともう一人が質問をしてきた。

 「俺達を解き放っておいて、後から狩りを楽しむように魔女が追ってくるということはないのか?」


 「その議論はし尽くしたはずだ。答えは、『やってみなければわからん』だ。魔女の気紛れだろうと、何らかの圧力が働いた結果であろうと、これを千載一遇のチャンスと判断した者の集団が、ここに集まったのだと思っていたが、違うのか?」

 逆に団長に聞き返されて、質問した者は答えにつまる・・


 「他にもいろいろ不安に思っている者も多いと思う。移住を希望したのは、半数に満たないということでもわかる通り、これは賭けだ。だが、俺は座して死を待つより、自分の手で未来を切り開くことを選択したい。それに賛同出来る者だけ、ついてきてくれれば良い」

 団長の力強い言葉に、ほとんどの者が頷き返した。


 「目的地は3つ、オークの丘の地下墓地、フロストリザードマンの居住地、チロル渓谷の竪穴だ」

 「あの・・アエンが用意してくれた引き受け先はどこでしょうか?・・」

 片隅にいた女性の一人が、おずおずと聞いてきた。


 「確かオークの丘だったと思う。どちらにしろ途中までは、道は同じだがな。アエンに合流を希望する者は、『オークの丘』と表示された荷車に乗り込んでおいてくれ」

 「あ、はい、わかりました・・」


 「荷車は幌付きの物を優先してあるはずだ、1台につき8人ずつ分乗してくれ。家族は出来るだけ集まっていること。最悪、荷車どうしが分断されることも覚悟しておいてくれ。その場合は、それぞれの代表の指示に従って行動すること」

 団長が旅程の注意事項を繰り返し伝えている。

 その間にも、新たに移住を決意した者と、悩んだ末に居残りを選んだ者とが、入れ替わっていた・・


 「・・武器と食料、水と酒は忘れないように。季節は初秋だから、野宿でも凍死することはない、それより注意すべきは・・・」


 団長の説明は、終わる気配をみせなかった・・・



 そして、どこにでも騒ぎを起こす者は存在した・・


 「なぜ、私が移住を許可されないのですか?」

 ごてごてに着飾ったドワーフの貴族らしき女性が、サハギンの魔術師と口論をしていた。

 「ですから、許可されているのは家財道具のみです。その鞄に詰め込んだ大量の宝石は持ち出しを認められません。それを置いていけば移住は問題ないです」

 「たかが魔女の下僕の分際で、この私に意見するとは無礼でありましょう!」

 「貴女が誰だかに興味はありません。その鞄の中身は、このクランの宝物庫から運び出されたものです。個人の家財とはとうてい認められません」


 「はっ、何を言うかと思えば・・良くお聞きなさい、我がジュエルブラザー家は『鍛冶場の番人』創設以来の名家であり、代々、クランの主導者を輩出してきたのですよ。言ってみれば、このクランと我家は一蓮托生、クランの財産は我家の財産も同じです」

 「そう主張する人物が、あと3名ほど存在しましたが、彼らの意見はまた、違ったものでしたが?」

 「あんな、エセ貴族と我がジュエルブラザー家を同じに見ることなど許しませんよ。とにかく、これは私の正当な取り分です。ですからそこをどきなさい!」


 無理矢理押し通ろうとするドワーフを、背後に待機していたサハギン・ウォーリアーが拘束した。

 「所持品を確保して、例の部屋に連れて行け。これもダメな部類だ・・」

 「離しなさい!この高貴なる私に触れるとは何事ですか!ええい、汚らわしい、半魚人の分際で、無礼であろう!」

 サハギンの戦士に両脇から抱えられて、ドワーフの女貴族は退場していった・・・


 「よし、次!」


 「ああ、君はちょっとした臨時収入に興味はないかね・・今なら破格の報酬を約束しよう。なに、私の持ち物検査に少しだけ手心を加えるだけの簡単な・・」


 「・・連れて行け」


 持ち物検査の列は、まだ長く続いていた・・・





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